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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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36/49

さあ土曜日の始まりだ

 あわわわ・・・困っている私。


「まだ時間あるよね」

 先輩は私の手を引いて厨房に連れてゆく。

「パパ、緊急事態。お店よろしく」

 マスターは和やかな顔で『いいよ』と言ってくれた。

 ほんとごめんなさい。けどこれからなにするの?


「今から作るよ」

「え?出汁巻きを?」

「それ以外何があるの」

 先輩は手際よく準備を始める。けどこれって

「でもともりとの約束が」

「それは親の話でしょ。私は入っていないでしょ」

 確かにその通りだ。先輩の手を借りては駄目なんて約束はしていない。でもホントにいいのかな。


「ほら、あやせもやる。玉子かき混ぜて」

「は、はい」

 勢いに押されてボウルに入った五個分の玉子を菜箸でかきまぜる。先輩は計量カップに出汁の素を目分量で調合し始める。凄い。もの凄く手慣れている。

「ウチの味付けになるけどいいよね」

 そんなのいいに決まっている。

「はい、お願いします」

 作り方は変わらない。私は習得したばかりの腕前を先輩に披露して出し巻き玉子は無事完成した。見た目はほとんど変わらない。


「焼くの上手いじゃん」

「そうですか?」

 照れますな。初心者なんですよ。褒められて嬉しくなる私。きっと顔に出てるよね。


 おかげで無事焼き上げることが出来た。もしかして最高の出来になったのでは?


「ああ。キレイキレイ。じゃ味見てみ」

 先輩に促されて一口。口の中に入れただけで美味しい。

「美味しい。・・・私の味付けより美味しいです」

「それは良かった。相澤家直伝の味付けなのよ」

「へぇ・・・・この味、私好きです」

 相澤君があんなこと言うから気になって作ったけど、別に渡すとかじゃない。そんなことしたらまたともりに変な目で見られちゃう。

 でも、せっかく作ったんだ。ホントはちょっとだけ食べてもらいたい気持ちもある。それにどんな顔をするのか見てみたい。


「アイアイ先輩、本当にありがとうございました。いってきます」

「ああ。それより今日は頼んだよ。それとみんなによろしく。あと、気をつけて」

 先輩は自分がいつも旅に持っていく安全祈願のお守りを渡してくれた。私は大事にポシェットにしまってアンプレアントを後にした。


☆☆★★


 出発前。かなりゴタゴタしてしまった。時間が迫ってくると意外とやることがいろいろ増えるような気がする。けれどそのいろいろを乗り越えて私はやっと部室に辿り着いた。


「おはようございます」


 部室のドアを開けるとみんなもう揃っている。どうやら私が一番最後だったみたい。ここでちょっとだけ違和感というか、あれ?なんか見慣れない顔がある。


「おはようあやせ。どう?持ってきた?」

「ともりおはよう。もちろん」

 私は努力の結晶が入っているトートバッグを見せた。ともりの方は唐草模様の風呂敷に包まれていた。

 二つ並べて机の上に置いてみるとこれから運動会でも始まるみたい。


 それはそうとそろそろ聞いてみたい。先生の後ろに隠れている小さな女の子のこと。


「ねえ、ともり。あの女の子って」

「先生の娘さん」

 やっぱり・・・なんとなくそんな気がしていたよ。予想は合っていたけど、意外だ。そりゃまあ冷静に考えたら結婚くらいしていてもおかしくはないよね。


「束咲ちゃん、こっちのお姉ちゃんはあやせって言うの」

 ともりに言われて私の方を見る。けれどまだ隠れていることに変わりはない。

「こんにちは。えっと束咲ちゃんでいいかな。私は藤川あやせ。よろしくね。先生にこんな可愛い娘さんいるなんてちょっとびっくりです」

 私は目線を合わせて自己紹介。でもすぐに先生の足の影に隠れてしまう。


 なんとなく小動物みたいで可愛い。栗色の髪に大きな二重が特徴な瞳。肌も白くてぷにぷにしているのが見ただけで分かる。じっと瞬きもせずに見つめられるとちょっと恥ずかしいな。

 それにしても先生は特に何も言わずにずっと相澤君とタブレットを見ながら話をしている。もしかして私の存在に気が付いていない?


「あの、先生。おはようございます」

 声を掛けてからやっと私の存在に気が付いたみたいに

「・・藤川か・・これで全員揃ったのか」

 そう言ってまた打ち合わせ的な会話の中に戻ってゆく。


 なんなのよ。ここの男達は。

 自分のことにしか興味がないのも大概過ぎるっていうの。なんて思っていたら

「おはよう、藤川」

「おはよう、結城君」

 この中ではあんたが一番良い男子だよ、ホントに。


 それにしてもみんなさすがに今日は私服だよね。


 あらためて見てみると、結城君は真っ赤なタータンチェックのボンテージパンツに厚底ブーツ。それにワザとなのかそれともそれで売っているのか分からないがあっちこっちに破いたような感じの長ティーにライダースジャケット。どうみてもバンドをやっている人にしか見えない。それと嫌みにならないくらいの香水。ま、誰がどう見てもおしゃれである。

 続いて先生はチノパンに軽めのジャケットに丸襟の長ティーかな。ともりはゆったりとした青と黒のストライプ柄のニットとサルエルパンツにブーツという組み合わせ。結城君と並んだらいい感じになりそう。

 そして最後は相澤君。私服は買い物の時に見ているけど、今日はブルーのストライプが入ったシャツにジーンズだ。結城君と比べると服装にはあまり感心がないと見た。


「お。これが噂の手作り弁当」

「あ、うん。でも私はともりみたいに上手くないからあんま期待しないでね」

「いやいや、同級生の女子が作ったってことに価値があるんだ」

 結城君は嬉しそうにしているのに相澤君にいたってはあまり感心無さそう。今は自分の造り上げてきたシステムのことで頭が一杯なのだろう。それに相澤君の食べるお弁当は私のじゃなくてともりの方だからなぁ。でも一人増えてよかったような。ちょっと作り過ぎたから束咲ちゃんがいてくれて良かったかも。けどさ、ホント、味の方は大きな期待は御法度です。


「みんな集合したみたいだから今日の流れを説明する」


 先生の掛け声と共にみんなその場で立ったまま集中する。足元には相変わらず束咲ちゃんの姿が見え隠れしているけど。

「今日は何をやるかは大筋は理解していると思う。それから少し変更がある」

 変更ってなんだろう。もしかして行き先を変えるとか?

「最初はシステムの方は相澤にやってもらうことになっていたが結城に変更する。よって相澤には車チームに入ってもらう。ま、大した変更でないがいろいろ検証した結果だ」


 確認事項は終了。

 いよいよ出発の準備に取りかかるわけだが。当然私には痛い視線が送られる。


 だから不可抗力だって。私だってそんなことになるなんて予想外もいいところだし、むしろ被害者って言ってもいいくらいだよ。

 

 ともりはそのことには特に何も言わなかった。けど、絶対後でグチるよね。


「悪いな、いきなり変更になって」

「私はいいけど。結城君のせいじゃないし」

「それさ実際俺のせいなんだよ。実はさ、車酔いするんだよ。それで変えてもらったんだ。最初に言われた時は平気だろうと思ったんだけど土曜が近づくにつれ不安の方が大きくなった」

 結城君は大きく息を吐いた。きっと頑張ろうって気を張っていたんだ。


 そういうことならこの場合は仕方ないってことでいいのかな。

 ともりも聞いていたなら納得・・・・

 あ。その顔はできてないみたい・・・思わず私も小さく息を吐いた。


「時間だな。みんな気をつけてな」

 結城君が時間を見てシステムを立ち上げる。

 ディスプレイ画面には相澤君の作ったアイコンが現れるとすぐに私達の腕に付けている端末と連動を知らせるバイブレーションが伝わる。

 なんだろう。気合い入るな。おまけに緊張だってしてくる。


「うん。いってきます。部室の方は二人に任せたから」

「あやせ、気をつけてね。お土産楽しみしてる」

 ともりはきっと精一杯我慢しているよね。私は小さな声で

「今なら代われると思うけど」

 その返答は無言で手だけで返される。やはりこの編成で決定したみたい。


 仕方ない。私も潔く腹を括って車の後部座席に束咲ちゃんと一緒に乗り込む。

 すでに相澤君は助手席に座ってパソコンを広げていた。

 私がシートベルトを着けたのを確認してから車のエンジンに火が入る。とても静かでおまけに車内は清々しい匂いがした。

 

 いよいよだ。心臓もエンジンと同じように軽快に鼓動を打ち始めていた。

今日は久し振りの暖かい一日になりそう。

読んでいただきありがとうございます。

週末はまた寒くなる予報です。

三寒四温ってまさにこのことですね。

皆さま体調などお気をつけくださいませ。

物語はやっと東京を飛び出します。まあ実験ですが。

少しでも空気を感じられるように書いてゆく次第です。

次回もよろしくお願いします。

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