児童書『魔法使いのチョコレート・ケーキ』の美しさ
私はある種の変態で、幼い頃から母の本棚から勝手に本を抜き出して読み…というか眺め(小学校低学年時の愛読書は開高健先生の『オーパ!』シリーズ)、小学校では学年ごとに棚を決めて端から順に読み、中学校では諸事情で読書の時間が減りましたが高校へ入ってからは図書室の入り口から順に本を読み進めておりました(あげく、持ち出し禁止の部屋の本を貸し出してもらえるという栄誉にあずかりました)。
広辞苑でさえ読み物。そんな活字変態の私ですが、実はこの頃に読んだ本を内容どころかタイトルさえあまり覚えておりません(なぜか挿絵は覚えていたり)。
それでも数年に一度、ふと思い出して手に取る本があります。そのうちの一冊が表題の本。
『魔法使いのチョコレート・ケーキ』
魔法のような(というか魔法の)不思議なお話の短編集なのですが、初めて読んだ小学校低学年の時の感想が『美しい』でした。
昨今のゲームやアニメのような華々しさはありません。
けれど、短い文章の中にどことない切なさと優しさの詰まった物語たち。
清らかな輝きと文字の向こうにある色彩が美しい幻想的な物語たち。
幻想的でありながら、どこか現実から離れすぎない不思議な距離感。
この年になってもやはり何度も思い出して読みたくなるのです。
きっと私の『ものがたり』の原点はこの本なのかな、と思います。
静かで、温かで、優しい物語を描き出したい。
甘いと言われようと、読んだ後に少しでも優しい何かが残るものが書きたい。
今日もふと、数年ぶりに思い出しまして図書館に予約しました。
二百ページにもならない本の中に十作品。さらりと読めますので、機会があればぜひ、手に取ってみていただきたい一冊です。
『魔法使いのチョコレート・ケーキ』
マーガレット・マーヒー 作 石井桃子 訳 1984年初版
ニュージーランドのファンタジー、児童文学作家マーガレット・マーヒー氏の『マーガレット・マーヒーのお話集(全三巻)』から、児童文学作家で翻訳家でもある石井桃子氏が十作を選び翻訳した一冊。
皆に誤解される不器用で料理上手な魔法使いのお話である表題の『魔法使いのチョコレート・ケーキ』をはじめ、不思議なメリーゴーランドのお話『メリー・ゴウ・ラウンド』、なぜか葉っぱが着いてくる『はっぱ』等、身近にありそうな不思議や空想…幻想の小さな物語が、石井桃子氏の美しい言葉でつづられている。




