お弁当。お披露目です
先生は宣言通り最初のサービスエリア『日本平』に車を付けた。
そこは富士山の裾野が近いだけではなくとにかく横に広い。まさに自分を中心にした大パノラマって感じで視界が開けていてなかなかの光景だ。初めて見た景色に感動してしまう。
この場所って確か、なんだっけ?歴史の授業で聞いたことあるような・・・けれど今はそんなことより私のお腹にはフルオーケストラが入っていて今にも最高潮を迎えようとしている。
さすがに聞こえたりしていないよね。
外には景色を眺めるためにたくさんのベンチやテーブルがセットされていて誰でも気軽に使用することができる。私達はテーブルを挟んで向かい合うようにベンチがセットされている場所を確保する。
そして
いよいよ私自身のメインイベントが開幕しようとしている。正直かなり緊張している。普段ロクに作らないから余計に出して大丈夫なのか心配にもなってくる。
あ〜・・・どうか、みんなの口に合ってくれますように。
「あ、あの、お弁当、もし・・・」
どうも口から出るのは言い訳しか思い当たらない。それでも一応テーブルの上に積み上げたタッパーを置くとみんなは関心があるみたいで小さな歓声の息が聞こえる。こういうのってやっぱり期待しちゃうよね。
「お腹空いた。早く食べたい」
束咲ちゃんの声がみんなの気持ちを代表しているように聞こえる。逸る気持ちに答えるように相澤君が
「待ってろ束咲。今開けてやる。藤川、いいよな」
手を出されて思わず反射的に素直に頷いて託してしまう。
相澤君はタッパーの蓋を一つずつ開封する。さらに一緒に持ってきたおしぼりや紙の取り皿に割り箸もセッティングする。
ホントなら私がやらなきゃだけど手際の良さについ視線を奪われてしまっていた。
ああ、どうか大したことありませんように。
今はお腹よりも心臓の方が盛り上がっている。自分でもドクドクと脈打つ音を感じる。
コホン。ではここでお弁当の中身について解説していこうかな。(心の中で)
先ずはおにぎり。梅とツナマヨしかないけどびっしりと入るだけ入れてある。
続いてタコさんウインナー、これも大量だ。いつもお母さんが作っているのを見て見よう見真似で作ったがあらためてみると、まあ不細工なこと。
まだある。タッパーまるまる一個に詰め込んだサラダ。これは完全に手抜き・・・になるのかな。でもゆで卵は豪快です。これはデパ地下とかで見るお高いサラダを真似てみた。ドレッシングは市販品にお母さんからアドバイスを貰って少しだけアレンジが施されている。
そして真打ちの登場。オカズのメインは円周率を無視したハンバーグ。これもお母さんのアドバイスありきの品だ。
それとリクエストの出汁巻き玉子。
あ、今さらながら卵が被っている。それでも今の私の実力をかき集めて作った努力と一応愛情も入っているお弁当です。
とにかく朝のことがあるから味が心配だったけれど、その心配は束咲ちゃんの一言で吹き飛んだ。
「おいしい。おねえちゃん、おいしい」
ハンバーグを食べた最初の感想だ。
私は心底ホッとしてからやっと笑顔になることができた。誰かに美味しいって言われるって初めてだし、正直かなり嬉しい。一応チラッとその断面を見る。お母さんにも見てもらっているから大丈夫だと思っていたけど、ちゃんと中まで火が通っていて良かった。
「おにぎりも良い塩加減だ。梅も美味い」
今度は先生からもお褒めのお言葉をいただく。塩加減もアドバイスの賜物。それに梅はお婆ちゃん家の自家製だから。ウチはすっぱいのがウリです。
とりあえずまずまずの評価か?だが。肝心のヤツが残っている。
見ると真っ先に出汁巻きに手が伸びているではないか。正直それは美味いに決まっている。でも一応反応が気になる。相澤君は一口で一切れを食べる。そしてゆっくりと咀嚼。一瞬その動きが止まったように見えたのは気のせいだろうか。
「・・・ウチと同じ味だ」
そう言って私の顔を見る。えっと、そっか、確か相澤家直伝って言ってたっけ。つい苦笑いで返してしまう。それからもう一つ確かめるように食べて
「・・藤川の味付けはウチと似ているらしい」
「・・え・・えっと・・・」
え〜と、ちゃんと説明した方が多分いいよね。後でいろいろ面倒になる前に
「あ、あの・・・」
「どうした?藤川も食べたらどうだ?さっきからお前の腹は大騒ぎしているからな」
「あ・・う、うん」
どうやらタイミングがイマイチ掴みづらい。それにみんな美味しいって言ってくれているんだから今はそれでいいような気もしてくる。
やっぱりみんなお腹空いていたのかな?もの凄い勢いで目の前から次々とお腹の中に消えてゆくんですけど。まあ、説明なら後でも出来るよね。
そう考えると自分もこの戦に参戦しないととても家までもたない・・よね。
お弁当箱は見事に空になった。米粒一つも残っていない。それに相澤君が気を聞かせてタッパー全部を軽く水で流してくれた。
なんだ。これって結構いい光景じゃん。こんなに嬉しいって思うことがあるんだ。みんなの笑顔を見ていると頑張った甲斐があったよ。
そんな感傷に浸っていると
「藤川も飲むだろ」
一体どこにそんなモノ持っていたのだろう。テーブルの上にはコーヒーセットが置いてある。豆にミルにドリッパー、それに人数分のカップ。電気ケトルはカタカタと音をさせて沸騰した合図を送っている。どうやら車から電気をもらっているみたい。
「へぇ〜いいじゃん。実はコーヒー飲みたいって思っていたんだ」
相澤君は軽く頷いて豆を挽き始める。風に乗って香りが届く。なんだかこの空間だけ急にアンプレアントにいるみたい。この匂い、やっぱり落ち着くよね。
私はコーヒーが淹れられるのをじっと見つめていた。相澤君の手際は実に良い。というか実に手慣れている。やはりとでも言った方がいいのかな。それとも血は争えないとか?とにかく流れるように出来上がってゆく。
目の前に置かれたコーヒーの匂いは間違いないくアンプレアントと同じだ。
「い、いただきます」
一口。それが喉を伝ってやがて香りが鼻に抜ける。懐かしい感じさえする。それは東京から遠く離れた場所で飲んでいるせいかも。それにマスターのとほとんど変わらない同じ味。
「おいしい・・うん、すごくおいしい」
「それは良かった」
正直その笑顔にはドキッとしてしまう。な、なんで?今のは一体なに?自分自身の予想外の反応に自分で驚いてしまう。それからともりの言葉が頭の中で蘇る。けどそんなこと絶対ない。でも・・・でも・・う〜なかなか言葉に出来ないよ・・・
「景色がいいと味もまた格別だな」
先生が目の前に広がる景色を見ながらコーヒーを飲んでいる。私も同じようにしてみる。確かにその通りだね。今の状況がいろいろなことをたくさん色付かせているんだ。非日常という色は特別な色なのかもしれない。きっと先輩との旅行はもっともっと輝いて見えるのだろう。そんなことを考えながら飲むコーヒーの味はさらに美味しく感じてしまうから不思議だ。
「日本武尊の時代も同じ景色だっただろうか」
相澤君はいつの間にか隣りにいてそんなことを言う。
「へ?ヤマトタケル?」
「なんだ、もしかして知らないのか?」
「えっと、ここって大きな戦があった場所じゃないの?」
「お前、もしかして関ヶ原と勘違いしてないか?」
そう言われて確かに戦国の戦をイメージしてたけど、さすがに関ヶ原とは間違わない。だって場所の名前ぜんぜん違うじゃん。でもヤマトタケルを詳しく知らない私は言い返すことができないでいると
「ま、勘違いは誰にでもある。無理に言い訳する必要もないな」
なんで私の考えていることが分かるのかな?やっぱりあなたはエスパーでしょ。まあ、今はそれでいいわ。それよりこの瞬間ってもしかして青春しているのかな?天気も良くて暖かい風はほんのり潮の匂いがして。それに美味しいコーヒー。きっとこの部活に入っていなかったら体験できないことだったかもしれないよね。
「ねえ、メロンパン食べてもいい?」
「なんだ束咲はもうお腹が空いたのか?それとも足りなかったか?」
相澤君に訴える束咲ちゃんを見ていると確かにこの人数では少なかったのかな?なんて思ってしまう。言われて私のお腹もまだ余裕がある。
「ううん、お腹いっぱい。けど・・・」
「ま、甘いものは別腹ってことか」
「あ、あの相澤君」
「藤川も?」
「うん。私も食べたくなった。コーヒーにも合いそうだし」
別に文句を言うこともなく相澤君はメロンパンの入った袋を持ってきて私と束咲ちゃんに手渡してくれた。
「ありがとう。あれ?相澤君も?」
「言っただろ。別腹だと」
私達は並んでベンチに座って透き通るような青い空に浮かぶように聳える、まだ頂上には雪の残っている富士山を見ながら食べた。甘くて美味しいね。
メロンパン・・・大好きです。
読んでいただきありがとうございます。
海老名サービスエリアに寄ると買いますね。
メロンパンだけじゃなくパン好きの私。
お気に入りのお店はソラマチにあります。(本店は栃木県)
そろそろ春一番が吹きそうな予感がします。←天気予報談
春先の海に行こうかな。砂浜でハンバーガーでも食べながら。
あ!トンビが・・・あいつらほんとえげつない。
季節が変わる・・・楽しみです。
次回も楽しみにしてもらえると励みになります。ではまた火曜日に。




