冬至のこと ~ ユールキャットと仲間たち
北欧は妖精や怪物のお話に事欠かないのですが、このユールの季節にももちろん、妖精さんや怪物たちが活躍(?)します。
そのひとり(一匹)がユールキャット。
アイスランドの民話に登場する黒猫さんですが、魔女グリーラの愛猫で相棒です。
魔女グリーラは普段は美しい湖の近くにある洞窟に旦那さんと十三人の子どもたちとユールキャットと一緒に暮らしているのですが、何をしているのかというと各地の悪い子情報を集めています。種族はトロールです。
そして冬になると悪い子供たちを片っ端から攫って袋詰めし、袋がいっぱいになったら家に連れ帰ってぐつぐつ煮てシチューにして家族みんなで美味しく食べます。次の冬までお腹が持つくらいですから……さぞかしたくさんの悪い子が攫われるのでしょう。
ということで、アイスランドでは悪い子には「グリーラに攫われるよ!」と脅しをかけるわけですね。
ちなみにですが、旦那さんのレッパルージさんは怠け者で悪い子の調査も拉致も料理も全てグリーラさん任せで洞窟でぐーたら。グリーラさんが洞窟にいるときはグリーラさんにこれでもか!とこき使われています。人間にとっては良いですが…さて、一家の長としてはどうなのでしょう。とはいえ、レッパルージさん以前にも何人か旦那さんがいたのですが全員グリーラさんの腹の足しになりましたので、レッパルージさんはうまくやっているとも言えますね。
十三人の子どもたちはユールラッズとひとまとめにされています(個別の名前もちゃんとあります)。それぞれ性格が違っていて、冬になると自分が楽しいと思う悪戯を人間のおうちに仕掛けに行きます。残っているフライパンの中身を食べるためにフライパンを盗んでみたり、鍋の中身をこっそり全て食べてみたり、扉を突然ばたん!と閉めてみたり。母が子を攫うのに対して何とみみっちい…いえ、可愛らしい悪戯なのでしょう。ある種、平和です。
そしてグリーラさんとユールラッズたちは、良い子には贈り物を置いて帰ってくれます。アイスランドではサンタクロースではなくグリーラさんと子どもたちが来るんですね。
グリーラさんは悪い子を拉致しますが、ユールラッズたちは靴下の中にジャガイモを置いて行きます。イタリアの魔女べファーナさんは良い子の靴下には贈り物、悪い子には炭を置いて行きますのでやはりグリーラさんが一番えげつないですね。
そんなグリーラさんよりとんでもないのが愛猫ユールキャットです。
愛猫ユールキャットは良い子にしていようと悪い子にしていようと何もくれません。何が悪いの?と言いますと、真冬に寒そうな格好の人がいると攫って食べます。こちらはどうも子供だけとは限らないようで、大人も食われます。持ち帰らずに自分だけでぺろりと食べます。
何だってそんな、寒そうな人は食べちゃうぞ!になったのかと申しますと、アイスランドではユールの時期に新しい防寒具を贈る習慣があります。アイスランドは寒さの厳しさが比ではありません。遅い時間に外をふらついたり、防寒具をしっかりと着こまずに外出したりなどすれば即座に命にかかわります。
ですので、防寒具をもらえるように良い子にしていなさい!というのもありますが、秋に収穫した羊毛を寒い冬までにちゃんと加工しておきなさい!という戒めでもあります。間に合わなければ防寒具が足りなくて命を落としますよ…と。
特に、農場で雇われている労働者たちには、羊毛の加工作業に参加した人たちには伝統的に新しい衣服が与えられたそうです。貧しい人たちにとってこれは本当に宝のような贈り物だったんだと思います。ユールキャットにやられないようにまじめに働けよ!という脅しでもあったのかもしれません。
そういえば、三年前から毛糸の毛布を編み始めていまだに半分です。そろそろ食われますね、私。




