束咲ちゃんは人見知り
いよいよ出発の時間。
私達は結城君とともりに見送られながら真っ白な車は目的地に向かって走り出した。
一般道は家族連れの車で混み合っていてなかなかスムーズに進んでいかない。
私は束咲ちゃんと後部座席から過ぎ行く街並を眺めていた。助手席にいる相澤くんはさっきからずっとノートパソコンに向かって何か分かんないけどずっとキーボードを叩いていた。先生も黙ったまままっすぐ前を向いてハンドルを握っている。
窓の外にある空は真っ青で雲一つない文句ない行楽日和だというのにここはあまりに静か過ぎる。時折カーナビが混雑状況など教えてくれるがそれ以外の会話は皆無に近い。
これから浜松か。
長い道中ずっとこんななのか?それに私は何を手伝ったらいい?まだ何も指示されていない、けど何か聞こうにも取りつく島がない。正直息が詰まりそう。それならと思って
「ねえ、束咲ちゃんはいくつなの?」
せっかくだから仲良くなってもいいよね。
それにこんなに静かだとうっかり居眠りでもしてしまいそうな予感がする。そんなことしたらイケメンに何を言われるか分かったもんじゃない。
束咲ちゃんはかなりの人見知りなのか、未だ会話と言うものが成立していない。
これはなかなか厳しい戦いになりそうな気配がする。けど暇なんだもん。じっと束咲ちゃんの返答を待っていると言葉ではなく指で
「・・あ、今七歳なんだ。じゃあ小学校は二年生?」
今度は頷いて答える。ここで会話は終了。
高校一年生と小学二年生の間でどんな共通の話題があるというのだろう。
それに私には部活以外に特に趣味はない。自分が意外とつまらない人間なのでは?なんてことも思ってみたりして。
けど私は見逃してはいない。
彼女がずっと手に抱えているカメレオンのぬいぐるみの存在を。
今じゃそんな生き物もぬいぐるみになっているんだ。尻尾がグルグルとなっていて口からは特徴というか象徴のような舌が顔を出している。じっと見ていると愛嬌があってなかなか可愛いと思えてくる。
よし、次は相手の懐を攻めよう。
けれど私は爬虫類についてはあまり詳しくはない。というかどちらかというと苦手の部類に入る。
なら。
ぬいぐるみに焦点を当てれば私だって持っている。クマが多いのはお姉ちゃんの影響で部屋に三体も置いてある。
「束咲ちゃんてぬいぐるみが好きなんだ」
その質問には小さく頷く。やっぱりぬいぐるみは女の子のアイテムだよね。もう一歩踏み込んでみよう。
「束咲ちゃんのお気に入りはカメレオンなの?」
大きく頷く。よし。これで会話を繋ごう。って一体どこから切り出したらいいのだろう。カメレオンについて私の知っている知識をかき集めようとした時
「おい」
不意にイケメンから声を掛けられる。
「俺達は遊びに来ているわけじゃない」
イケメンからタブレットを渡された。別に私だってそんなつもりじゃない。今は、たまたま暇だったから。それに束咲ちゃんだって退屈そうにしていたから話していいただけじゃない。
私はちょっと腑に落ちない。けどいよいよ私にも役割が与えられたようだ。
「で、私は、これで、何をしたらいいの?」
言い方、ワザとらしかったかな。でもさ、放っておかれた者の気持ちを少しくらい考えた方がいいんじゃない。なんて思いながら画面を見てみる。
『お〜藤川だ。こっちの映像見えてるか?』
「あ、結城君。うん、バッチリ見えているよ」
『あやせ、どう?順調?』
「ともり・・えっとちょっと道路混んでて。まだ高速にも乗っていないんだ」
なかなか鮮明な画像だし音声だって遅延することなく会話が成立している。今の通信技術って凄い。どんどん進化して私が大人になる頃には一体どんな未来が待っているか想像が出来ない。
『とりあえず確認は終了。こっちはまた作業に戻る。一旦通信は切るぞ。あとは瞬の指示に従ってくれ。それと昼になったら途中経過の報告をするから』
『じゃあね、あやせ』
二人の手の振る画像で通信は終わる。
「上手くいったみたいだな。じゃあ次は」
相澤君に言われて別のアプリを起動させる。そこには現在地の地図と下の方にはどこかの多分勝手に拝借している防犯カメラの映像が映っている。なんとなくこの辺りのものかもしれない。流れる車の画像を見ていると・・・・あ、今映ったのって先生の車だよね。
「へ〜・・・すごい。前見た時とは全然違う」
私の感想は当然のように無視される。なんだか独り言みたいに車内に吸い込まれてゆく。別に返事なんて期待なんてしていないけど。はっきりいってもう慣れっ子だし。って言っていることがなんとなく負け惜しみみたいでむしろ腹立たしい。
「ちゃんと見えているなら問題ない。今度は画面を見ながらタイムを計ってくれ」
「・・・・タイム?ってなんの?」
「画面を通過する時間だ。下の方の画面に現在の時間が表示されているから、車が画面から現れて消えるまでの時間を記録するのと同時にその時の車の速度も一緒に記録する。これくらいならできるよな」
も、もちろん、いくら機械が苦手な私でもそれくらいならできるに決まっている。見た物をそのまま書き出せばいいんだから
「それから打ち込んだデータを休憩の度に俺のパソコンに送ってくれ」
はいはい。送ればいいんでしょ。こんなの簡単、簡単。っと、うっかり束咲ちゃんのこと放っておいてしまった。でもごめんね。ちゃんとしないと怒られるから。あとでちゃんと埋め合わせするからね。
「束咲ちゃん。今から私これに集中する。だからごめんね。カメレオンの話はまた後でしようね」
特に返事なし。一人ぼっちにさせてしまう。これじゃ可哀想。なんで一緒に連れて来たの?私の心配なんてあまり関係ないのか、それとも一人でいることに慣れているのか。束咲ちゃんは車のトランクから一冊の図鑑を出してそれを見始める。どうやら爬虫類の図鑑っていうかカメレオンだけの図鑑みたいだ。開くページはカメレオンしか載っていない。ホント好きなんだ。それに特に退屈している様子もなさそう。なら私もこっちのこと頑張りますか。
大きな交差点を抜けるとさっきまでの渋滞が嘘みたいに急に車の流れが良くなって、やっとスムーズに動き出し始める。
今日はなんだか朝からバタバタと慌ただしかった。落ち着いたような感じもするが私は画面を見ては言われた通り記録を始める。もう部活は始まっているんだ。みんなから託された役割だからね。
都内という場所はどんだけ防犯カメラがあるんだって言いたくなるくらいだったけど、作業に慣れてくると今は部活のために頑張っているってことを実感する。だから結果的にこうなってしまったけどこれも全てこれからの私達自身に繋がっている。
だから今はともりのことや相澤君のことは関係ない。そう思うとこの作業もだんだん楽しくなってくる。私にも出来ることがあるのが嬉しいんだ。
「やっと高速だな」
先生は初めてそう口にすると同時にETC専用ゲートをを通過して高速道路に入った。ここから速度はぐんぐん上がってゆく。
それは今の私の気持ちも同じように加速してゆく。この先には一体どんな景色が広がっているのだろう。まだ見ぬ世界の扉を開けるような気持ちが私の心に広かる。
『青春』
文字通り『青』と『春』で出来ている。人生ってまだ青いくらいが楽しいの絶頂なのかもしれない。
知らないことや知らない場所、知らない人達。その全部が前向きに受け止められる。
今を生きていることは感謝しかない。それが今の私の人生なのかもしれない。
大きな声で叫んでみたい。でも今は心も中で叫ぶだけで満足だった。
天気も良く。空の色も澄んでいます。
読んでいただきありがとうございます。
そろそろみんなのお楽しみ。
バレンタインが控えております。
デパートはこぞってチョコレートフェアです。
目移りする私は糸の切れた風船のようにデパートをふよふよしております。
この平和な気持ちを世界に届けたい。
その前にいろいろ買って食べよう。まずは私の幸せから。←自分勝手だな
また次回。よろしくお願いします。




