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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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日曜日の朝ご飯とレコード

 日曜日の朝。

 休日だというのに平日と同じ時間に目覚まし時計は私を夢の中から現実に連れ出してくれた。

 もっと寝ていたかったけど明後日からのことを考えるとまだまだ忘れていることがないか、そのチェックにはいくら時間を費やしてもよかった。

 だからいつもの時間に目覚ましをセットしておいたのだ。

 身体の中にはまだ昨日の余韻が残っていてどこかフワフワしている。その想いが強いのか見ていた夢のことはすっかり忘れている。というか夢なんて見ていたかすら覚えていない。けれど今はアラームを止めるのが最優先事項といったところだ。


「あ・・・」

 画面には通知表示がある。アイコンで誰からなのかすぐに分かる。

「アイアイ先輩・・・なんだろ」

 開いてみると、朝ご飯一緒に食べようってあった。場所はもちろんアンプレアントで。

 考えるまでもない。私には断る理由なんてどこにもない。

 先輩の誘いにありがたく満面で返信をすると先輩からあっという間に返信がくる。親指を立てているスタンプだ。それは私達の象徴でもある。


 時間は指定してあった。支度するには充分な時間だ。先ずは顔洗って、それから制服を着る。着てから今日は日曜日だったことをうっかり忘れていた。


「う〜ん・・・ま、いっか」


 あまり悩むことなくそのままのカッコでアンプレアントに向け電車に乗った。


 平日と違って日曜の朝の電車は空いていて余裕で座ることができた。

 毎日の生活ってホント戦いなんだって思う。

 今日まで頑張って働いたお父さん達、お母さん達、ゆっくり休んでください。なんて思ったりしながら車内をそれとなく見回してみると結構制服着ている人って多いよね。っていうか学生は休日だって忙しいんだ。部活とか、補習とか。事情は人それぞれかもしれないけど、こんな光景も青春の一ページで括ってみると私だけが変に浮くこともないよね。

 そんな中、ウチの学校の制服は見当たらなかった。それだけに余計に見比べてしまうのは仕方ないことだよね。自分本位で申し訳ないけど、やっぱりこの制服が一番かわいい。なんて親バカ的な考えをしていると自然を頬が緩むのが分かる。いかんいかん。深呼吸すると日曜日のゆったりとした空気が肺を満たす。おかげで落ち着くことができたような気分がした。

 この学校の生徒としてもっとシャンとしないと。

 もしかしたら小さい頃の私みたいに憧れを抱く後輩となるべく人がいるかもしれない。ううん、そうじゃない。そう有りたいと思う。真っ白な制服は本当に天使のように眩しく見えるんだ。私は気合いを入れ直して先輩の元に向かった。

 

☆☆☆☆★


「なんで日曜日なのに制服着てるの?」


 まあ、そう言われるでしょうね。理由なんて特にないし気が付いたら着ていた。それはとても自然にって説明した方がいいのかな。


「えっと、なんかこの方がしっくりくるような気がして」

「ふ〜ん」


 アイアイ先輩はそれ以上は聞かなかった。それからカウンターじゃなくてテーブル席に私のことを案内する。座ると正面には先輩が座った。

 日曜日は定休日だから私達の他にはマスターを除いて他のお客の姿はなかったし店の照明だって半分しか点いていない。こうやって見回すとコーヒーの匂い以外は別の店のような雰囲気がする。こんなに静かだとかえって落ち着かないというか、不思議な気持ちがしてくるのは気のせいではないだろう。


「あの、今日って定休日ですけど、いいんですか?」

「他のお客さんがいないとこんなに静かなんだって思うでしょ」

「そうですね。確かに」

「ま、お店もお客がいない時は眠っているって私は思うんだ。そして明日になったら目を覚ましていつもみたいになる」

 先輩も自分家なのにゆっくりと見回す。

 そういえばまだ理由を聞いていないし、いつもと雰囲気も違う。それは見れば分かる。話の糸口として敢えて聞いてみる。


「今日は結んでないんですね」

「それはね、今日は私も休みだから。髪を結うのって私にとって自分自身に気合いを入れるみたいな感じなの。強いて言えばおまじないみたいな。だから今日の私はいつもとは違うのかな、気分的に」


 私は先輩の言葉の意味を知りたくてついじっと見つめてしまう。休日と普段の違いは私にはまだ分からない。厨房ではマスターが料理をしている音がする。その匂いがこっちまで流れてくる。


 なんだろう・・・朝には相応しくない料理の美味しそうな匂いがする。


 おかげで私のお腹は急に元気よく動き出しそうな予感がする。まずい。このままだと・・・私は不意にお腹が鳴らないようにおへそ辺りに意識を集中させる。けれどかえって良くなかった。意識がお腹に向いた瞬間に音が鳴る。それはもう止めることができない波のようにやって来た。

 音量の調整くらいは、そう思って四苦八苦していると外で大きなエンジンの音がしてアンプレアントの前で停まった。エンジンを止める瞬間大きくフカす。その音に私は助けられることになったわけだが、店の前に停まったバイクはそのまま静かになって今度は店のドアをノックする音が聞こえた。アイアイ先輩は窓から顔を出して


「開いてる」


 それだけ言ってまた私の前に座った。

「・・・あ、あの、誰か来たんですか?」

 聞いたと同時にドアが開く。カウベルの音を鳴らして入ってくる人は入口でヘルメットを取る。

 中から長い髪が落ちてそれをかき上げると顔がはっきりと見えた。


「え!亜矢香さん?」

「あら?おはよう、藤川さん」

 にっこりと笑って答えてから真っ直ぐこっちに向かってくる。そしてアイアイ先輩の隣りに座る。えっと・・・・なんでだろう。そんな疑問を持っているとさらにもう一人、後ろから入ってくる人がいてやはりヘルメットを取る。


「今度は相澤君?」

 声に気が付いたみたいで私の顔をチラッとだけ見て

「あやせもいたのか」

 そう言って何の断りもなく私の隣りに座った。手にしていたヘルメットを確かめてからあらためてカウンターの椅子に置いた。


 えっと・・・この状況って一体なんなのでしょう。私は説明を求めていることをアピールする視線を全員に投げかけたがそれには誰も答えてくれない。


「お腹空いたでしょ」

 私の求めている答えとは違う言葉。アイアイ先輩が出した最初の言葉だ。

「・・・ええ。まあ」

「だってさっき大きな音したからね」

 え?まさか、聞こえていたの?あの爆音で?かき消されていると思っていたから返す言葉もなくただ口をパクパクさせることが今の私に唯一できることだ。同時に顔が熱くなってくるのも自分で分かる。


 ちょうど頃よくマスターが奥から顔を出してみんなが席に着いたことを確認する。

「お、おはようございます」

「おはよう藤川さん。それに亜矢香と瞬も」

 二人共挨拶をする。亜矢香さんは自然な声で、相澤君はボソッとだけど一応私には聞こえた。


 運ばれて来た朝食はなかなかの豪華仕様だ。お店のモーニングでは到底お目にかかれない。

 エッグベネディクトの隣りには山盛りのサラダがあり、旬の果物サクランボは真っ赤な色がツヤツヤしてとてもきれい。

 一番驚いたのはテーブルの真ん中に今日の主役だと主張しているステーキがあった。さっきの匂いの正体はあなたでしたか。

 朝から?ってこんなのは初めての経験だよ。パンチのあるニンニクの香りは朝といえども私の空腹に抗うことは出来そうにない。鉄板の上でパチパチと油が弾ける音は食欲を高めるための最高の効果音だということが胃に染みて、いや身に染みて理解した。


「お待たせ。熱いうちに、どうぞ」

 マスターは笑顔で言ってくれる。

「いただきます」

 誰もが真っ先にフォークを手にしてステーキから攻めてゆく。人数分にカットされていて鉄板はあっという間に空になる。後には付け合わせのニンジンのグラッセとクレソンが置いてけぼりになっていた。もちろん肉の後で頂くから待っててね。

 私はもう一度いただきますと言ってから一口大に切って頬張る。

 口に入れた瞬間、美味しいが一気に脳髄の頂点に達する。

「・・・お、おいしい・・・柔らかくて・・甘い」

「気に入ってもらえたかな?」

「マスターありがとうございます。私、朝からステーキって初めてで。正直すごく感動してます。あ、でもマスターの分は?」

「朝から肉ってなかなかないと思うけど意外とイケるでしょ。家では割とするけど。それと僕の分は平気だ。年寄りにはちょっとね。気にしなくていい」

 手を軽く振ってマスターはコーヒーを飲んだ。いつもの匂いはホント落ち着きます。それとお店に染み込んでいる匂いはステーキをもってしても負けることはない。素直にそう言うとマスターは笑ってくれた。


 料理はどれも美味しくて面白いほどお皿はきれいになくなってゆく。気が付くとさくらんぼまで種とヘタだけの姿に変わっていた。私のお腹はこれ以上ないくらい至福という言葉に満たされた。


「ごちそうさまでした」

 感慨深くマスターと食事に感謝する。こんな幸せはなかなか味わえるものではない。

 それにしてもどうして私はこの場所に招待されたのだろう。特別に何かをしたわけではない。だから最初に誘いを受けた時アイアイ先輩とだけで食べるものだと思っていた。

 食後は言うまでもなくコーヒーを頂く。この香りにこの味。やっぱり好きだな。ここのおかげです。すっかりブラックで飲むのが普通になってしまいました。

 

 みんな一息ついたところで

「今日は本当にありがとうございました。どれも美味しかったです。それで、あの、どうして私は招待されたのでしょうか?」

「あやせ、今日はまだまだこれからだよ」

 時間を見るとまだ九時。確かにアイアイ先輩の言う通りです。

 でもこれから始まる一日よりこの時間の方が濃密で楽しかったのは間違いではないだろうけれど言われてみて確かにそうだよね。これからの予定って何があるというのだろう。せっかくだからもう一度ルートの確認とか荷物の確認とか、先輩もいることだしもっと細かく丁寧に聞いてもいいよね。


「・・・先輩はこれから何か予定があるんですか?」

 私の質問に飲もうとしていたカップを戻して

「今日はあの日から初めての定期検診の日なんだ。だから昼くらいには病院に行く予定」

 病院というワードを聞くだけでなんで心臓が不規則に鼓動を打つのだろう。さっきまでのことが現実から急に遠く感じてしまう。

「・・・病院」

「そんな不安そうな顔するな。ホントにただの検診だから。それがたまたま今日だったって話。別に体調が悪いとかじゃないから」

 先輩の病気のこと正直忘れかけていた。なら目の前の相澤姉と弟は?

「一緒に行ってもらうんだ。病院ってさ、分かっていても心細くなるっていうかさ」

 先輩はちょっとだけ笑う。どことなく子供っぽく見えたのは私の気のせいなのかな?それとも照れてるのかな?おかげで自分自身のことも思い出した。


「・・・分かります。その気持ち。私も今から予約入れます。親との約束忘れていたんで」


 そうなのだ。旅に出る前には病院で検査するって約束してた。

 最近はバタバタしてたし、楽しいことだらけだったから。それと自慢じゃないけど、私はもう大丈夫だと思っている。

 病院に電話をして名前を言ってから担当だった先生に繋いでもらう。日曜日だけどいるのかな?そんなことを思いながら待っているとちゃんと先生はいてくれた。

「あの、急じゃ無理ですか?」

「そういう理由なら僕の昼休憩にやろう。どうせすぐ終わる」

「でも先生のお昼が」

「気にするな。飯よりも君の方が優先。実は前々から君のお母さんから事情は聞いていたんだ」

「そうなんですか?あの、ほんとうに急ですみません。ありがとうございます」

 私は深々と頭を下げて電話を切ってから今度は親に電話して病院のことを話した。お母さんは『分かった』と言っただけで簡単に終わった。

 これで今日の私の行動は決まった。先輩の時間とほぼ一緒だったからこのままここで時間を費やすことにした。


「ねえ、あやせ見て」

 先輩は舌を出すとそこには結び目の付いたさくらんぼのヘタがあった。それは先輩だけじゃなく亜矢香さんも相澤君も同じようにしていた。


「へ〜、こんなことできるんですね」

「あやせもやってみる?」

 渡されたヘタを私は頷いてから口の中に放り込む。口の中で舌と歯を使ってやってみる。こんなことするの初めてだし要領がよく分からないけど、舌先の感覚となんとなくイメージで


「・・・あ」

 私は口の中から出してみる。それはちょっと不格好だったけど一応結び目は出来上がっていた。コツは分かった。あと何回か練習したらもっと上手くできるようになるだろう。


「初めてでしたけど、どうですか?」

 それを見て先輩は急にニヤニヤし始める。いったい何?

「これが出来るってことは、あやせはキスが上手なのかもしれないよ」

「き?キス?」

 大きな声が出た。キスなんて、キスなんて・・まだだよ。それにどんなキスが上手いっていうのか分からない。ならここにいる人みんなそういうことになる。もしかしてみんなは経験済ってことなの?


「まあ、昭和時代の大人の遊びでさ、私もお客さんから聞いたんだ。こんなこと真に受けるなんてあやせってやっぱり純真ってことだよね。見ていてこっちが照れちゃうよ」

 アイアイ先輩はそんなことを言う。私は気になってじっと先輩のクチビルを見ていると

「気になる?実は・・・私もまだしたことない」

 私の意図を感じ取ったのだろう。答えてくれた。そして笑ったから私も笑った。

「みんなまだ高校生だもんね」

「そういう亜矢香はどうなの?」

「ひ・み・つ」

「なによそれ」


 二人がじゃれ合っているとなんだか双子がじゃれ合っているように見える。歳は違うけどそれだけ似ていた。

 急にお姉ちゃんのことを思い出して懐かしくなる。向こうは夜だよね。今はまだなんとなく起きているんじゃないかって、電話したらきっと出てくれる気がする。でも電話はまた今度。私の旅が終わった時、きっとたくさん話したいことあるはずだから。


「やっぱり俺も行くのか?」

 今までずっとスマホばかり見ていた相澤君が話しかける。視線から画面を離すことはなかったけど。

「そのつもりで呼んだんだけど。まさか朝ご飯、食い逃げする気じゃないでしょうね」

「言い方な。亜矢香とあやせがいれば俺は必要ないと思っただけだ」

「そうかもしれないけど瞬だって気にならないの?あれから初めての検診なのよ。大丈夫だって分かっていてもこういう気持ちは共有したいじゃない」

「ならなぜあやせを呼んだ?」

 そこに亜矢香さんが割って入って二人の間を取り持った。亜矢香さんに言われて相澤君は軽く溜息をついて了承した。アイアイ先輩は小さな声でありがとうって言った。


 それでもまだ出発するには時間がある。まったりとした時間が流れている。コーヒーの湯気ですらのんびり天に延びているように見える。こういう時間を過すって結構大事かも。静かな音が聞こえるなんてことなかなかない世の中だから。

「なんか音楽でも聞かない?」

 先輩のリクエストに答えるようにマスターはレコードを手にしてターンテーブルの上に置く。

「え?それって動くんですか?」

 レコードプレーヤーはカウンターの奥にあって、私はてっきりインテリアとして置いているだけかと思っていた。それにレコード自体本物を見るのは初めてだった。CDの何倍も大きくて持ち運びには少々不向きなように見える。

 興味津々でマスターの動きを見ている私にマスターは見せつけるようにゆっくりとレコードに針を落とす。スピーカーから聞いたことないプツプツという音がしてからやがて音が聞こえてくる。

 クラシック音楽で題名は知らないけれど聞いたことがある。派手ではなく壮大な音の世界が広がっているみたい。今のヒトトキに合っていて耳に入る音は柔らかい。気分はさらに落ち着いてゆく。このままだと眠ってしまうかもしれない。


「初めて聞きました。レコードの音って優しいんですね」

「そっか。初めてか。でも音の違いはちゃんと分かるみたいだね」

「違い?」

「そう。デジタルとアナログの決定的な違い」

 マスターは私の感想に満足そうな顔をしてその違いを説明してくれた。おかげでいろいろ勉強になった。

 人がモノを作る歴史って発想が始まりになって、実際に試作を重ねてやっと頭のイメージの形となって、発展して実用化してゆく。それが時代と共にどんどん進化して多岐に分岐してゆく。

 その中からどれを選ぶかは個人の自由だけれども、こういういろいろなプロセスを経て今の私達の暮らしが便利になっているということが分かる。

 レコード・・・もしかして家にあったりして。今度お父さんに聞いてみよう。


 朝食だけじゃない時間も贅沢につかった日曜の朝。出発前の最高のひとときが流れていた。

皆さまの音楽を聴く時のツールは何ですか?

読んでいただきありがとうございます。

私はCDが多いですがレコードもあるのでゆったりしたい時は断然こっちかな。

MDなんかもまだ現役で動いています。←若い方は馴染みないかな。

もう生活の一部なので音楽のない日はありません。

そんな感じなので聴いている曲によって物語のテンションも変わる私です。

さあ、針を落として続きを・・・

次回もよろしくお願いします。

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