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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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43/49

いよいよです

 あれから一週間が過ぎる。

 月曜日の授業が終了してやっと罰ゲームの禁が解かれて晴れて自由の身になった。

 三日とはいえ長かったことには変わりないので私は心底ホッとした。その瞬間からイケメンのことは元通りの呼び方で呼ぶことができる。もちろん細心の注意を払っていたから数えるくらいしか名前を呼んでいないはず。それを見て楽しんでいるように見えたのが癪に触るが私にだって意地がある。


 クラスにももちろん知れ渡ったわけだが、私は聞かれる度にじっくりと説明して理解を得ることにかなりのエネルギーを使った。おかげで体重が二キロも減ったのはこれのせいだってはっきり言うことができる。


 しかし、だ。

 罰ゲームが終わっても相澤君は私のことを名前で呼ぶことをやめる様子は一向にないらしい。

 

 一度聞いてみたけどその返答は『こっちの方が楽だ』というのが最大の理由らしい。

 だから私もともりのことも名前で呼ぶなら続けてもいい、という条件を出す。この条件はきっと相手にもハードルが高いはずだし、なぜだ?って聞かれると思っていた。

 けれどそこは素直だった。そんなに私のこと名前で呼びたいのかな?


 ちなみにともりはいきなり名前で呼ばれたからか、最初は理解できない顔をしたのに状況の情報が脳に到達した瞬間、顔に赤いペンキを塗ったような色になって返答もシドロモドロになった、が、私には分かる。もの凄く喜んでいるってこと。その日はなんだかずっと赤ら顔でいた。


「男の子に名前で呼ばれるってちょっと免疫ないよね」

 そのことには素直に同意。

「でもさ、嬉しいよね。これってさ、やっぱり一歩近づいたみたいってことでいいのかな」

 そういうのにも理由がある。

 あの日。結城君が相澤君にともりのお弁当のことを相当好評価で言ったのがよかったのか、相澤君から『一度食べてみたい』という言葉を掛けてもらったともりは次の日お弁当を作って渡したのだ。

 それは簡単に受け入れられて好評価を得た。オカズには出汁巻き玉子だってちゃんと入っていて、それが一番美味いと言われたのが相当嬉しかったみたいだ。

 この一件で私の罰ゲームのことは全部チャラになったといえばいいのだろうか、以来その話はどこかに消えていた。そのことにもホッとした。


 そして。

 いよいよ明日から待ちに待ったゴールデンウィークが始まる。今年はなんと10連休ということで出発自体は二日後に設定されている。

 いろいろと少なからず問題は残っていたけれど、システムは先生の判断でゴーサインが出て今回から本格的に運用されることになった。これで私達の安全がどれくらい確保されるかはまだ未知数だったけど、少なくとも天運に身を任せるようなことはない。ハイテク機器が溢れている現代的なやり方だし相澤君と結城君という学年一位と十位の支えもある。それに何と言っても私にはアイアイ先輩という心強くて尊敬している先輩と一緒というのが旅への期待をますますかき立てている。


「なあ、あやせ」

 部室でアイアイ先輩に声を掛けられる。

「はい。なんですか?」

「背中が踊っている。嬉しいのは分かるがあんまり浮かれていると事故の元だから」

 そんなこと言われても無理です。ってはっきり言いたい。けれど先輩の言うことも最もなことだからここは一つ緊褌一番で気合いを入れて引き締めないとね・・・・

「は、はい。気を引き締めてます」

「ほんとか?ずっと顔が緩んでいるからそう言われても」

 いかんいかん。私の顔にはフィルター機能がない。それにアイアイ先輩だってイトコということで相澤君と同じようにエスパー的感覚が備わっている可能性だってある。


「ホントですって。信じて下さい」

「まあ初めてだからな。それじゃもう一回ルートと日程と所持品のリストのチェック」


 机に向かい合って関東と関西と四国の地図を広げる。


 スマホの画面は小さくて見辛い。こういうときはやっぱり紙の地図が一番だと先輩は言った。

 確かに全体を見るには見やすいし、一度にたくさんの情報が分かりやすくなっている。

 今はデジタルで何でもできる便利な世の中だけど、それにはどれも電力が必要になる。だからいざという時にアナログに慣れておく必要があると言ったのも先輩のアドバイス。

 正直ちゃんとした紙の地図をじっくり見るなんて初めてだよ。私が今までに見たことあるのは教科書とか駅にある表示板の地図くらいだ。


 先輩は地図の見方を教えてくれて等高線の意味も教えてくれた。もし山の中で迷って歩くことになったら役に立つということだ。そんなの部活に入らなかったらきっと知ることはなかったのかもしれない。


 結構細かく色々な情報が詰め込まれている。県境や山の高さ、さらに幹線道路には細かく距離が区切られて書かれている。これなら歩くことになっても目安になる。

 

 もちろんスマホにだってできる。


 けれどもし電波が繋がらなかったら?もし途中で電源を喪失したら?


 そう考えると確かに知っておいて損はない。これは最悪の事態の時で、そうなる前にマネージャーの二人から的確な指示が来るはずだ。

 そう思って二人のことを見ると視線に気が付いたのか向こうもこっちを見る。結城君は笑顔で答えてくれるけど相澤君は平坦な視線で見ている。きっと私の顔を見て浮かれていることを見抜いているのかもしれない。なんたってエスパーだもんね。


「あやせはモバイルバッテリー持ってる?」

「えっと、土曜にでも新宿に買いに行こうかなって」

「ならちゃんとしたものを買うんだ。安いのはあまり勧められない」

「そうなんですか?どれも同じだと思ってました。だから安いのでもいいのかなって」

「そういうのは限度がある。そうだ、土曜なら瞬と一緒に買いに行けばいい」

「え?相澤君と?」

「たしかアキバに行くって言ってた。瞬に聞いたらいいのが買える」


 アイアイ先輩は私が同意する前に相澤君のことを呼びつけて今話していたことを伝えると

「ああ。構わない」

 との返事。その様子を反対側の席で窺っていたともりが

「私も必要なんだ。どれ買おうか迷ってて」

「じゃあともりも一緒ということでいいんだな」

 こっちもあっさりと了承する。エスパーではないが今の私にははっきりと見ることができる。ともりはきっと心の中でガッツポーズを決めていたのだろう。あまりにも嬉しいのか無意識に右手の拳は固く握られていた。

「用件はそれだけか?」

「二人のこと頼んだ。あと、亜矢香にも連絡しておくから三人でご飯でも食べてきたら?」

「まあ・・・考えとく」

 そう言い残して元の場所に戻っていった。


「あの、アイアイ先輩。相澤君、迷惑がってないかな?」

「そんなことはない。もし迷惑だったらアカラサマに嫌な顔をするからな」

 確かに今までは何か言うと眉間に少しシワが寄っていたような気がする。けれどさっきの顔にはそんなものはなかった。むしろ全然平気だと言わんばかりの普通の表情だった。

「ならいいんですけど」

 アイアイ先輩は笑顔で答えてくれた。きっと先輩の言う通りだと思う。

「さ、あやせ続き」

「はい。頑張ります」


 楽しい時間は駆け足でもしているみたいにあっという間に過ぎてゆく。

 どうしてもっとゆっくりとしてくれないのかな?そんなのは気のせいなのかな?


 私は自分がもっと小さな子供の頃を思い出す。

 病院の待合室の時間は待てば待つほど引き伸ばされているような感覚がして、そのうちベンチと一体化してもう二度と元の世界に戻れないって子供心にも怖いと思うことがあった。

 それでもいつかは自分の順番が廻ってきて診察室に行って、そして検査して、また少し待って病院を後にすると時間の流れはいつの間にか元に戻っている。だからもっと早く時間が流れるなら私にとって苦痛な時間は短くて済むのに・・・・そんなことをよく思っていた。


 いろいろな環境や状況によって時間の流れる速度は変わる。もちろん時間の速さは不変であることには変わりない。実際にそんなことが起こったらいろいろな法則がどんどん崩れてゆく。世界はあっという間に崩壊してしまうだろう。


 でも実際には自分が置かれたその時の位置によって時間の速度は変わる。それは肌で感じるくらいに。だから余計に不思議だと思ってしまう。

 もしこの世界に時間という概念そのものがなくなったとしたら一体どんな世界が広がっているのかな?今はもっともっとこの瞬間を大切に味わっていたい。願いはただそれだけなのにな。


「あやせ」

 先輩の言葉で我に返る。ずいぶん遠くまで行っていた。

「ちゃんと聞いてた?」

「はい。ちゃんと聞いてます。ただ・・・」

「ただ?」

「今・・・私は先輩とこうやっていろいろ話しています。こういう時間も楽しいって思っていたんです」

「・・・ちょっと休憩しようか」

 私の言葉の意味を確認するみたいに先輩は笑顔になって言った。

 私はポットからコーヒーを注いで持っていった。先輩はいつもブラックを飲む。私も真似ていたらいつの間にかそれが当たり前になっていた。手渡すと先輩はありがとうと言って一口飲んだ。私も同じように飲む。


「あやせの言うことも分かるよ。いろいろ計画して想像して悩んで。全部紙の上でのやり取りだけどそれもまた旅の醍醐味だって。でもここをおろそかにすると実際に困ったことが起きたらかなり後悔することになる。私だってそうだった。初旅は一人だったから余計にテンションが上がって。だから今のあやせを見ているとあの頃の自分と重なって見えるんだ」

 そう言われるとなんだかちょっと恥ずかしい気もするし、同時に自分がまだまだ浮かれていることを指摘されているような気もしてくる。先輩は自分の経験で得たことを私に伝えようとしているんだ。


 コーヒーを飲んで少し冷静になった私は余計なことを考えるのは後にして今はもっと本気にならないといけない。じゃないと最後の旅を私と一緒に行くことを選んでくれた先輩に申し訳ない。頬を両手でパンパンと叩いて

「もう大丈夫です。浮き足立った人間は足元から掬われるってよくお父さんが言っていました。先輩、もっと私にいろいろ教えて下さい。よろしくお願いします」

 私の顔をじっと見つめてからアイアイ先輩は残りのコーヒーを一気に飲み干して

「よし。そこまで言うなら今度の旅で私のノウハウ全部叩き込む。覚悟してちゃんとついてくるように」

「はい」

 今までで一番気合いの入った返事だったような気がする。


 最初に決めていたじゃないか。

 私にとっては初めてで先輩にとっては最後。だから最高の旅にするって。それがどういうことなのか少しずつ理解してゆく。それに初心って大事だなってあらためて思った。


 とりあえずだけど九割くらいは計画は練れた。そう先輩は言っていた。後は実践あるのみだってことも。


 私達は本番に向けての前準備はほぼ完了した。

春・・・ついに三月になりました。

読んでいただきありがとうございます。

今月にはこの物語も一区切りになりそうです。

タイトルからして旅に出ていると思っていた人もいるかと・・・

もどかしい思いをされていたら申し訳ないです。

でも出発は目の前です。

その瞬間が来るまでお付き合いしてもらえると嬉しいです。

次は金曜日です。よろしくお願いします。

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