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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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47/49

最後まで気を抜かずに

「時間だ。行こっか」

 楽しい時間とはどうしてこうも早く過ぎていってしまうものなのだろう。

 さっきまであんなに緩慢だったのに。時間の流れる速度は一定で不変だって分かっているけど、その流れの感じ方を変化させるのは自分自身の感情だったりするんだ。


「どうした?」

 相澤君の手にはすでにヘルメットがある。もちろん亜矢香さんも。みんな行動が早い。私はカップの底に残った最後の一口を急いで飲み込んで

「二人はバイクで行くの?」

「もちろん。終わったらそのまま帰るだけだし。それに夕方からバイト入っているから」

「秋葉原のですか?」

「そ。もうゴールデンウィークでしょ。人材を確保するのが難しいのよ。みんな旅行とかに行っちゃうから」

 亜矢香さんは私とアイアイ先輩を指差して言う。

 そっか。忘れていたとかじゃないけど、出発は明後日。準備は万端。体調も良好。週間天気予報に雨の文字はどこにも見当たらない。

 部活動としても人生としても私の初めての旅。そして先輩の部活としての最後の旅。

 いろいろあるけどこんなに満たされた条件は他にはない。最後に残されているのはお互いの検査結果だけ。といっても不安になる要素はどこにも存在しないんだけど。そんなのあってたまるものか。もしがあったら私は絶対神様のこと一生恨んでやるんだから。


 店の扉を開けると太陽の光は強く眩しい。まだ夏には遠いけど私達の旅立ちを祝福しているように感じる。気分は増々昂揚していくのは仕方ないことだよね。私達は祝福の溢れているこの世界に踏み出していた。


☆★★☆★


 病院の待合室で先輩のことを待っていた。

 私は簡単な検査で終わってしまって特に異常なしと言われて無事終了した。時間にして一〇分もかかったかどうかってとこ。呆気無さ過ぎて本当に必要だったのか疑問に思えるほどだ。でもまあこれで両親との約束は果たせたし自分の体調により自信を持つことが出来た。


「それにしても亜衣香遅いね」

 亜矢香さんは診察室の扉の方を見て言う。その手にはヘルメットがあってまだ新しいのかそれとも手入れがいいのか、とてもキレイだ。そのことを言うと

「気付いた?これね先月のバイト代で買ったんだ。ずっと欲しかったヤツだから嬉しくて毎日磨いているんだ」

 相澤君はスマホで何かしている。明後日から本格稼働するシステムのことだろうな。一度だけ席を外して結城君に電話をしていたから多分そうだと思う。相変わらず自分の世界に入っている人だよね。

 あと相澤君も座っている横にヘルメットを置いていた。亜矢香さんと同じフルフェイスで顔が見えないようにフィルムも貼ってある。これは顔を見られたくはないという思いからだろう。でもさ、なんでそんなにバイクの免許が必要だったのかな?ま、聞いてもちゃんと教えてくれるか分からないから聞かないでおこう。

 おっと、いかんいかん。今はそんなことよりアイアイ先輩のことだよ。


「きっといろいろ説明を受けているんだと思います」

 とは言ってみたものの、大丈夫だと分かっていても時間が長くなればなるほど不安も増してゆくのはやっぱりここが病院だから?それとも消毒アルコールの臭いのせいなの?余計なことを考えてしまうのも待っている時間のせいにしてしまう。

「ちょっとトイレ行ってきます」

 この空気に耐えきれず私は立ち上がった。別にトイレに行きたかったわけじゃないけど、きっと今は不安一杯な顔をしているはずだ。私はすぐに顔に出るから。


 鏡の前に立って自分の顔を確認する。思っていたほどの顔はしていない。でも影の色が濃いような気がする。これはきっと蛍光灯のせいだ。そう思うことにして無理にでも笑ってみる。作り笑いってこんなに不格好なんだ・・・・そう見えたのでやめて席に戻った。


「あ、おかえり」

 亜矢香さんが笑顔で出迎えてくれた。まだ先輩の姿はない。おまけに相澤君の姿もない。ヘルメットだけがポツンとしていた。また電話にでも行ったのだろうか?でもすれ違うことはなかった。再び亜矢香さんの隣りに座ると

「今ね、中で瞬と一緒に話を聞いているところ。もうちょっとで終わるって」

 え?そうなんだ・・・でもなんでわざわざ相澤君も?やっぱり提供者だから?またいろいろ考えて不安が増した。視線の先にある扉の向こう側では一体どんな内容のことが話されているのだろう。たった一枚のドアのおかげで私の不安は収まるどころか余計に不安を仰いでいる。


 やり場のない私の気持ちは察知されたみたいで気が付くと亜矢香さんが私の肩をそっと抱いていてくれた。バイトの時ほどじゃないけど、とても良い匂いがする。バイトの時とは違って清々しくて落ち着く香りがする。きっと場所と状況に応じていろいろな香りの香水を持っていて使い分けているんだろうな。大学生って大人に最も近い場所にいる。大人になることってきっと周りに対してちゃんと気遣いできる存在なんだろうな。亜矢香さんの香りに少しだけ落ち着くことができた。そのことでお礼を言うと

「私も知らない内に大人になっているのかもしれないね。あやせちゃんもこの先覚悟しておくことね。誰もが同じところに留まることはできない。嫌でも前に押し出されてしまう。これが人生の厄介なところよね」

「大人に近づくって高校生になってなんとなく分かります。あの・・私は今回の旅が先輩と最初で最後なんです。憧れだった部活に入ることができて、やっと憧れの先輩に出会えたのに最後なんて・・・酷いですよね」

「それさ、先生が作ったルールなんでしょ」

「・・・そうですね、ルールです。言われた通り、テストだって・・ちょっとは手を抜いたと思っているけど頑張って10位以内に入りました。もちろんみんな揃って。これでもし先輩に何かあったなんてことになったら・・・私・・・・・私・・・」

 話す内にだんだん感情が高まってゆく。楽しいはずなのに・・なんで?

「ほら、これ使って」

 ハンカチをもらっていつしか滲んでいた涙を拭いた。私、余裕ぶっているけどホントは不安で不安で仕方ないんだ・・・・でも亜矢香さんに少しだけでも話を聞いてもらえたことに感謝する。

 一息ついて再びドアを見る。まだ出てくる様子はなさそう。でも私に足りなかったものがなんとなく分かる。それは覚悟だ。どんな結果が待ったいるとしてもそれを受け止める。事実を事実として受け止める。今はそのことができるような気がする。私はドアが開くその時までじっと待つことを決めた。


 どれくらいの時間が流れたのだろう。時計を見ていないから時間の感覚が狂いまくっていて一時間なのか、三十分なのか、時間というのはある意味存在している差なんて分からない。けれどやっぱり時間は前にしか進まない。

 やがて人の気配を感じる。ドアノブがゆっくりと動く。私は無意識に固唾を飲んでいた。


 最初に出てきたのはアイアイ先輩だった。

「ごめん、ごめん。ずいぶん待たせちゃったみたい」

 そうかもしれません。それで・・その・・・私が切り出す前に

「結果は良好」

 先輩はそう言ってニシシと笑って親指を立てた。私は半分浮かせた腰をまた席に戻してから安堵の大きな深呼吸を出した。

「良かった。それで瞬は?」

「まだ話している。そろそろ出てくるんじゃないかな」

 先輩がドアの方に振り返ると同時にドアが開いて相澤君と担当の先生が出てくる。世間話でもしていたのだろうか、相澤君の表情は変わりなくいつも通りで、先生は笑顔でいる。これで無事終わった。あ〜なんか急に疲れが出てくる。肩の荷が下りたような感じだ。


 全員揃ったところで先生に挨拶をして病院を後にする。

 

 亜矢香さんは宣言通り入口で手を振って駐輪場に行ってしまう。てっきり相澤君も一緒に行くのかと思っていたけど、別にそんな素振りをする気配はない。派手なエンジン音がしたかと思ったらあっと言う間に遠くの方に走り去ってしまうのが分かる。その音を聞いて

「・・・相変わらず、うるさい」

 ボソッとだけどそんなことを言っていた。それから自分のバイクを取りに行くと押しながら戻ってきた。

「どうして乗ってないのにヘルメット被っているの?」

 私の質問に対してボソボソと言う。

「え?メット越しじゃよく聞こえない」

 少しだけフェイスカバーをずらして

「言っただろ。学校に知られたくないだけだ」

 この人ってもっと堂々としているのかと思っていたけどオドオドすることもあるんだ。

「だったらちゃんと申請して堂々とすればいいのに」

 私の言葉に少しばかり溜息を混ぜて

「知らないなら教えてやる。通学以外で免許取るには入学してから半年経たないと駄目なんだ」

「そうなんだ・・・知らなかった」

「校則を読んでないのか」

 読んでない。そもそも今までだってロクに目を通した記憶すらない私には返す言葉がない。それに校則を読むなんて何かに行き当たった時くらいしか思いつかないし今のところ読む予定なんてないかな。

「・・・・・」

「なら読んでおいた方いい。これには学校のルールが載っている」

「そうだろうけどさ、じゃあ何で校則を破ってまで免許なんて取ったのよ」

 素直に聞いてみると少しだけバツが悪そうな顔をしてから

「・・・いろいろ事情があった。分かっていて破った」

「その事情って?」

 それ以上は聞けなかった。何故なら拒否するようにまた顔を隠してしまったからだ。もっと突っ込んで聞いてやろうと思ったけど、今はそんなことは後回しでいい。それよりも先輩の方が最優先だから。

「まあ、瞬もうっかりしていたってことだから、見逃してやってくれないかな」

「アイアイ先輩まで・・・まあ、そうですね。バレなきゃいいけど」

 私の返答に笑った先輩の顔には不安なんて言葉はもうどこにもなかった。むしろ晴れ晴れとしている感じさえする。そんな先輩の顔を見ていたら私も同じようにスッキリとした感情が心の中に広がってゆく。それは今目の前に広がる青い空のように澄んでいて雲の一つすらない。南風だって何時にも増して暖かくて今の私の気持ちみたい。頬を翳める度に自分自身も風に乗ってどこまでも遠くに行けるような気分になった。だから私もつい笑顔になったのは仕方ないことだよね。


「それでこれからどうするんですか?」

 まだまだ日は高い。一日はまだまだ残されている。

「そうだな、あやせこそこの後どうする?帰る?」

 反対に聞かれてしまう。あらためて今日の予定を思い出してみる。今ここにいるイレギュラー的予定以外は旅に向けて自分なりに最終チェックして後は特に何もなかった。そのことを正直に言うと

「なら今から私と瞬と一緒に旅の最終チェックしないか?」

 そう言われて断る後輩がどこにいるのだろう。むしろそうなった流れに思わず前屈みになってしまうくらいの勢いで

「もちろんします。むしろしたいです」

「せっかくの休日が部活の延長みたいになっちゃうけど」

「全然構わないです」

「じゃそういうことで」

 先輩は相澤君にこの後のことを耳打ちして

「分かった。先に行って準備している」

 バイクのエンジンには火が入る。亜矢香さんとは違うけどバイクの音はうるさいと思ってしまうのは私の偏見なのかもしれない。それに今から声を掛けても気付かずに走って行ってしまうだろう。その予測は当然のように的中してあっと言う間に走り去ってしまっていた。


「それでどこに行くんですか?」

 相澤君に聞くのを諦めて先輩に聞いてみた。

「学校」

 予想外の返答に私の中でエスパー的要素が芽生えたと思えた瞬間だった。なんせ無意識に制服を着ていたのだから。私の潜在能力の何かが私に制服を選ばせたに違いない。

「えっと・・・先輩は・・その・・」

「?どうした?」

「い、いえ、別になんでもないです」

「そうか?言いたいことあったら遠慮なく言っていいんだぞ」

「ほんと何でもないんです。ただこうしている自分が不思議だなって。こんなに順調に自分の思い描いている高校生活になるなんて思ってなくて」

 先輩は私の頭をポンポンとして

「なら後先考えずに今の状況を楽しんだ方がいい。転ぶまで振り返るな、なんてね」

 先輩が笑ったので私も笑った。

 今は全力で駆け抜けろってことでいいんだよね。そう考えると私は増々加速してゆく日常を肌に感じないわけにはいかなかった。

桜はそろそろ開花するのかな?開花宣言が待ち遠しいです。

読んでいただきありがとうございます。

最近は暖房器具を使わない日も増えました。

でもまだ日差しは暖かいが風の方は・・・冷たい。

体調に気をつけながら書いております。

今回のタイトルのように最後まで気を抜かずです。

次は春分の日ですね。ようやく春本番・・・そうなればいいな。

では皆さまも油断なさらぬように。

また立ち寄ってくださいませ。

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