私達の青春
私とともりの買い物は瞬殺で終わった。
相澤君の連れて行ってくれたお店はこの間とは違って裏通りの路面店だった。想定していた予算の七割くらいで買うことができた。
相澤君いわく、これなら問題いない、との事。ともりも同じものを購入した。色違いだけど。
「ありがとう。ずいぶん安くあがった」
「ホント。じゃあこれからみんなでお茶でいいの?瞬君」
「俺も腹減ったし亜矢香さんにも早く会いたい」
時計はもう正午を半分過ぎたところだ。確かにお腹は減ったかな。
それよりも相澤君がお姉さんのこと言った通りみたい。つい好奇の視線で結城君のことを見てしまう。
「なんだよ、藤川」
「私も亜矢香さんに会うの楽しみだな」
「へぇ、知ってるんだ。俺なんか幼稚園の時から知ってるからな」
「気付いてもらえるといいね」
結城君は一瞬顔が赤くなったがすぐに体勢を立て直して
「ま、まあな。けど藤川、余計なお節介だけはしてくれるなよ」
「はいはい。人の恋路は見ているだけでいい。けど、もし話したいことあったらその時は聞いてあげる」
そんな私達のやり取りをまだ事情を理解していないともりが肩を、トントン、指で叩く。
「あやせ、誰?」
「えっと言ってなかったっけ。亜矢香さんって相澤君のお姉さんのことだよ」
ともりは目をパチクリさせて驚く。
「・・い、今から?お姉さんに会いに行くの?」
「えっと、会いに行くっていうか、相澤君家がやっているお店でバイトしているんだって」
「行きたい。早く行きたい」
相澤君は軽く溜息をついて歩き出す。余程お姉さんに会うのが嫌なのか、私達に紹介するのが嫌なのか、どっちともつかないような溜息だった。
お店は前回お邪魔した時よりも忙しそうだった。人もずいぶん並んでいる。
これってさ、一体どれくらい待つことになるのかな、そんなことを思って列に並ぼうとすると
「何をしている。こっちだ」
相澤君は列を無視して通り越して店の中に入ってゆく。
ちょ、ちょっと、親の店だっていくらなんでも・・・あんたの性格からして待つなんて時間の無駄くらいにか思っていないとしても、世間には世間のルールってあると思うんだ。
なんて心配をしたところで聞く気なんてないと思うけど・・・仕方ない・・・周りの視線は気になるが黙って後に続いて中に入るといきなりお姉さんが立っていて
「いらっしゃいませ。皆さま心よりお待ち申し上げていました」
「こ、こんにちは」
「あやせ様、お待ちしておりました。お席の方にご案内します」
私達の案内されたテーブルの上には『ご予約席』と書かれたプレートが置かれていて、すでに椅子の分だけメイドさんがいて椅子を引いて待っていた。
なるほど、こういうことだったのか。
相澤君の行動に納得。そしてちょっとだけ安堵する。
案内されて私達は椅子に座る。二回目だから多少気持ちに余裕はあるがやはりこの雰囲気は独特だよね。
結城君は・・・予想するに何回かは来ているはず。余裕がある。
さてともりは・・・・初めてだよね。今はドギマギしているに違いない。あの時の私のように、と思って見ると
「・・・ともり、ずいぶん落ち着いているね」
「もしかしてあやせは私が初めてとでも言いたいの?」
返答にもずいぶん余裕がある。それに虚勢を張っているように見えない。
「私、このお店来たことある。って言っても去年だけど。へぇ〜、ここって瞬君の親がやってるお店だったんだ」
意外な答え。
かえって私の方がドギマギしてしまう。っていうか去年って。受験勉強で忙しいはずなのに。ずいぶん余裕あるじゃん。
もしかしてともりって私より入試の時の点数良かったのかな?いや、今はそこは気にするところじゃない。もっと別のことだよ。
「そ、そうなんだ。へぇ〜」
「だって噂になってたんだ。この辺りのメイド喫茶で瞬君の目撃情報があるって。遠いけど一回だけ来てみたんだ。その時は結局会えなかったけどね。でもたまたま休憩で入ったお店がまさかのビンゴだったなんて。やっぱりちょっと感じちゃうよね、運命かもって」
耳元で囁いた声には幸せそうな顔も一緒についてくる。鏡があったら見せてあげたいよ。
恋ってやっぱりすごい力を持っている。恋にキラキラしているって素敵なことなんだろうな。
結城君だってそんな風に見えるよ。
「ご主人様、メニューです。どうぞ」
亜矢香さんは一人一人にメニューを渡してゆく。先ずはともり、私、結城君の順。結城君は手渡される時に『久し振り』みたいなことを言っていた。小さかったからよく聞こえなかったけど口の動きからして多分そんなこと。最後に相澤君に渡して
「みんな同じ部なんでしょ?」
「仕事中じゃないのか?」
「そうだけど、聞いてみたっていいでしょ身内なんだから」
やはり二人の会話は姉と弟といった感じが拭いきれていない。それでも二人の容姿が良過ぎるせいか、そんなことすら人目を引いているような気がする。
「はい。そうです」
相澤君が答える前にともりが答える。正面にいる結城君も頷いて答える。私はちょっとだけ笑顔を込めて亜矢香さんのことを見た。
「そっかそっか。私はこいつの姉をしている相澤亜矢香です。よろしければお客様のお名前教えていただいてもよろしいでしょうか?」
初めて会うともりに言う。ともりは身体をシャンとさせて
「は、初めまして。私は逸見ともりと言います。瞬君とは部活だけじゃなくクラスも一緒なんです。よろしくお願いします」
亜矢香さんは笑顔で『よろしくね』と言う。その笑顔はやっぱり相澤君というよりはアイアイ先輩の方が似ている。
私達はオーダーしたモノを食べ終えてから飲み物が終わるまで休憩をしていた。
みんなスマホをいじったりしていたから会話らしい会話は今は特になかった。私もアイアイ先輩に買い物が無事に終えたことを伝えたりして。
その頃にはもうみんなのカップの中身はほぼ空になっていた。店を出る頃合いなのかもしれない。一応私自身の用事は済んだわけだが、じゃあここで、なんて言い出せるような雰囲気じゃない。きっと他の買い物にも付き合わされるんだろうな。
「なんだ?」
あ、つい、無意識に相澤君の顔を見ていた。え、えっと・・・なんか言わないと
「あ、あの今日の買い物ありがとう。それでこれから相澤君達は何を買いに行くのかなって」
「あ。私も聞きたいって思ってたんだ」
今までスマホの画面を見ていたのにともりも会話に参戦してきた。
「そう言えば俺も聞いてない」
もちろん結城君も参戦。
みんな、もしかして会話したかったのかな。でもまあ。黙って画面を見ているだけなんて面白くないよね。せっかくこうしてみんなでいるのに。相澤君はスマホをテーブルに置く。
「俺は亜衣花にお前達のことを頼まれただけだ。これから買い物の予定はない」
え?うそ?でもアイアイ先輩は確か相澤君達が行くから一緒にって・・どういうこと?
「え?ホントにそれだけ?」
どうやら相澤君の言っていることは本当らしい。それにここの会計は全部先生持ちだった。
「だって、もう貰ってるから」
亜矢香さんはそう言ってにっこりと笑う。やっぱりアイアイ先輩にそっくりだ。
「それとこれ」
今度は封筒を相澤君に渡した。開いて中を見てみると
「お、これって」
「だよね」
「これも先生から?」
私達がおしゃべりしている間も相澤君は特に何かを言葉にすることはなかった。それよりも今のこの状況のことを考えているみたい。
「これはね、部長さんから」
「え?あの、これってどういう・・・・・」
私が最後まで言う前に亜矢香さんが言う。
「新人同士で絆を深めろってことでしょ。これから一緒にやっていくんだからもっと仲良く、っていうよりはもっと他の人のことを知ろうってことだと思うな」
「・・・確かに今ここにいるのは新入生ばかり・・・」
「そういうこと。じゃ、理解したなら早速行動あるのみ。いってらっしゃい」
私達は背中を押されるように店を後にする。
街の人混みはさらに増したみたい。おまけに駅前にはイベントを見ようとしている人達がスシヅメ状態になっている。まだ始まる様子はないけれどそこにいる人達の熱気だけは伝わってくる。
それぞれの休日を楽しんでいる。みんな自分自身の人生を楽しんでいる。そんな風に見える。もちろん私達だってそうなんだ。
部活を通してみんなと知り合って同じ目的と時間を共有している。これが青春というなら今まさにその中心にいる。私は私の楽しい時間の真っ只中にいる。充実しているんだ。心は羽根のように軽くてどこまでも飛んでいけるような気分さえしてくる。それはきっと私だけじゃないようね。
「何をそんなにニヤニヤしている?」
「あやせってさ、ほんと顔に出るよね」
「藤川ってさ、純粋なんだよ」
みんなからツッコミを入れられる。
ああ、こればっかりは自分じゃどうしようもできないんだから・・・でもさ、みんなが私のことを見ていてくれる。いや私だってみんなのこと見ているし、それはみんなだってそうだよね。
「だってさ、これからもっとみんなのことを知って楽しくなるって思ったらさ・・・」
「分かる。あやせ、私も同じ気持ちだから」
「俺も。いいよなこういうのって、なあ瞬」
「・・・」
相澤君も何か言いたそうな顔をしただけですぐに切り替えて
「行くか」
そう言って歩き始める。私達も当たり前の様にその後に付いてゆく。というよりは同じラインに立って一緒に歩き出す。
私達の後ろでは大きな歓声が弾ける。きっとステージが始まったんだ。
いよいよだね。
今この時間は本番に向けてのほんのヒトトキのこと。そして。その先にはまだ私の知らない楽しいことが待っている。
見上げるとビルの隙間から空が見える。これが今の景色。これも今しか見ることの出来ない空だよね。
気が付くと空に向かって手を伸ばしていた。なんでこんなことしてんだろ?自分でも分からない。
今はそうしていたいという言葉にならない想いが形になったとでも言った方がいいのかもしれない。
なんだろうこの感覚、とても不思議で気持ちいい。
「ねえあやせ」
「なあに。ともり」
「何してんの?」
「分かんない」
言葉にするとなんだか可笑しい。私は笑って答える。ともりも一緒に笑う。
「変なの。でもさ」
同じように手を空に延ばす。
「なんかこういう気分だよね」
何時しかみんな空を見ていた。空のどこかを見ていた。
それは今ここにしかない空気や匂いや音とか、とにかく私達を取り囲む全てが五感を通して気持ちよく感じているから。
こんな素敵な機会を与えてくれた先輩達に感謝です。無敵とまでは言わないけど今の私達は最強だと思います。きっと先輩達も同じことを思っていたんだろうな。今の私達のように。
私の希望と期待はこの空の色のようにますます濃くなっていく。
たくさんの景色がこれから見れるかと思うと自然と心が奮えていた。
やっぱ同級生同士が盛り上がる。
読んでいただきありがとうございます。
いろいろな世代との交流だっていいものです。
でも同じ時間を生きた者同士の共感はナニモノにも代えられないと思います。
彼女達の出発の日は近いです。
やっと私も一区切りですかね。
次回もよろしくお願いします。




