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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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42/49

あやせ、私は頑張れる子

 ともりはどこに行くか決めていないみたい。

 私達はなんとなく校舎の周りを歩き廻っていた。休日の学校はどこを見ても暗くて窓から見える廊下にある避難口誘導灯の緑の明りと消火栓の赤い明りが不気味に光っていた。

「・・・ともり。どこに行くの?」

 特に答えはない。私はともりの後ろ姿を見ながら歩く。長い黒髪はピクリとも動かない。

 仕方ない。まだ話すには決心が必要ってことか、それとも何かきっかけを待っているのか。とにかく今はまだその時じゃないんだろうな、ともり的には。

 だからともりの歩きたい気持ちに合わせて私もますます無口になっていった。


 やがて私達は校庭の外れにある桜の木の下に辿り着いた。色のはげた木製のベンチがあってともりは何も言わずにそこに腰掛ける。とりあえずこれで歩くことは終わった。いよいよ次は説明だよね。そんなことを思いながら見上げる桜の木には花びらは残ってなく鮮やかな緑色をした葉がある。季節が流れるのってこんなに早いんだ。そんな感傷に浸っていると


「あやせ」

 話しかけられて目線を合わせると

「座ったら?」

 ともりは自分の隣りの場所を手で軽く叩いた。私は頷いて言われた通り座る。横目でともりのことを見てみるとさっきとは違って落ち着いているように見える。きっと自分を落ち着かせるために歩いていたのかな、多分。そして落ち着いた、と。これでやっと私の言い訳を聞く気になったんだろう。

 

 なら。

 と思って話そうとする前に

「・・・・・ビックリした」

 ともりの方が先に話し出した。私は自分の言葉を一旦飲み込んで

「ショックだったし、嫉妬もした」

 そんな風に言われるとともりに対してもの凄く嫌なことをしてしまったような気がしてくる。私はただ巻き込まれただけで、決してともりの気持ちを傷つけるつもりはない。

 でも私には言い訳するだけの用意はある。

 これはただのゲーム。

 それも罰ゲームだと強調。

 そのことをちゃんと言えばともりならきっと納得してくれる、はずだ・・・・・と思いたい。


「あのさ、いいかな・・・私の話し聞いてくれる?」

「うん。だってそのためにこうしているんだから」

 私は今日あったそのままのことをそのまま話した。間違ったことは一つもないと思う。盛ってもいないし自分の都合に合わせて改ざんなんてもっての他だ。何もかも正直に話している。これなら私の気持ちは伝わるはずだよね。


「・・へ・・へぇ・・・・」

「分かって貰えた・・・かな?」

 ともりの表情を見ていると、なんだろう、今一つ腑に落ちていないように見える。でも次の言葉がなかなかないのはなんで?そんな時

「・・あ」

 スマホが震える。ともりに一応断りを入れてから画面を見てみると

「・・・みんなもう着いたって」

 差出人は言うまでもなくイケメンだ。私は画面をともりに見せる。

「なんでわざわざ?早く来いってこと?」

 う、これって火に油を注ぐようなことになっていないよね。でも確かになんでわざわざ?

「しないの?」

「へ?」

「だから返信」

「あ・・うん。そうだね・・・」

 声が段階的に小さくなってゆく。一体なんて言って返せばいいのだろう。ともりは私のことを見つめている。きっと返信するまで話は先には進まない・・・よね。


 うう・・・・とりあえず・・簡単に・・・


 そんな思いをしながら私は簡単に返信する。一挙手一投足の全てを観察されているみたいでなんとなく落ち着かなかった。

「・・あの・・終わった」

 やっと深呼吸。それに合わせるようにともりも深呼吸していた。

「うん。知っている。見てたし」

「だよね・・・・でさ・・」

 あらためてともりに聞いてみる。私だってこんなことやりたくてやっているんじゃない。これは罰ゲームなんだって。何回も重ねて言った。


「・・・仕方ないんだよね」

 今度は大きく溜息。ともりも同じように溜息をした。

「・・・どうしてあやせばっかりなのかな・・私にはチャンスはないってことなのかな」

 うう・・確かにそう言われると辛い。私だって思っているよ。なんで私ばっかり?ってね。

 これが全部ともりが相手ならきっと笑顔で溢れていて、私だって心から良かったねなんて祝福の言葉を投げかけることだってできるのにな。


 黙ったままの時間がしばらく流れてゆく。と言っても五分もなかったと思う。それが私にはかなり引き伸ばされた時間に感じる。ともりはともりで自分の中で何かを決心しているのだろうか、今ままで伏せていた目を私の方に真っ直ぐ向けて


「・・・・・・私はやっぱり自分の気持ちには正直でいたい。今ははっきりとそう言える。例えあやせが意識していないとしても諦めることなんて出来ない。本人からきっぱりと断られることがない限りこんなことで落ち込んでいられない。それにライバルはあやせだけじゃないしね・・・・・なんかごめんね」

「なんで?なんで謝るの?」

 それには言おうか言うまいか少し悩んでいるみたいに見える。ともりはどんなことを思っているのかな。

 

 私には分からないよ。ちゃんと言葉にしてもらわないと・・ともりがそのつもりがあるなら無理に聞こうとも思わないけど・・・けど私達って親友だよね。

 もし言い辛いことならそう言ってくれれば私だって覚悟ができる。それはともりなりの気を使ってのことだと思うけどさ。じっと見つめても答えは得られそうになさそう。ならせめて私の方から前に進む提案をしよう。

「ともり・・・そろそろ行こっか。みんな待ってるし」

 ともりは頷いただけで立ち上がって歩き始める。私はその後ろ姿に続く。ともりの後ろ姿はさっきとは変わっているように見える。長い髪は自分を奮い立たせている象徴みたいに力強く左右に揺れている。歩くスピードだってさっきと比べるとずっと速い。前向きになっている、いやなろうとしているんだ。私は何か言葉を掛けたかったけれど結局お店に着いてしまった。


 アンプレアントの前まで来ると中から賑やかな話し声が聞こえる。それも知っている声がたくさん。遅れて来たということもあって扉に手を掛けたままにしているとともりが一緒になって二人で扉を開ける。きっとともりも同じ思いだったのかも。


 アイアイ先輩はもちろんだけど部長もいるとは思わなかったのでちょっとビックリ。部長は私達の姿を見ると手を振って

「やっと来た。二人共、今日はお疲れさま」

「あの・・部長は・・」

「どうしてここにいるのかって。それはもちろんお土産でしょ」

 部長の瞳はいつにも増してとてもキラキラしている。これは誕生日プレゼントとかクリスマスプレゼントを期待している子供の瞳だ。こんなに純粋な期待に果たして答えることはできるのだろうか。

「・・・・・そうなんですね」

 と、言ったところで思い出す。


 私にはお土産を買った記憶がない。でもちょっと待って。確か先生が任せろって言っていたよね。けど先生も買っている様子はなかったような・・・・それ以上言葉が続かなくてちょっとだけ頭の中が真っ白になっていると

「ま、それは冗談。みんなの元気な顔を見るためだし、お土産っていうのはみんなの今日のことの報告に決まってるでしょ。ほんと長時間ご苦労さま」

 部長は私達の頭を撫でてくれる。手の温もりが優しくて嬉しいな・・・そう言えばお姉ちゃんに撫でられた時のことを思い出す。撫でられるってどうしてこんなに心が穏やかになるのだろう。そのまま素直に受けていると

「あやせ、南はどっちも同じくらいで天秤に掛けている。お前達のことも大事だけど実物の土産もそれくらい大事なんだよ、そうだよな部長」

「(チッ)・・・ちょっとアイアイ。後輩の信頼が揺らぐようなこと言わないでくれる」

「ホントのことでしょ。なら、みんなの元気な顔見れたのならもう帰っても?」

 アイアイ先輩はいたずら子のような顔をして部長に言うと私の頭の置いている手に少しだけ力が入ったのは気のせいではないだろう。

「あ、あの部長・・・・」

「ああ、ごめんなさい、つい力が入った。てへ」


 チラッとともりを見るとはあまり喋っていない。なんとなくだけど相澤君を意識しないよう視線を逸らしているみたいに見える。こりゃまだ引きずっているし完全に納得なんてしてないよね、絶対。

 あの場では本当の意味で何の解決にもなっていない。私の報告だけしかいしていない。この重たい空気をなんとかすることできないのかな・・・・う〜良いアイディア全然浮かばないんですけど


「どうした逸見。元気ないな。ほんとはすごく疲れているとか?」

 部長はそんなともりに気が付いて声を掛けると、自分でも今の状態に気が付いたのだろう。一瞬にしていつもの感じの表情になって

「え?そんなことないですよ。えっと・・・お腹空いたなって思っていただけです」

「?・・・そうか?ま、気持ちは分かる。私のお腹も同じだ。じゃあ逸見に聞いてみようかな」

「何をですか?」

「それは、ほら、浜松のお土産のこととか」

 こうやって二人が並んでいるとホント似ている。それは背格好と髪型だけだけど、それでもこんなに似ている人っているんだな。後ろ姿を見ながらそんなことを思っていた。


「えっと、私もまだ聞いていないんです。ねえ、あやせ」

 ともりはいつものように振る舞っているけど私には無理しているのがミエミエだ。でもそれは二人だけの問題だからこの場に持ち込むのは違うような気がする。それなら私だっていつものように振る舞う。これがきっとともりが今の私に求めていることだと思った。


「実は私も知らないんだ。分かってるのうなぎじゃないってこと。先生がね、任せろって・・だから・・そうだ。先生は一体何を買ったんですか?何時どこでっていうのも気になります」

 カウンターでマスターと話をしていた先生はこっちに振り向いて

「なんだ、見てなかったのか。昼飯を食ったサービスエリアだ」

 そうなの?一体いつの間に?その時の状況を思い出してもやっぱり分からない。

「せめて何を買ったか教えてください」

 そう言うと先生は鼻を触る。鼻?

「そうだ。もっとよく匂いを感じてみろ」

 匂い?私は鼻に神経を集中させると確かにいつものアンプレアントとは違う、いや似つかわしくない匂いを感じる。それはとてもよく知っていて食欲をそそる匂いだ。


「・・・これって、もしかして」

「餃子の匂い♡」

 そう言ったのは他でもない部長だ。私以上に鼻をピクピクさせている。さらに一言。

「ふふ。そう。確かに浜松名物に違いない(笑)」

 答えが分かった瞬間、部長はカウンターに座ってその時が来るのを待ち始める。アイアイ先輩の言う通り確かに食いしん坊みたい。見た目じゃとてもそんな風には見えないけど。それにしてもまさかのお土産が 

「浜松・・・・餃子?」

「なんだ、あやせは知らないのか?浜松の名物はウナギだけじゃない。餃子も人気なんだぞ」

「へ〜そうなんですか・・初耳です」

 アイアイ先輩が教えてくれた。餃子と言ったら宇都宮かと思っていた。

「でもいいんですか?せっかくのお店の匂いがラーメン屋さんみたいになっちゃう。それに他のお客さんにだって」

 それにはマスターが答える。

「見ての通り今日はもう閉店の札を出しているんだ。気が付かなかった?今は君達の部活の貸し切りだから気にしなくていい。それにウチに染み込んだコーヒーの匂いは一回くらい餃子を焼いたくらいじゃ負けることはない。だから藤川さんの心配するようなことは何もない。お、そろそろ上がるかな」

 マスターはニッコリ笑ってから奥に入っていった。


 入れ替わるように奥から出てきたのは、なんとエプロンを着けた相澤君だった。正直かなりの驚きだ。そんなカッコするなんて想像外もいいところ。というかもしかして料理とかできるの?その手には焼き上がったばかりの餃子の乗ったお皿があって、湯気は真っ白になるほど立ち上がっている。その立ち姿は言うまでもない。おかげでともりの瞳は完全に元に戻っている。


「あやせ、何している」

「なにって?」

「手が空いているならタレを作ってもらいたいんだが」

 この状況でそうくるか。これじゃホントに罰ゲーム以外なんでもないよ。ともりには事情は説明してあるとはいえやっぱり辛いことには変わりない。

 ここは私じゃなくてともりに頼んでもいいんじゃない?今までのやり取りで確実に私より料理が出来ることは分かっているはずなのに。それに結城君でもいいんじゃないかな。なんで私なの?

 もしかして私がオタオタしている様子がそんなに面白いのかな?だったらいっそのこと私だって反撃したっていいよね。

 もう。そこから先はなるようになれって。私の中で何かが吹っ切れた。


「・・・わ、分かったわよ、瞬」

 その瞬間、周りの空気が一瞬凍りついたような沈黙が降りる。こうなることだって分かっている。分かった上で私はやっているの。もし誰かに聞かれても、これは罰ゲームなんです、って今は自信持って言うことが出来る。


 どうだ!


 私だってやればできるんだよ。あ・・・えっと、なんでそんな満足そうな顔をしているの?そんなに名前を呼ばれたかったの?もしかしてこれは相手の策略にはまってしまった、ってこと?

 しかしもう遅い・・・よね。


 一気に周りの視線が気になってくる。ここは一刻も早く退散しよう。慌ててアイアイ先輩に一言掛けて厨房の中に入るための暖簾をくぐるとすでに中では束咲ちゃんがタレを入れるための小皿をお盆に並べていた。それと結城君はフライパンの前に立っていて私の姿を見るといきなり

「そろそろこっちも上がる。藤川、手を貸してくれ」

「そうなの?でも私、タレを作るように言われてきたんだけど。そうだ、ともり、呼んで来よっか?」

「ああ、頼めるなら。早くしないと焦げる」

 私はカウンターに顔を出してともりのことを呼ぶ。すぐにこっちに来てくれた。その行動はいつものともりだ。ホントにそうならどんなに今が楽しい瞬間になっただろう。そう思うとやっぱり胸が痛いよ。


 ともりは結城君のところに行った。私は束咲ちゃんと一緒にタレ作りをする。

 先ずは醤油。それから酢を入れて、最後に束咲ちゃんがラー油を垂らす。どのお皿も比率で言ったら二対一対四の割合だ。少々ラー油が多い気もするがそんなのは後で調整すればいい。今度は出来上がった人数分のタレの入った小皿をお盆に乗せる。束咲ちゃんが持ちたそうな顔をしたのでサポートしながらカウンターまで持って行った。

 私達の後ろでは焼き上がった餃子を二人でお皿に移そうとしているところだった。結城君がフライパンの蓋を外すともの凄い湯気と香りが立ち込める。すぐさまともりが丸く敷き詰められている餃子の上にお皿を置いてから二人で一緒に掛け声を掛けて一気にひっくり返す。

「さっきは瞬のヤツ一人でやってたけど、俺にはまだ無理そうだから。どうかな、上手くいったと思うか?」

「多分大丈夫。最後に少しフライパンを揺するといいよ」

「よ、よし。よっと、じゃあいくぞ」

 つい見入ってしまう。そっか。フライ返しとか使うわけじゃないんだ。そういうやり方もあるんだな。ゆっくりとフライパンを外すと

「やった。上手くいった」

「うん。きれいに焼けてる」

 見るとそこにはきれいな焼き色がある。

「じゃあ、これで仕上げだ」

 結城君はそう言って真ん中にもやしを乗せた。私もともりも顔を見合わせる。そんな盛りつけみたことない。そのことを聞いてみると

「なんだ、二人共知らないのか?このもやしは浜松餃子には欠かせないアイテムなんだぜ」

「へぇ〜そうなんだ。物知りだね」

「いやいや、たまたまテレビで見たんだ。そこまで言われることじゃないって」

 結城君の作ったのが最後でみんなのところに向かう。私は束咲ちゃんと一緒に一人一人に配った。部長は待ちきれないのか、誰よりも先に箸を構える。そこでアイアイ先輩がツッコミを入れる。そんな光景を見ていると帰って来たという実感が今になって身体の中を通過してゆくみたい。

 それはみんなが無事だったこと。そして温かく迎え入れていれる人がいること。日帰りだったけどこの部活動の醍醐味を少しだけ感じる。それはますます私の高校生活を充実させてくれるような気がしてならなかった。


 ちなみに浜松餃子はなかなか美味だった。味なんて大体が一緒だと思っていたけど、想像していた以上に何倍も美味しかった。これもみんなで一つのことを終えて、こうやってみんなで食べていることも関係しているかもしれない。それにしても、先生、なかなかやるじゃん。


 葉っぱは芽吹き始めた瞬間が一番色が濃くて青い。それは私だけが感じていることかもしれない。

 でもね、私はそう感じるんだ。きっとこの先だってもっともっと色を付けていくんだろうな。

 

 今はまだこのまま、もう少しだけこの空気を味わっていよう。

 時間は確実に少しずつ前に進んでいるのだから。

餃子。みんな大好きだと信じたい私です。

読んでいただきありがとうございます。

食べ方は人それぞれあるかと思いますが

やはり。定番が一番しっくりくるのは私だけでしょうか?

大きなこと、小さなこと。規模はいろいろですが

みんなで達成って、こんなに気持ちのいいことってないですよね。

感謝と賞賛はみんなで創ったもの。

物語も私と主人公達で創っています。

私は微笑んでいます。ラストを迎えるのは寂しいです。

でも次がある。そう思うことにしています。

次も遊びに来てくださいませ。よろしくお願いします。

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