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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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48/49

もういいかい?もういいよ

 学校に到着すると思っていた以上にたくさん生徒がいてビックリだし、みんな休日返上で部活をしているんだ。今を全力で走っているのは私だけじゃない。みんなきっと同じなんだ。


 部室に着いてドアノブに手を掛けると鍵は開いていた。

 ま、先に到着した方が鍵を開けるっていう常識があったことに、なんだろう、ちょっと笑える。

 いつもは自分のこと以外関心がないっていうか、もしかしたら自分自身にすら関心がないような感じなのにね。


 ドアを開けて中に入るとすぐに声が掛かる。想定とは違う声。

「よ、藤川」

「あれ、結城君?・・・・って・・」

「なんでいるかって、瞬のヤツに呼ばれたんだよ。部室の鍵も開けといてくれって。せっかくの休みなのに。ま、予定は特になかったからいいんだけどな」

 あんまり迷惑には思っていないみたい。むしろ笑っているくらいだ。

 結城君も制服なんて着ていない。・・・やっぱりおしゃれだよね。ゴツいウォレットチェーンが主張している。


「あ・・そう・・なんだ」

「で、肝心の本人は?」

「先に着いているかと思ったけど」


 一応周りを見回したところでどこかに隠れるような茶目っ気はあるはずもない。

 確かにいないのは変だ。私達よりは全然早く着いて当たり前なのに。


「逸見は?」

「ともりはいないよ。後からアイアイ先輩が来るよ。コーヒー持ってくるって」

「そっか」

 その声にはちょっとだけ残念的な雰囲気があった。

 もしかして・・・まさかね・・・でもさ、って想像してみるとファッションとか結構話が合いそうな感じもするんだよね。

 けど相手が相手だし、ともりが相澤君のこと好きだって分かっているはずだし、なんてことを考えていると私のことをじっと見て当然のように聞いてくる。


「藤川はなんで制服を着ているんだ?今日は休みだと思うけど」

 素直な疑問はやっぱり聞かれるよね。それは偶然でたまたま。私だって意識して着てきたわけじゃない。ってことを簡単に説明する。

「まあ、分からないでもないかな」


「お待たせ」

 部室に入ってきた先輩の手にはピクニック用のバスケットとポットがあった。私は急いで先輩のところに行って受け取ってから机の上に置いていると

「あれ?瞬はまだか」

 同じように部室を見回して言う。アイアイ先輩が来たらどこかから出てくるなんてことは天地がひっくり返ったとしてもあり得ないことだとしても

「そうなんです。一番最初に向かったのに一番遅いなんて」

 私が言うと先輩の視線は窓から外を見ている。ちょっとだけ不安げに

「まさか事故になんてことないだろうな」

「・・・え?」

 その一言は冗談のつもりだったかもしれない、けど一気に胸が締め上げるにはかなり強烈な一言になった。

 そんなまさかなこと・・・思っていなかった。でもでも、言われて初めてその可能性は全くないわけじゃない。現実にそういう答えの選択だってある。急いでポケットからスマホを出して画面をタップすると心なしか私の指先は少しだけ震えていた。


「わ、私、電話してみます」

 声は意識していないのに微かに震えている。心臓の鼓動は嫌なリズムを刻み出す。

 何回か呼び出し音がしてからやっと出たのは留守番電話だ。気が付いていないだけなのかもしれない。それならそれでいい。むしろその方がいい。だって、バイクってエンジン音うるさいから。


「・・・出ない。もう一回」


 遠くの方で救急車のサイレンの音が聞こえる。心理的に聞こえるわけじゃない、確かに聞こえる。現実の音。あの独特な緊張感のある音は本物。どこかで誰かが助けを求めている音。


 まさか、まさか、まさか・・・思わず固唾を飲み込む。スマホは何も状況を好転させるようなことはしてくれない。

・・・・・やっぱり電話は通じない。思わず膝から力が抜けてゆく。


「あやせ!」

 先輩に支えられてやっと立っていられる。私は震える声を落ち着かせるようにしても出てくる声はあまりにも素直過ぎる。

「出ない・・アイアイ先輩・・・」

 結城君にも支えられて席に座ると全身の力が抜けて手からスマホが滑り落ちてゆく。その音がやけに大きく聞こえるのはきっと他の人も同じなのかな・・それとも私だけなのかな。よく分からない・・・分からないけど・・・けど・・そんなことあったら駄目だよ。そんなこと考えちゃ駄目。分かっているのに考えてしまう。体温が下がる。呼吸が乱れる。聞こえる声や音が何枚もフィルターを通過したように籠って聞こえる。


 今まで楽しかった時間はどこに行ってしまったのだろう。私はどうしたらいいの?


 考えたくもないのにいろいろなことが頭の中を巡ってしまう。自分ではどうしようもないくらい。グルグルして気分だって悪くなってゆく。


「・・・・先輩・・私・・」

「落ち着けって。瞬なら大丈夫だ」

「私もそう思いたいです。でも・・」

「俺も連絡しているけど繋がんねぇ」


 悪い方向に思考が完全にシフトしまっている。もしが本当になったとしたらこれからのことって一体どうなってしまうの?まだ始まったばかりなのに。私はまだ何もしていない。アイアイ先輩のことを無意識に見ている。顔は映っているのにその姿は次第に滲んでゆく。

 急に目の前が揺れて温かな腕の中に包まれてゆく。


「泣くなって。まだ何がどうなったか決まっていない。アイツなら大丈夫。きっとどこかで道草でも食っているんだ」

 私は無言で頷いて答える。それならそれでいい。少しだけ安心するけど不安はまだどこにも消えてはいない。亜矢香さんもだけど、先輩もいい匂いがする。これだけでも人は人に安心感を与えることができる。お母さんも、お姉ちゃんも、私が好きな人は私に安心感を与えてくれる匂いがする。私もいつか同じように誰かを安心させることができるのだろうか。


「何をやっている?」

 え?この声って

「電話したみたいだが何の用だ?」

 ドアを開けたままこっちを見ている澄ました顔に急にイラっとして

「気が付いていたなら出なさいよ」

 この声の大きさには自分で驚いた。私ってこんな声出せるんだ。

「・・・電車の中では仕方ないと思うが」

 私の勢いに驚いたのか少しだけ言い訳するような口調で話す。

「・・・電車?」

「言ってなかったが一旦家に帰った」

「なんで?」

 私はつい語気を強めてしまう。

「・・あやせなら言わなくても分かると思うが」

「私が?なんで?」

「質問ばかりじゃなくて少しは自分で考えたらどうだ?」


 なによその言い方。私がどれだけ心配したと思っているのよ。さっきまでの気持ちの反動だろうか、だんだん・・そう、だんだん腹が立って来た。


 そのことを感じ取ったのか一回だけ溜息をして周りを見てから

「まあ、ここにいる連中は知っているから話しても大丈夫か」

 そう前置きをして

「学校にバイクで来るわけにはいかないだろ」

「それで置きに帰った」

「そういうことだ」

 理由は分かった。けど一言そう言っておいてくれたら、それに電話に気付いていたならメールでもなんでも返事を返せば良いのに。そうじゃなくてもいつも一方的な今までのことが溜まっていたんだろうな。言うならきっと今なんだろうな。私は視線をイケメンに合わせる。


「あのさ、この際だから言うけど」

 まだ何かあるのか、みたいなその顔。火に油を注いでいるって分からないあなたにはっきりと言ってやる。怒りと冷静さは拮抗してる。自分でも感情的にならないようにしているけど駄目。天秤はやっぱり怒りの方が大きいみたい。

 私の雰囲気を感じ取ったのかな、なんとなくだけど少しだけ腰が引けているように見える。


 いつも自分中心の世界にだけにいて、他人にはあまり興味がなくてそれでいて他の人から注目を浴びていて、でも自分とは無関係みたいな態度でいたそんなあなたに私は言ってやる。同じクラスメイト、同じ部活、そして・・・友達として。


「私が・・っていうより私達がどれだけあんたのこと心配したか分かってるの?何回も連絡しているのに全部無視なんて酷くない?せめてごめんの一言も言えないわけ?」

 一息でここまで大きな声で喋ると結構息が切れる。だから今度はたくさん空気を吸い込んで

「確かにあんたにしたら謝るなんてこと想定外のことかもしれない。でももっと人の気持ちを考えてよ。だって・・・・」

 まだ顔色一つ変えずに私の顔をじっと見つめているイケメンはまだ言葉を発することなく目の前に立っている。

「だって、私達はみんな同じ部活の仲間なんだよ。クラスだって同じ。どういう高校生活を送りたいか知らないけど、私は高校生活を、この部活に入ることがすごく楽しみでやっとここまで来たの。一歩、さらに一歩、もっともっと進みたい。みんな一緒にここまで来たと思っている。みんながいたから。だからもっとこのメンバーで一緒に楽しい時間を過ごしたいの。ホントに心配したんだよ。もし・・・もし、事故にでもなんて考えたら・・・・」

「考えたら?そうなったらあやせはどうなった?」

 ここでやっと口を開いた。

 

 視線には何かを期待しているような感じがすると急に何て言ったらいいか分からなくなる。一体何を期待しているの?でも今の気持ちはきっと一番正直だ。だから今思っていることをそのまま言葉にする。


「もしそんなことになったら悲しいに決まってんじゃん。この部は今まで大きな事故がなかった。それがずっと受け継がれてきたことだし、これからもそれは守っていく。でも人生は何があるか分からない・・・けどそんな結果は嫌だよ。悲しむことは私の高校生活の中にはないの。私だけじゃない。みんなだってそうだと思う。相澤君は嫌々この部に入ったかもしれないけど入ったからにはそれなりの覚悟があったんじゃないの?」

「覚悟か。ずいぶん大袈裟だな」

 大袈裟?そんな風に思うんだ。なんかちょっとがっかりだよ。

 この部のセキュリティを作るのは大袈裟じゃないっていうの?すごく頑張ってて私なんか全然分からなくて、これでも応援してたんだよ。それをそんな風に思っていたなんて。ずっと同じ想いで過してきたと思っていたのに・・・それが口惜しのかな。意識していないのに・・・私は自分の涙が床に落ちる音が聞こえた。


「あやせ、ちょっと落ち着こうか」

「・・・・アイアイ先輩」

「そうだな。確かに藤川の言うことも一理あるな」

「・・・結城君」

 みんなが私達の間に割って入ってくれる。こんな気持ちを抱えたままこの場はこれで終わるんだろうな。胸の中には不快な石がたくさん詰め込まれたような息苦しさが残る。

 本当にこのまま終わっていいの?こんな気持ちを引きずったまま初旅に出るなんて。

 あんなに期待して楽しみしていたのに。最初の旅と最後の旅。どんな風になっちゃうのかな?鮮やかな色に溢れていた景色が今ではくすんだ色に見える。その内、灰色になってしまいそうな気さえしてくる。促されるまま振り向いて座ろうとした時


「待て。まだ話は終わっていない。これは終わらせなくてはいけない問題だ」

 相澤君は私のことを引き止めた。終わらせる?それってどうやって?次の瞬間降り得ない光景があった。


「ごめん。悪かった。部室で説明すればいいと思っていた。あやせや亜衣花や翠に無駄な心配をさせた」


 頭を下げている姿があった。


 ちょっと本気・・・どう転んでもそんなことしそうにないのに。驚いた私の顔はきっとその通りになっていると思う。それが自分でもはっきりと分かる。


「あやせ、瞬も謝っているわけだし、どうかな気持ちって切り替えられそう?」

「・・・・はい。私だってこんな気持ち引きずっているのは嫌です。でもはっきりさせたいことが一つだけあります。相澤君、聞いてもいい?」


 私が目指しているのはみんなと作ってゆく思い出なの。

 もちろん楽しいばかりじゃない、こうやってモヤモヤすることだってあるに違いない。でもそれはみんなの心が一つになっているからこそ共感できることであって、嫌々参加しているだとしたらそれは絶対に嫌。


「・・あのさ、ここにはアイアイ先輩に言われて入部したんだよね」

「最初はな」

「・・もしかして本当は違う部に入りたいとか思っていた?」

「亜矢香が何も言わなかったら帰宅部のつもりだった」

 そっか・・・帰宅部か。そんな選択肢は私にはなかったな。まだだ。一番肝心なことを聞かないと私はこれから先に進むことができない。


「正直言って。私だって聞きたくて聞くわけじゃないけど聞いておかないとならないの」


 深く静かに呼吸をする。


 あれ?なんで私震えているのだろう。

 相澤君はじっと待っている。何を聞かれても今は正直に話す、みたいな真剣なまなざしがある。


「部活やってて楽しい?本当は辞めたいって思ってる?」


 私、何聞いてんだろ。もし素直に答えてくれて、本当に駄目な方の答えをしたら私はどういう返答をしたらいいのだろう。言ってしまったからにはもう後戻りはできないけど。


「え?ちょっと、なに笑ってるの?」

 予想外の出来事。私、そんなに変なこと聞いてるのかな?でもなんだろう、その笑顔にどこかホッとしている自分がいる。


「可笑しいからに決まっている。あやせは人の話をもっとちゃんと聞いた方がいい」

「き、聞いてる。どこにそんなに可笑しい要素があるっていうのよ」

「もちろん楽しいに決まっているからだ」


 ちょっと、急に真面目な顔で答えないでよね。迂闊にもドキッとした。あんなに真っ直ぐな視線で見つめられたらこっちがびっくりするんですけど。


「・・・そ、そう」


 これ以上は言葉が出てこない。答えは出た。それも私が望んでいた答え。

 後は私自身が納得するだけ・・・でもなかなか素直になれない。認めないといけないのに・・でも身体はどんどんポカポカしてゆくのが分かる。私・・嬉しいんだ。


「これで解決した、でいいのか?」

「・・・先輩・・・・解決・・しました。でもずるいです」

「正直な人間には敵わない。みんな瞬のこと誤解しているところもあるかもしれないが、私からみたらこんなに純粋で素直なヤツはなかなかいない」

 これが相澤君の本当の気持ちなら私だって本当の気持ちだった。ならもっと素直になって喜んだっていい。今まで疑問と不安で凝り固まっていた心が音を立てて動いている。私はそのことを察知されるのが恥ずかしいんだ。

 でもちょっと待って。彼はイケメンでエスパーなんだ。なら私の気持ちなんてとっくの昔にお見通しってことなら私も素直にならないといけないよね。ちょっと恥ずかしいけど


「・・しょ、正直嬉しいです。この部のこと楽しいって言ってくれて」

 顔が赤くなってくるのが分かる。それでも素直な正直な気持ちを言葉にした途端、こんなに嬉しい気持ちを幸せに感じる。

 それはあの日、空に向かって手を伸ばした時よりももっともっと大きな気持ちだった。


「お、俺も楽しいから」

 慌てて結城君も言う。それがなんだか可笑しくて

「そこ笑うところ?」

「ご、ごめん、なんか可笑しくて」

 今は違う意味の涙が出て止まらない。嬉しくてそして可笑しい、今はとても幸せな気持ちだ。それはお互いの心を知ることが出来たことと、いろんな意味でまた一歩進んだこと。私の高校生活にまた一つ思い出が増えたってことでいいのかな。

「嬉しそうだな」

 相澤君も笑っている。今まで震えていた気分も落ち着いているし、肩の力もすっと抜けてくる。気が付くと私達全部を包み込むように良い香りが部室を満たしていた。


「さ、みんな。コーヒー入ったよ」

 みんなの分のコーヒーに加えてサンドウィッチもある。不思議と気持ちが落ち着くのはこの香りのせいなのかな、おかげでやっと普段の私に戻れたような気がする。


「ほい、あやせ」

 先輩がわざわざ手渡ししてくれた。それがなんだか嬉しくて

「アイアイ先輩ありがとうございます」


 みんな席に落ち着いてほぼ同時にコーヒーを飲んだ。

 ほんと、ブラックコーヒーを飲むのが当たり前になっている。みんなも当然のようにブラックで飲んでいる。これじゃせっかく用意した砂糖とミルクが可哀想だね。

 ふと、ともりのことを思い出す。ここにいてくれたら良かったなのにな。これは一応報告しておいた方がいいんだろうな。じゃないと・・・うん、なんでだろうちょっと想像してみると笑える。


「さあ、始めましょうか。あやせの気持ちも切り替わったということだし。気合い入れるよ」


 今の私には前に進む道しか見えていない。その道は一本道で先が見えないくらいずっとずっと長く地平線の中に消えていって・・その先に何が待っているとしても不安も恐怖もどこにもない。だから振り向くことを忘れるくらい私は自分の目標に向かって歩いてゆくだけ。まだ何も始まっていないと思っていたのにもう始まっているんだ。私は自分の未来に向かって確かに少しずつだけど確実に前に進んでいる。


 もし今ここで誰かに『もういいかい?』なんて聞かれても私の返事はただ一つ。自信たっぷりに大きな声ではっきりと言える。


 『もういいよ』


 ここにはそんな仲間達が集まっている。それに想いだって同じ。

 ふと見回すとこれ以上ないくらい素敵な笑顔で溢れていた。

ここまで来たんだ・・・

読んでいただきありがとうございます。

皆さま。お分かりかと思いますが次回が最終話です。

まだ感傷に浸っている場合じゃない。

やっと旅に出る。

主人公も私も。

次回はぜひ読んでください。お待ちしております。

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