罰ゲーム・・・始まります
再び私達は車に乗り込む。
東京に向かう高速道路は途中までは順調だったが大和トンネル辺りから速度がどんどん落ちていった。止まることはないが今までの軽快さと比べるとなんと鈍重なことか。
これなら歩いた方が速いんじゃないかな。束咲ちゃんは疲れたのかぐっすりと眠っていた。私と相澤君はデータ収集をやっていたがこれじゃなかなか進まない。それにお尻だって痛くなってくる。
「まだ抜けそうにないな。少し音楽かけてもいいか?」
先生もさすがにお疲れだよね。こういう場合の運転手の希望は最優先される、いやしないとこれからの運転に支障が出る。
私は『構わないですよ』という。すると待っていたかのように相澤君がスマホとカーステレオをリンクさせる。そして画面を見ながら上下にスワイプさせて選曲した。
スピーカーからはなかなか軽快な音楽が流れてくる。正直聞いたことないし先生の趣味だって当然知らない。透き通ったハイトーンの声が心地良い。
「あの、一体誰の曲なんですか?」
「藤川は知らんだろうな。親の世代だからな」
「そうなんですか・・それでもウチでは聞いたことないですね」
「角松敏生」
「・・角松?聞いたことありません」
「ま、テレビも出ないからな。知らなくて当然だ」
しばらく唄に耳を傾ける。私達が普段聴く曲とは違う。曲調だったり音の深さだったり。
「いいですね。私、好きですよこういう感じの」
「なら良かった」
車内に響く唄を聞いていると頭の中に海が浮かぶのは何故だろう。声と一緒に自分も風のように海の上を飛んでいるみたいな気持ちになってくる。
先生は時折小さな音で口ずさんでいるみたい。相澤君は聞いているのかいないのか、それとも音楽自体耳に届いていないのか分からないがパソコンの画面に向かって何かを打ち込んでいる。この人はきっと自分の興味のあることだったらどんな状況になっても永遠にやっていられるんだろうな。そんな私の視線に気が付いたのだろうか
「ところで勝者の特典と敗者の結末がまだのようだが」
そ、そうだった。すっかり忘れていた。当然何も考えているはずもなく
「・・ああ・・それ」
あなたはエスパー。きっともう私の頭の中なんてお見通しなんでしょ。早く罵倒でもなんでもすればいい。どうせ間違っていないんだからさ。
「まだ決めていないなら俺から提案がある」
「提案?」
もしかしてこういうことになるのが分かっていたから考えていたのかな?でも一体どんな提案をするんだろう。
「えっと・・・聞いてからでもいい?」
「聞いてから決める。まあそれもそうだな」
相澤君は特にこっちに振り向くわけでもなく画面に視線を固定させたまま話始める。それはあまりにも自分の思考とかけ離れていて正直混乱する。
その内容とは・・・。
★★★
学校にやっと到着したのはもう日も暮れた夕方だった。
あれからなかなか渋滞は解消しなかった。途中休憩だってできない。疲労でついウトウトしてしまいたいくらいだった。きっとこの状況なら文句は言われることはないだろうなって思っていたのになかなかそんな機会は訪れない。身体は休憩を訴えているのに頭が冴えてしまって・・・それもこれも相澤君の提案のせいだ。
あ〜あ・・・どうしよう・・・
そんなことで頭が一杯になっている時に眠っていた束咲ちゃんが目を醒ました。起きたと同時にトイレに行きたいと訴える。しかしこの渋滞のせいでその希望はなかなか遠かった。
「仕方ない」
先生はウインカーを出して車線を強引に変更して一番近いインターチェンジで高速を降りて適当なコンビニを見つけるとそこに車を停めた。臨機応変だけどこれは私もありがたかった。
車を降りてコンビニでトイレを借りてそれから思いっきり背伸びをした。身体中から心地良い音が聞こえる。ついでに滞っていた血流も快調に全身を駆け巡る。おかげで十分気分転換できた。
周りの景色を見てみると、どうやら山間部のコンビニであるみたい。駐車場は広いし、大きなトラックの姿も結構ある。山肌にはところどころ家があってそこから生活の明りが見える。
「食うか?」
振り向くと目の前にアイスクリームの箱がある。イケメンは六本入りパックを買ったらしい。見るとすでに先生も束咲ちゃんも食べていた。
「一応なんか買わないと悪いからな」
「そ、そうだね」
私の顔は急に赤くなるのが自分でもバッチリ分かる。ったく、しょうがないなぁ。でも本気であんなこと言ったのかな?罰ゲームと分かっていても正直溜息がでるんですけど。
「あ、ありがとう」
受け取って口に入れるとバニラのやさしい甘さが美味しいしなんだか嬉しくなってくる。おまけにところどころチョコレートが入っていてそれがパリパリと楽しい食感を与えてくれていた。
「疲れたか?」
むむ。そんなこと言うなんて・・・やっぱりそういうことだよね。
「ま、まあ・・でもいい気分転換になった。空気も良いしアイスも美味しいし」
「なんで目を逸らす?」
「え!・・・ああ・・そ、そうかな」
私は遠くの景色を見ながら答える。別に意識している・・・んだけど。
「俺の提案には納得できてないのか?」
「そ、そりゃ・・だって急にあんなこと・・・動揺する・・・って」
「罰ゲームとはそういうものだ」
「でもさ、これって私だけじゃん。相澤君の勝者としての・・・」
最後まで言う前に急に後ろに向いて
「大丈夫だ。この条件で勝者として十分機能している。あと二回」
「・・・二回?」
「そうだ。もう始まっている。あと二回間違ったらずっと続くことになる」
「え?ずっと?いやいや・・それはちょっと」
「たった三日のことだ。分かったな・・・・・・あやせ」
なんでわざわざ後ろを向いて言うんだろう?もしかして照れてるとか?あなたにとってそんなことないと思うけどさ。
あ〜こんなの絶対ともりに怪しまれるって。
でもともりならこの条件はむしろ好都合なんだろうな。
しかし・・・私は今まで男子のこと名前で呼んだことない。本当なら簡単なことなんだろうけどそんなに簡単じゃない・・・・たった三日。って言っても短いようでもの凄く長い。明日は日曜日だから回避できるとしても月曜日は?学校だよ、それでなくても教室で顔を合わせることになるし、そうなったら絶対言うように仕向けてくるような気がする。
あ〜ゴールが長くて遠くに感じる。
こんな時に青色の猫型ロボットがいたら飛びついて『なんとかして』なんて言っているのかもしれないな。正直、今の私にとっては地球の裏側に行くくらいの気持ちなんだけど。
考えようによっては三日耐えることが出来れば・・・そうだそうだ。なるべくそういう状況を作らないというのが一番回避できる。少しだけ希望の道筋が見えてきた私はお腹に力を入れて呼吸を深くして
「分かったわ・・し・・瞬・・・・これで・・いいんでしょ」
今のところ何の対策も浮かばない私はイケメンの提案を飲むしかなかった。
まさかお互いのことを名前で呼び合うなんて。それも呼び捨てで。
聞いた時は簡単だと思ったけど冷静になってみるとこれってかなりハードルの高いよね。こんなに心臓がバクバクするなんて思ってなかった。やっぱり女の子同士とは違う。小学生ならまだありかと思うけど、さすがに高校生ってちょっと意味が違うような気もする。
あ〜あ、高校生にもなって私ってまだまだ青いよね。こんなことでこんなに動揺するなんてさ。
でも・・・恥ずかしさの中にちょっとだけ、ほんのちょっとだけ自分が少しだけ大人になったような気もする気持ちもあるのは何故だろう。
☆☆☆
日が暮れた学校にはともりと結城君が少しだけ待ちくたびれた感じだったけどそれでも笑顔で出迎えてくれた。その笑顔に私も笑顔で返す。おかげで今日の疲れが軽くなった。
「渋滞じゃ仕方ないよね。でも無事に帰ってきて良かった。おかえり、あやせ」
「ただいまともり。こっちもいろいろお疲れさま」
私達はお互いを労った。やっぱり女の子同士だと違和感がない。ともりの顔を見ているとなんだかホッとする。それからともりは相澤君と先生と束咲ちゃんにも同じことを言った。
「よ、藤川、お疲れ」
「結城君も大変だったね」
「ま、それなりに。でも楽しかったぜ。みんなと一緒に何かやるっていいもんだ。それに逸見の弁当も美味かったしな。これはなかなかポイント高いぜ」
「でしょうね。私もともりのお弁当食べてみたかったな」
ここは素直に認める。きっと私のお弁当より十倍、いや百倍はすごいだろうな。ま、このことは今度ゆっくり話してもいいかもね。
突然チャイムが鳴ってその音にびっくりする。なんだかいつもより大きく聞こえるのは多分気のせいだろうな。でもさ、休日でも鳴るんだ。誰もいない。でもたまには誰かいる。その誰かのために動いているのかもしれない。時計を見るとちょうど十八時になっていた。ついでに私のお腹も鳴った。ってもしかして聞こえてたりしてないよね。チラッと、見てみると
「すげ〜・・・腹減ったのか?」
「えっと・・き、聞こえたりして?」
「ああ。ばっちり。そうそう先生が晩ご飯奢ってくれるって言ってたな。藤川も行くよな、もちろん」
うう。恥ずかしいけどその誘いにはぜひ乗りたい。このままだと私の腹の虫は集団暴走してしまいそうだ。けど一体何奢ってくれるのかな?それはちょっと楽しみ。だから頷いて答えたのに
「あやせ、アンプレアントに行くけど行くよな」
何の躊躇もなくイケメンは話しかけてくる。私と結城君のやり取り見てなかったのかな。おかげで一瞬にして周りの空気が重くなるというか妙な緊張感が張りつめる。
あのさあ、あなたには分かんないのかな?人の気持ちにはエスパー的能力を発揮するのにさ。あんたのせいで私の背筋は南極の氷くらい凍っているんだけど。それにマグマのような灼熱の視線を痛い程私に向けられているんだよ。
「あやせ、当然行くよね」
ともり・・・あんたの声、なんだかいつもよりトーンが落ちているし今の私にはちょっと怖いんだけど。それに無理して笑顔作っているでしょ。口元は微細に震えているし、なにより光を失った視線が私には痛いのよ。一刻も早く言い訳できるならぜひさせて欲しいんだけど。そう思って苦笑い。今はこれしか私には返す手段がない。
「う・・うん。もちろんだよ・・・」
「そうだ、私とあやせはちょっと急用ができました。後で行くから先に行ってて」
みんなと一緒に部室を出て鍵を掛けてからともりは相澤君と結城君に宣言した。
ああ・・・・私が望んでいることがともりにも分かるんだ。さすがは親友ってところなのかな。今すぐ理由を聞きたいってか・・・そりゃそうでしょう。いいですよ、いくらでも言い訳させてもらいますから。
みんなは別段理由を聞くこともなくともりの期待通り先に行ってしまった。その足取りは無事任務を終えた開放感からか、とても軽快に見える。
ほんとなら私達だってその中に入っているのにな。
しかし現実はどうだ。私には重い空気だけが残されている。チラッと横を見る。
ともりは沈黙をしたまま。なら私から話してもいいんだけど、なんとなく躊躇してしまって結局私も黙り込んでしまう。けどさ、この押し潰されそうな沈黙が耐えられないのはきっと私だけじゃない。またしてもともりのことチラッと見る。けれど相変わらずその瞳には光が失われている。なんだかそこだけぼっかりと開いた穴みたいに見える。もしかしてブラックホールってこんな風に見えたりするのかな?いつもはあんなにキラキラしているのに。星を失った空が容易に想像できるみたい。星のことなんて考えてたら相澤君のお姉さんの顔が目の前に浮かぶ。今度会うことができたら絶対いろいろ聞いてみたい。そして空を見上げてみると何時しかたくさんの星が頭上に瞬いていた。
「私、いろいろ聞きたいな。それとちょっと風に当たりたいかな」
やっと歩き出す。もちろんいいですよ。私だってちょっと暑いって思ってたから。
部室の鍵を職員室に戻しに行くと明りは点いていて沢渡先生が待っていた。
「先生、鍵返しに来ました」
「ああ。ご苦労さん」
あれ?先生一人?
「あの、束咲ちゃんは?」
「相澤達が連れて行った」
「そうなんですね。先生はまだ行かないんですか?」
「行くためにお前達を待っていたんだが」
そう言われて急いで鍵を元の場所に戻す。そしてお辞儀をして私達は職員室を後にした。
もうすぐ二月も終わりそう。
読んでいただきありがとうございます。
三連休は暖かかった。おまけに風も強かった。
花粉症の方々・・・知り合いにもいますが・・辛そうです。
今は余裕をかましている私ですが明日は我が身です。
ま。気にしてもしょうがないか。
三月になったら・・・なったらどうなる?
私はラストスパートに向け書いているでしょう。
最後まで皆さまには付き合ってもらいますからね。←読んで欲しいです
次回もよろしくお願いします。




