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VRゲームだと思って始めたら、ガチの宇宙戦争だった件について  作者: KEINO


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第9話

 両手に宿った凶悪な重量感が、俺のゲーマー魂をこれでもかと刺激していた。

 右手の高周波ブレード『村雨』、左手のリボルバーカノン『オーガ・イーター』。

 どちらも一癖も二癖もありそうなユニーク・ウェポンだ。

 だが、今の俺――いや、『ナイトハウンド』ならば、これらを指先の一つであるかのように扱える確信がある。


「……たまらないな。この感じ」


 俺が機体のセンサー越しに武器の感触を味わっていると、背後からコツコツと足音が近づいてきた。

 振り返ると、ユイが銀色のトレイを持っている。


「義体と武装は揃いましたね、アキトさん。ですが……今のままでは、それはただの道具に過ぎません」

 

 ユイの言う通りだ。

 この武器をどう扱えばいいのかという「作法」が、俺の知識にはない。


 ユイは銀色のトレイを差し出した。

 そこには、三枚の薄いプレートが整然と並べられている。

 以前、ジャンクハウンドに差しこまれた、あのチップとは違う。

 透き通るようなサファイアブルーの光沢を放つ、正規認証品のスキルチップのようだ。


「それを扱うための『ソフト』……つまり、戦うための技術をインストールする必要があります」


 ユイが一つずつ、丁寧に説明を始めた。


「まず左端の一枚。これは『戦術解析』です。視界に捉えた対象の構造、脅威度、装備の劣化状態などをリアルタイムで解析し、HUDに表示します」


 俺は思わず口元を緩めた。

 いわゆる鑑定スキル。

 RPGにおいてもFPSにおいても、情報アドバンテージは何よりも優先される。

 敵のHPバーが見えるかどうかで、戦術の組み立ては雲泥の差になるからだ。


「次に中央の一枚。『近接射撃複合術』。ナイトハウンドなどの高機動戦闘に特化した、戦闘アルゴリズムです。剣戟の合間にゼロ距離射撃を織り交ぜ、回避行動そのものを攻撃へと転化させる……いわば、舞うように戦うためのプログラムですね」


「まるで、ガン=カタだな。ロマンの塊で実に好みだ」


 近接戦闘において、銃と剣を同時に操る。

 操作難易度が高すぎて普通のプレイヤーなら敬遠するスタイルだが、俺は好きだ。

 なにより、ビジュアル的に最高にかっこいい。


「そして最後の一枚が、『宇宙連合軍汎用戦闘プログラム』です。これは基礎中の基礎。遮蔽物の利用方法、制圧射撃のセオリー、部隊連携のプロトコルなど、歩兵としての基本動作を網羅した教本となります」


 ユイの説明を聞き終え、俺は三枚のチップを手に取った。


「基礎から応用、それに鑑定まで。至れり尽くせりだな」


 まさに『初期装備セット』としては完璧なラインナップだ。

 こうして段階を踏んで強化されていく過程こそが、ゲームの醍醐味というものだ。


「ありがたく使わせてもらうよ」


 俺はチップを摘まみ上げると、ナイトハウンドの首筋へと手を伸ばした。



     ***



   視界の端にウィンドウを表示させ、外部接続モードへと移行する。

 俺は首筋の装甲板、その継ぎ目を指先でなぞった。


 プシューッ……。


 微かな排気音と共に装甲がスライドし、神経接続ポートが露わになる。

 生身の人間ならば、首にプラグを差すなど正気の沙汰ではないが、今の俺は全身が機械だ。  

 躊躇はない。


 一枚目、『戦術解析』。

 チップをスロットに差し込む。

 カチリ、という小気味よい音が響いた瞬間。


「……ッ!」


 視界に、一瞬だけログが流れた。

 だが、すぐに晴れる。

 そして次の瞬間、世界が変わった。


 目の前にいるユイの姿。

 彼女の周囲に、半透明の緑色の枠が表示され、滝のような文字列が流れ落ちる。

 

 『個体名:アマミヤ・ユイ』

 『所属:アマミヤ』

 『状態:非武装』

 

 それだけではない。

 床の材質、壁の厚み、空気中の酸素濃度。

 意識を向けた箇所全ての情報が、ポップアップウィンドウとして視界に浮かび上がる。

 これだ。

 俺が求めていた「ゲーム的な視覚情報」。

 今まで感覚だけで処理していた情報が、数値として可視化される快感。


 「インストール……完了。次だ」


 俺は興奮を抑えつつ、二枚目と三枚目のチップを同時に差し込んだ。

 『近接射撃複合術』と『汎用戦闘プログラム』。


 脳髄をハンマーで殴られたような衝撃。

 だが、それは痛みではなかった。

 圧倒的な質量の「経験」が、濁流となって流れ込んでくる感覚だ。


 俺はリアルな戦場を知らない。

 銃の撃ち方など、所詮ゲームの操作としてしか知らない。

 剣の振り方など、映画のアクションシーンの真似事でしかない。


 だが、データが脳に焼き付けられていくにつれ、その「素人の感覚」が塗り替えられていく。

 数千回、数万回の射撃訓練の記憶。

 戦場を駆け回り、蓄積されたデータの数々。

 至近距離で敵の攻撃を紙一重でかわし、カウンターを叩き込むタイミング。

 銃のリコイル制御、マガジンチェンジの手順、剣の重心移動。


 それら全てが、あたかも「俺自身が何年もかけて培ってきた技術」であるかのように、神経の奥深くへと定着していく。

 テキストデータを読むのではない。

 感覚そのものが書き換えられる。


 『スキル習得:戦術解析――完了』

 『スキル習得:近接射撃複合術――完了』

 『戦闘データベース更新:完了――システム最適化終了』


 システムログが流れると同時に、身体がふわりと軽くなった気がした。

 俺は、左手のリボルバーカノン『オーガ・イーター』を握り直した。

 先ほどまでは「重い鉄の塊」だった。

 だが今は、「腕の延長」だ。

 どの角度で構えれば最も速く照準が定まるか、理解している。


 右手の『村雨』を軽く振る。

 手首の返し、肘の角度、足の踏み込み。

 すべてが無駄なくスムーズに連動する。


「……凄いな」


 俺は自分の手を見つめ、震えるような全能感に酔いしれた。

 操作を入力してから動くのではない。


「こう動きたい」と願うだけで、達人の動きが出力される。

 これが、スキルインストール。

 ただの一般人が、一瞬にして歴戦の戦士へとクラスチェンジする魔法の儀式。


 アバターの性能は最強。

 そして今、プレイヤー自身の技量もまた、義体のスペックに追いついた。


「どうですか、アキトさん? 違和感はありませんか?」


 ユイが心配そうに覗き込んでくる。

 俺はヘルメットの下で、獰猛な笑みを浮かべた。


「ああ、最高だ。今なら、飛んでくるミサイルすら切り払える気がする」


 決して大言壮語ではない。

 脳内のシミュレーターが、すでにそのための軌道予測を開始しているのだから。



     ***



  新しいオモチャを手に入れた子供は、すぐに遊びたくなるものだ。

 そして、新しい武器や装備を手に入れたゲーマーは、すぐに試したくなる生き物だ。


 俺の視線が、工房の向こうに見える演習場の隅に積み上げられたコンクリートブロックに向く。

 あそこまで約五十メートル。

 ダッシュで接近し、スライディングしながらリボルバーカノンで三点射撃。

 反動を利用して、起き上がり様に『村雨』でブロックを一刀両断する。


 脳内でシミュレーションは完璧だ。

 所要時間、7.2秒。

 俺の脚部が、唸りを上げ始める。


 行くぞ。

 俺が地面を蹴ろうとした、その刹那。


「待て待て待て! ストップだぁ!!」


 スピーカーから、鼓膜が破れそうなほどの大音量で一ノ瀬の絶叫が響き渡った。


「……なんだよ博士。せっかくいいところだったのに」


「いいところなわけあるか! ここでその物騒な兵器をぶっ放す気か!? お前、自分が何を持ってるか分かってるのか!?」


 一ノ瀬が焦った様に武器を台へと戻すようにジェスチャーする。


「その『オーガ・イーター』は戦車の主砲みたいなもんだぞ!? 屋内で撃てば粉砕された破片でこっちが蜂の巣だ! それに『村雨』の高周波振動は、調整をミスれば床ごと外壁を切り裂く! 私の可愛い演習場を瓦礫の山にするつもりか!?」


 一ノ瀬は頭を抱え、「お前とその機体なら、コロニーに風穴を開けて全員宇宙の塵にしかねん……」とブツブツ呟いている。


 確かに、言われてみればその通りだ。

 ゲーム感覚で「ちょっと試し撃ち」をするには、この機体と武装は火力が過剰すぎる。

 フィールドの破壊可能オブジェクトのような壁もここでは命を守る生命線なのだ。


「じゃあ、どこで試せるんだ?」


 完全に戦闘モードに入っていた俺は、不満げに武器を下ろした。

 フラストレーションが溜まる。

 この有り余る力を、試してみたくて仕方がない。


「ふふ、実践は明日にしましょう、アキトさん」


 殺伐とした空気を和ませるように、ユイが苦笑しながら歩み寄ってきた。

 彼女は演習場の床、そのさらに下を指さした。


「場所は……ここではありません。このコロニーの下に広がる、『惑星N3』の地上です」


「地上……?」


「はい」


 ユイが空中にホログラム地図を展開する。

 そこには、荒涼とした大地と、点在する拠点が映し出されていた。


「それに、今回戦うのはアキトさん一人ではありません。アビスウォーカー討伐、および希少チップ回収作戦には、他にも協力者がいます。彼らは今、地上の開拓任務に従事しているんです」


「協力者? ……俺以外にも、プレイヤーがいるのか?」


「『プレイヤー』? 傭兵なので同じようなものだと思いますが……頼りになる仲間たちです。タンク役の重装義体、後方支援のスナイパー、それに輸送役。少数精鋭のチームですが、アキトさんのナイトハウンドが加われば、すごいチームになるはずです」


 仲間。

 パーティメンバー。

 その響きに、俺の胸が高鳴った。

 ソロプレイも悪くないが、こういったゲームの華といえばやはりパーティプレイだ。

 役割分担を持ち、互いの背中を預けて強大なボスに挑む。


「明日の早朝、降下シャトルで地上へ降ります。そこで彼らと合流し、ナイトハウンドの実戦テストを兼ねた連携訓練を行いましょう」


 ユイの言葉に、俺は頷いた。

 コロニー内での窮屈なテストよりも、広大な惑星の土地を使った実戦訓練。

 望むところだ。


「いいね、それは楽しみだ」


 俺は『村雨』と『オーガ・イーター』を台の上に戻した。

 武器を置くその動作一つとっても、まるで熟練の兵士のように洗練されていた。



     ***



  「今日はもう遅いですし、休息をとってください。コロニー内のゲストルームを用意しました」


 ユイに案内されたのは、工房から少し離れた居住区画の一室だった。

 殺風景だが、清潔な部屋。

 壁には備え付けのベッドと、簡易的なシャワーユニットがあるだけだ。

 生活感はないが、今の俺には高級ホテルよりも落ち着く空間だった。


 機体の整備と充電を行うため、ナイトハウンドは工房に残してきた。

 俺は硬いベッドに身を投げ出した。


「……ふぅ」


 天井を見上げ、今日一日の出来事を反芻する。

 長かった。

 そして、濃密だった。


 まさか自分が宇宙で義体に乗って暴れ回ることになるとは夢にも思っていなかった。

 退屈な日常。

 代わり映えのしない学校。

 そんな灰色の世界から、俺はいきなり極彩色のSF世界へと降り立った。


 命の危険を感じるほどのリアリティ。

 わけのわからない化け物に追いかけられた。

 普通ならトラウマものだろう。


 だが、今の俺の胸を満たしているのは、恐怖ではなく、少年のような純粋な興奮だった。


「最高の義体に、スキル……」


 右手を天井にかざす。

 このナイトハウンドとの一体感、全能感が、まだ指先に残っている。

 俺がゲームの中で追い求めていた「理想」があった。


「次は、惑星への降下か……。最高に燃える展開だな」


 明日になれば、未知の惑星での冒険が待っている。

 新たな仲間との出会い。

 そして、まだ見ぬ敵との戦い。


 俺は目を閉じた。

 興奮で冴え渡っていた神経が、急速な疲労感と共に沈静化していく。

 さすがに、情報量が多すぎて脳がオーバーヒート気味だったらしい。


 ログアウトのコマンドを名残惜しみながらも押す。

 この最高の「ゲーム」の続きが、俺を待っている。


「……おやすみ、ナイトハウンド」


 呟きと共に、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。


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