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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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49/49

いってきます

 結局昨日は日が暮れるまで部室で過した。

 というより結構時間が掛かったというのが正直なところだ。


 起きたばかりでも昨日の熱気がまだ身体の中に残っているみたいに感じる。

 いや、今朝はもっともっと心が昂っている。


 アラームより先に目を醒ますとすでに良い匂いがしてくる。私よりも先にお母さんは起きていたのだろう。ベッドから抜け出してカーテンを開けると


「・・良い天気・・まぶしい・・」


 言葉にするまでもなかったけど、言いたくなる程の澄んだいろんな色が広がっている。まだどこかに夜の匂いが残っているけど、私にとっては記念すべき朝に違いない。


「さて」

 振り返ると昨夜最終チェックしたままのリュックが置いてある。スマホを見ると

「先輩、早い」

 おはよう、と一言だけのメッセージがあった。それは私が起きた時とほぼ同時刻だった。同じように一言だけの返信を済ませてから部屋を出た。


「おはようお母さん」

「おはようあやせ。良い天気で良かったね」

「うん。それよりお腹減った」

「すぐ用意するから。それとこれ」

 指差す方を見ると大きな段ボールが床に置いてあった。

「なにこれ?」

「お姉ちゃんから聞いてない?」

 そう言われて思い出す。もしかしてこれって

「そう。あんたの入学祝い。船便だったから時間が掛かったみたいね」

「船便?すっかり忘れてたんだけど」

「昨日、届いてたんだけど忙しそうだったから」


 段ボールのところまで足早に行って見てみるといろいろシールが貼られている。確かに私宛てだしお姉ちゃんの名前もローマ字と日本語で書かれていた。


「結構大きい・・一体何だろう」

「まだ時間あるでしょ」


 確かに時間にはまだまだ余裕がある。

 私は段ボールに手を掛けてしっかりと留められたテープを剥がしてゆく。すると中からまた段ボールが出てきて


「どんだけ頑丈にしてんのよ」

 文句を言いつつも期待は膨らんでゆく。私は果敢に開封に集中する。やがて見えたのは

「・・・スーツケース・・・だよね」


 ペパーミントグリーン色したスーツケースがあって箱から出してみるとまだ中に何か入っている音がする。確かめてみると同じ色をしたリュックが入っていて、さらに封筒があった。

 

 開くと先ず最初に飛び込んできたのは『合格おめでとう』と書いてあった。これも日本語と英語の両方だ。それと

「・・飛行機のチケット?」

 手紙の間から顔を覗かせている。これって・・・私はとりあえず読んだ。


『合格おめでとう。念願の高校に入って念願の部活に入部していることだと思う。このプレゼントはきっとそうなっているであろう、という予測の元、敢えて時間の掛かる船便にしたってわけ。これが手元に届く頃には多分旅に出る直前かもう出発した後だろうね。できれば出発前に届くといいんだけど。とにかく事故には気をつけていってらっしゃい。地球の裏側から祈りを込めて。

 それともう一つ。同封したチケットはいつでもいい。こっちに遊びに来たくなったら使って下さい。

 あと個人的にわがまま言ってもいいかな。眺めていないでプレゼント使ってもらえると姉としては嬉しいかな。それじゃ簡単過ぎるけどあやせとは何時だって電話でも繋がれるから何かあったら相談に乗るからね。身体に気をつけて。それと親には心配かけないように』


 読み終わってからもう一度手紙とあらためてチケットを見てみると

「いつでもって、これ期限が夏休みまでなんだけど」

 思わず笑ってみたりして。でも嬉しいな。

 このタイミングで届くなんて、もしかしてお姉ちゃんもエスパーだったりして、なんてことを思ってほっこりとした気分に浸っていると、どうやら朝ご飯が出来たみたい。

 私は手紙とプレゼントに向かって『ありがとう』ってお礼を言ってから出来上がった朝ご飯を頂くためにテーブルに向かった。


 アンプレアントに着いたのは約束の時間よりかなり早かった。

 夜はすっかり明けていたけれど、まだまだ街は眠りから覚めたばかりみたいで静かだった。通りですれ違う人はほどんどなかったし車だってあまり見かけない。ゴミ収集車が通り過ぎたくらいだ。

 見上げると薄青い空には白くて細い月が夜に置いていかれたように浮かんでいた。空気はひんやりと感じるけれど、心地良く感じる。


 カウンターにいるマスターに挨拶をして招かれるまま座ると奥から先輩が顔を出して


「おはよう。コーヒーでも飲む?」

「おはようございます。いいですね。でも時間あります?」

「この旅は時間があってないようなもんだから。時間は自分で作っていくんだ」

 確かに時間を気にするにはまだその時ではないような気がする。到着までのタイムリミットはあるかもしれないけど、道中の時間配分に関しては運任せに近い。それに今すぐ行動を起こしたところですぐに上手くいくとは限らないのだ。


「えっと、お願いします。できればうんと濃いのお願いしてもいいですか?」

 マスターはニッコリ笑って準備を始める。

 コーヒーを待っている間、スマホを見るとみんなからの連絡が入っていた。

 これから家を出る人に、今まさに旅を始めた人、凛柊先輩に至ってはすでに乗っているというから驚きである。


「みんな順調みたいだ。私達もほどほどに気合いを入れて行こうな」

「はい。みんな無事に達成できるって思ってます」


 私達も簡単に今の状況を報告すると

『一番遠いのにずいぶん余裕ね』これは部長。

『ホント。私達だってまだ一台も捕まえられないってのに』ってともりも頑張れ。

 黒川先輩に紺野先輩からも『初旅おめでとう』

 それに凛柊先輩は『私は滑り出し順調です。みんなの旅の成功祈ってます』


 みんなの言葉に元気と勇気を分けてもらいながら続きを見ていると今度はセキュリティテームからだ。きっとみんな私達よりも早くに集まっていたんだろうな。


『無事で』とたった一言は沢渡先生が書いてあって

『こっちも順調。お土産買ってきてくれよな』結城君がいて

 最後に

『みんなの安全は預かった。何も心配はいらない』相変わらず冷静というか感情がこもっていないいかにもあんたらしい書き込み。

 でもさ、ほんと心から信頼しているし、きっとこれはこれで楽しんでいると思ったら嬉しくなってきた。


「お待たせ。あやせさんのリクエスト通りうんと濃くしておいたよ」

「ありがとうございます。マスター。いただきます」

 口に近づけただけで分かる。匂いも色もいつもより濃い。おかげでなんとなくだけど香りがずっと鼻腔の奥に残っているような感覚がする。そして味はいつもの三倍は濃いと感じる。だからといって苦くて飲めないなんてことはない。程よく苦いのに本来の風味そのものは失っていない。

 私はまたこの味を味わうために戻ってくる。絶対に戻ってくる。先輩と一緒にたくさんの思い出を抱えて。これはそのための儀式のようなもの。そう思うと残りを一気に飲み干してしまった。さすがにちょっと苦かったかな。


「・・・ごちそうさまでした。マスターのコーヒーの味、しっかりと身体の中に刻み込みました」

「苦かったでしょ?」

「まあ、少し。ほんとちょっとだけです」

「亜衣花も出発の朝には飲んでいくんだ」

 へ〜、そうなんだ。でも先輩ならきっとそうしている。隣りから視線を感じると

「似てるね」

「えっと・・・?」

 急にそんなこと言われると理由は分からないけどなんだか嬉しくなってくるですけど。

「私もあやせもまたこのコーヒーを味わうためにこの始まりの場所に帰ってくる。私の決めたおまじまいなんだ。今まで無事に通過してこれたのはちゃんと帰る場所と待っていてくれる人がいるから私は今までやってこれたんだと思う」


 そっか・・・待っている人に帰る場所。


 目を閉じてこれまでのこととこれからのこと想う。私にとってそれは家であり学校であり、今こうしているアンプレアントでもある。それに待っている人は家族以外にもいる。私達のことを見守ってくれている同じ部で同じクラスの仲間達だ。そのことを思うと私の中にはますます勇気とやる気が受け止められないくらい溢れてくるような気持ちが心の中を満たしてゆく。

 今、この瞬間って誰にも譲りたくないくらいに大事な青春の一ベージになったんだ。それはずっと色褪せることのない瞬間のように私の記憶の中に刻まれてゆく。これからもっともっとたくさん作っていきたいな。


「私達もそろそろ出掛けようか」


 アイアイ先輩の言葉に私は満面に笑みで答える。立ち上がったアイアイ先輩は最後の仕上げみたいな感じで今まで下ろしていた髪をいつものようにポニーテールに結んだ。実は私も出る前に挑戦してみたけどまだちょっと足りなかった。だから普段と同じ髪型なんだけど、いつか同じようになるといいな。そしてその時はまた一緒にこうしていられたらいいな。でも今は今を楽しむだけ。私も先輩の隣りに立って


「はい。私達も出発しましょう」


 店の扉を開くとそこにはまだまだ生まれたばかりの一日があって新しい光は世界をこれ以上ないってくらい明るく照らしている。

 月がまだ浮かんでいる空はさっきのコーヒーと同じくらいいつもより濃い色に変わっていた。私は引かれるように無意識にあの日のように空に向かって手を伸ばしていた。


「そんなに嬉しい?」

「もちろんです」

「そっか。ならいい旅にしないと。それとさっきから言おうと思ってたんだけど」

 先輩は私のリュックを指差して

「良い色だね」

 やっぱりそう思います?思いますよね。お姉ちゃん褒められたよ。私もずっとそう思っていたんだ。ありがとう。私の初旅はなかないいスタートになったよ。


「先輩なら絶対そう言ってくれるって思っていました」


 いってきます、お母さん、お父さん、お姉ちゃん、それに仲間のみんな。最後に先輩と一緒に振り返って二人同時に

「いってきます」

 マスターはきっと寂しいんだろうけど、それよりも大きな笑顔で私達のことをカウンター越しだったけど見送ってくれた。


☆☆☆☆☆


 一番遅く出発したとはいえ時間はまだ早い。歩いている人は普段よりは少ないように見えた。

 

 けれど表通りに出るとけっこう沢山の車が走っているのにちょっとビックリ。決して急いでいるわけではない。みんな与えられた休日を楽しもうとしている。家族連れにカップルといろいろだし老若男女問わず今日を喜んでいるように見える。


 でもそれだけじゃない。


 私達が休日を楽しんでいる間だって働いている人もいる。おかげでこの社会は廻っているんだ。

 これからもっと色々な技術が開発されて本当に人間が働かなくていい世の中が来たとしてらきっと日本中みんな同じように休日を楽しめることができる、そんな未来だってあるかもしれない。それは私が生きている間に実現するか分からないけど。

 大きなトラックが通過する度についそんなことを思ってしまうのは、私がまだまだ社会を知らない高校生だからなんだろうな。


「いいねえ、いい感じだ。これならすぐに捕まえることができるだろうな」

「そうですか?」

 意外とあっさりと言う。そんな簡単にコトが運ぶ・・・んだろうな。何たってわたしなんか足元にも及ばないんだからさ。先輩は楽しそうに目の前を通り過ぎてゆく車を見て言う。私は同じように見ていても特に何が良いのか分からなかった。

「まずコツの一つ。今日はこれから渋滞が予測される。ま、分かっていると思うがゴールデンウィークの風物詩みたいなもんだよな」

「まあ、はい」

「今はいい。けど実際に渋滞になればみんな機嫌が悪くなる。サービスエリアは駐車することすら困難になる。そうなったら当然癒しは必要だよね」

「まあ。確かにそうですね」

「それに休日だからといって休んでいる人ばかりじゃない」

「私も今そのことを思っていたところです」

「だから打ってつけって言うんだ。見てみな」

 指先には一台の大きなトレーラーがこっちに向かってきている。何時もなら音がうるさいしスピードだって絶対法定速度を越えている。それがお構いなしに平気で横を通り過ぎてゆく。ハッキリ言って何度怖い思いをしたことか。でもこんなにじっくり見たの初めてのことだ。運転している人はどんな男の人だろうという先入観を裏切られて

「・・女の人だ」

 意外なのか、私が世間知らずなのか、多分両方なんだろうな。ゆっくりと目の前を通り過ぎてゆく一体この中には何が入っていてどこまで運ぶのだろう。この人も休日なのに働いているんだ。


「あやせ、ここで復習。どういう車を選ぶといい?」

 アイアイ先輩が急に質問してきた。これは研修で習ったことだ。私はちゃんと答える自信がある。ちゃんと先輩の顔を見て答える。

「えっと、確か、トラックは基本的に仕事なので対象外。会社が禁止しているのがほとんどだし、それに仕事ってことは勤務中ってこと。長距離トラックの乗車人数は二人。4トンまでの中距離トラックは三人。後は自分達の都合で行き先を指定しない。車の空いている席を確認する」

「いいねえ。合ってる。それから絶対しちゃいけないことは?」

 これも分かっている。法律に関することだ。これは乗せてくれた人に迷惑が掛かることだ。

「それはお礼と称して金品を渡してはいけない。ヒッチハイクは日本では合法だけど、お金を渡した時点で法律に引っかかる。確かシロタクとかいう・・・」

「うん。そうだね。私達はあくまでタダで乗せてもらうのが大前提。缶コーヒーくらいなら相手に負担を与えることはないし、私達の懐だって負担は少ない。それにもし向こうが要求してきたらちゃんとした知識で相手に説明できる。だからこれまでそういう話をした。ちゃんと身に付いていてくれて私は嬉しいね」

 先輩に言われて改めて気が引き締まる。私達の目的は目的地に着くことではない。ヒッチハイクを法律に触れない範囲でちゃんとすることなんだ。


「じゃ早速始めてみるか」

「はい」

 先輩は慣れた感じで親指を立ててアピールする。すると宣言した通りすぐに一台車が急停車して助手席側の窓が下りてくる。


「女の子のヒッチハイク大歓迎」

 窓から顔を出したのは見るからにチャラそうな男の人達。多分大学生とか?みんなサングラスしているからちゃんと顔が確認できない。正直私は苦手なタイプだ。


「あやせ、この車どう見る?」

 先輩はこっそり耳元で聞いてくる。私は車をよく見てみる。黒いスポーツタイプ。中には三人の男の人がいてみんな私達のことを興味津々で見ている。


「えっと、この車は多分四人乗り。だから定員オーバーです」

 先輩は納得した感じで私の頭を撫でる。


「ごめんなさい。停まってくれたのは有り難かったけど、私達法律はちゃんと守るの。残念だけど定員オーバーの車は遠慮させてもらうね」

 先輩は満面の笑みで返す。けれど車はその場所をたち去ろうとはしない。

「なんだよ。そんなの平気だって」

 そう言って先輩の手を取ろうと窓から腕が延びてくる。チラっと見えたけど、あれって刺青だよね。

 先輩、私の手はもう腕時計に掛かってます。もし少しでも先輩に触れたらその瞬間緊急ボタンを押すんだ。私は緊張している。嫌な汗が滲んでいる。私はみんなのこと信用している。必ず助けに来てくれるって。


 もう少しで手が掛かる。私達の旅を最初からこじらすわけにはいかない。


「おっと。今、私のこと触ろうとしたでしょ。そんなことしたら思いっきり大きな声で『痴漢』って叫ぶわよ。交番、近いからすぐに乙女の危機には来てくれるわ」

 先輩の指差す方向には確かに交番があって一人の警察官がこちらに視線を向けている。もしかして先輩は知ってて強気なこと言ってるんだ。男達も交番を認めると


「け、誰がお前なんか乗せてやるかよ、ブス」


 ありえない言葉を先輩に投げ捨てて車は急発進してその場から行こうとしているのに道路が信号待ちで混んでいてすぐ横を走る大型トラックに道を塞がれてしまって動くことが出来ずにいたらすぐ後ろに控えていた真っ黒で中が一切見えないいかにも怪しい車に思いっきりクッションを鳴らされた挙げ句エンストしていた。それから信号が変わるとすぐにエンジンをフカして行ってしまった。


「・・・・行っちゃった・・よかった」

「怖かった?」

「・・はい。これが一人だったらって思うと余計に」

「まあ、こんなこともある」


「また君か。今度はどこまで行くんだい?」

 声を掛けて来たのは交番にいたお巡りさんだ。先輩は軽く挨拶をして

「おはようございます。どこまでだと思います?そうそう紹介します。今年の新入生」

 背中を押されて一歩前に出た。私も慌てて会釈をして

「女子ヒッチハイカー部一年藤川あやせです」

 お巡りさんは、よろしくと気をつけて、を言ってから交番に戻っていった。


「知り合いなんですね」

「知り合っていうか、私の場合大体ここがスタート地点になるから覚えられたみたい」

 先輩は笑う。それはこれから危険なことがあったとしても大丈夫とでも言っているように見えた。本当は危ないこといろいろあったんだろうな。でもいつだって回避できたってことなんだろうな。

 私はこの最初で最後の一緒の旅で先輩から学べるものは全部学んでやろうと気の引き締まる思いが今になってやっと現実味を帯びていた。


「先輩、今度は私がやってもいいですか?」

 私は用意していた段ボールで作ったプレートを手にして通りゆく車にアピール始める。そこには『香川』とだけ大きく書いた。これで私達の向かう目的地がはっきりと分かる。目の前を通り過ぎる車のほとんどはこっちに気が付いて珍しそうな顔で私達のことを見て通り過ぎて行った。興味はあるけどやっぱりなかなか停まってくれる様子はないみたい。


「・・・なかなか停まってくれないですね」

「まだ始まってそんなに時間経ってないよ。大丈夫だってその内・・・・」

 不安になって先輩に話している時に私達のいるところから少し離れた場所で一台の真っ赤な車がハザードランプを点けて停まった。

「ね。行こう」

「は、はい」

 私達はリュックを持って車の傍まで駆け寄った。窓が開く。中から聞こえた声は

「乗ってく?」

 女の人だということでどこかホッとしている自分がいる。どうやら車には一人しか乗っていない。だから条件はクリアしている。先輩は視線を合わせるように少し屈んで中の人を確かめてから

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 そう言って今度は私に手で招く。私も同じように車内を見て、それから声の主を見た。大学生くらいかな。私達の顔を見て和やかに笑っている。見た感じにさらに私はホッとしていた。

「ありがとうございます」

 私も先輩に続いて言った。

「えっと、乗ってもいいんだけど」

 笑顔とはウラハラに言葉は少し強ばっているように感じるのは何故?

「あの、私達高校生で部活でヒッチハイクしているんです」

 先輩は私達の素性を明かした。こういうと大体乗せてくれるというジンクスは先輩が教えてくれたことだ。これで相手も少しは私達が何者かが分かって安心してくれるはず。


「そうなんだ。今はいろんな部があるね。へぇ〜」

 それから女性は髪を撫でて

「・・・乗ってもらうのは大歓迎。私はこれから名古屋まで車で帰省するんだ。だからそこまでになっちゃうよ。それでね・・・・」

 まだ何か言いたいことあるのかな?けど名古屋ってなかなか良いスタートだよね。全体の四分の一は稼げる。

「はい。それでお願いします」

 今度は私がお礼を言う。

「それとね・・・」

 また女性は髪を撫でていてそれから決心が固まったのか、さっきまでの笑顔が消えた。

「・・・一応言っとくね。私、車の免許取ったの一週間前なのね。親がせっかく買ってくれたから思いきって実家まで運転しようっていき込んでみたけど、その、ちょっと不安になって。引き返すにもこの渋滞じゃ・・・そしたらあなた達が見えたから、誰かが一緒なら平気かなって・・・・・」


 へ〜・・・そんな事情が・・・っていうか、お姉さん急に顔色が悪くなったように見えるのは光の加減じゃないですよね。きっと今の心境は顔に出ているに違いない。先輩はどうなんだろ。


「そんなの全然気になりません。むしろ私達がいた方がいいなら、ぜひ協力させてください。ね、あやせもそう思うよね?」

 その眩しい顔に私は頷いて答えるしかなかった。そうだ、せっかく私達のため・・まあ少しは本人のためでもあるんだろうけど、この機会は決して悪いものじゃない。むしろ神様がくれた運命と思えば勇気も出てくる。

「はい。一人より二人、二人より三人。三人寄れば文殊の知恵って言葉もありますからね」

 一体何言ってんだろう。ちょっと顔が赤くなる。けれどみんなが笑ってくれたのが私には意外だった。おかげでお互いの緊張が解けてきたみたい。笑うって良いことだよね。


「うん。よろしくね」

「はい。私達こそよろしくお願いします」


 お互い交渉成立。車に乗り込む。この車はいわゆるスポーツタイプだから後部座席は狭い。けれど背の小さい私には結構ピッタリフィットしていることを心配してくれたお姉さんに伝える。確かに落ち着く。

「ねえ、部活のこと面白そうだからいろいろ話、聞かせて」

 私達がシートベルトをしたことを確認して声を掛けてくれた。

「もちろんです。もしかしたら名古屋までに話は終わらないかもしれないですけど」


 いよいよ始まるんだ。私は心の中でみんなに言おうとしたところで助手席の窓がコンコン音を立てた。見るとさっきのお巡りさんがいて先輩が窓を下ろすと

「道路交通法、ちゃんと守るように。安全運転。気をつけていってらっしゃい」

 そう笑顔で言ってからまた交番に戻って行った。先輩は大きな声で『いってきます』といって手を振った。これで本当に本当に出発、ってことでいいんだよね。

「それじゃ出発」

 車はゆっくりと動き出してから本来の車道に乗って豪快にエンジンをフカして走り始める。

 私も仕切り直す。マニュアル通り端末のスイッチを入れるとタイマーが動き出す。するとすぐにスマホが震えて見てみるとマネージャーチームから


『出発確認。只今よりあなたの安全はこちらに移行されました。よい旅を』

 というメッセージが届いていた。


「・・・ちゃんと見ていてくれる・・・」

 安心感が半端なく私達を包んでゆく。

「みんな、いってきます」

 心の中で言うつもりだったのに声に出ていた。


 いってきます。それは大切な人達がいるから言える言葉。

 いってきます。それは私のことを見守ってくれている人がいるから言える言葉。

 大丈夫。私は絶対無事にみんなの前に帰ってくる。だからそれまでいってきます。


 窓から見える景色は知っている景色なのにいつもより輝いて見えるのは、今の私が青春という時間を充実させている証なのかもしれない。これから見る景色はきっと一生の宝物になる。

 私の気持ちは上昇気流に乗ってどこまでも果てしなく高まっていった。


              

             『女子ヒッチハイカー部』旅立ち編〜おわり〜

旅に出ちゃいました。これからが本番なのに・・・今はここまで。

最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。

日記みたいでのんびりで。退屈なシーンも多々あったり。

さて。一区切りついたことだし・・・飲む。

頭を空っぽにして。次いってみよう。

皆さまとまた会えることを一つの希望として進んでいこう。

それまでは・・・またお会いしましょう。

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