素直な意気地なし
最終的に決まったこと。それはお弁当係を二人で担うこと。
成り行きとはいえこうなった原因は私にある。苦手だけどここは一つ頑張ってみよう。
ともりにちゃんと謝ったことで彼女の肩の荷が降りたのが分かる。
それと一つ分かったことがある。ともりは恋をしているけど私は恋なんてしていない。きっとこの違いが決定的な差だよね。
気持ち一つ取ってもこんなに差があるなんて知らなかった。ともりは私に対して恋のアドバイスは出来るけど、私にはともりにアドバイスをすることなんてできない。勘違いも甚だしい。
そのことを気付かせてくれたのは、なんか口惜しいけどいつも私達の先を歩いているイケメンだということも忘れてはならない。テストでも負けて、恋心というものにも負けた。
なら今の私に出来ること。それは私達のお弁当を美味しいって言わせること。本当にできるかな?いや絶対に言わせてみせるんだから。新たに出来た目標に自然と鼻息が荒くなる。
「ねえ、あやせ。部活終わったら話さない」
私はちょっとだけ顔を傾けた。
「土曜のこと」
「なんだそのこと?いいよ。どこで?アンプレアント?」
「えっと、できれば知っている人がいないところがいいな」
こんなやり取りをこっそりをしてからそれぞれの今度の旅行計画について話し合いが始まった。
相澤君は結城君にシステムの説明を始める。結城君は最初見た時は『さすが』とか『やっぱすげぇ』なんて言葉を連呼していたがやがて静かになって真剣に耳を傾け始めていた。
私はアイアイ先輩と向かい合って今回の出発場所と大体のルートを確認する。
やっぱり最初はアンプレアントからのスタートになる。これは私の希望だ。そこから駅の反対側の大通りに出て最初の一台目をゲットして高速道路を目指す。
それからは乗り継いで西にひたすら向かうだけ。遠い分なるべく回数を減らして距離を稼げるのが一番だけど、世の中そんなに上手くいくかどうかはわからない。
そして一番の課題はどこの橋を渡るかに今回の行程の全てが掛かっていると言っても過言ではない。
第一希望は兵庫県から淡路島を経由するコース。これなら香川県は目の前だと言ってもいい。岡山から瀬戸大橋経由でも問題はない。
けれどネットで調べる限り時間に差が出てくることは必須。1分1秒でも短い方が有利に決まっている。目的地までは掛かっても二日。出来ることなら一日半。これなら後々の日程にかなりの余裕が出来るはず。
私は自分が調べたことを余すところなく先輩に伝えるとアイアイ先輩も大体同じような考えだった。
ここで一旦話は終わる。私と先輩は凛柊先輩の入れてくれた日本茶を飲みながら一息いれた。あ〜あ、また先輩にやらせちゃった。
そうこうしている間に気がつくと相澤君と結城君はいつの間にか部室から姿を消していた。
「なんか家でプログラムがどうとか言ってたな」
部長がそう説明してくれた。
なんだ帰ったんだ。一言あってもよかったのに。でも今ならアイアイ先輩に相談できるかも。
「あの、先輩って恋をしたことありますか?」
先輩はちょっとびっくりしたみたいな顔をして
「あやせ、いきなり何?その話題」
「あ、いえ、何となく」
私の言葉について何かを推量るように頭をボリボリ掻いて
「そんなこと当たり前じゃない。成就するかどうかはおいといて、そりゃ、私だって一つや二つあるよ」
ちょっとだけ顔を赤らめて言う先輩が可愛く見える。なんで急にこんなこと聞いてんだろ。言ってて自分で自分のこと驚いている。
「私は答えた。今度はあやせの答えを聞こうか」
「そ、そうですよね・・・実は・・・・」
私はともりや相澤君とのやり取りを簡単に説明した。ちゃんと上手く言えたかな?
「・・・・・・私は・・したことないから」
「ふ〜ん、そっか。まあ、そういうことも一理あるな」
こんな話してもいいのかな?でも知らないなら知っている人に聞くしかないよね。
誰かを好きになるって一体どんな気持ちがするのかな?私がアイアイ先輩のことが好きって感情と何か違うのかな?その差が今の私だと上手く掴むことができないんです。
「だけど誰かが誰かのことを好きになるってなんだかとてもすごいというか、上手くいくように応援したくなったんです。確かに相澤君の言うように余計なことだったかもしれない。私が間違っていたって」
「あのさ、あやせ。そこまで考える必要はないよ。応援したかったらすればいい。でも瞬に至ってはあまり効果がないのかもしれないかな。アイツってさ、人には感心ないように見えて実は結構見ているんだ。で、自分に合わないことをされるのもの凄く毛嫌いするのよ」
他人のことなんて自分とは無縁の存在で無関心なのかと思っていた。本当はそうじゃない。今までのことを思い返してみても確かにちょっと冷たいって思うことがあってもそれは本人の態度のせいで部活のことだって勉強だってちゃんとやっている。私、今まで何を見ていたの?ちゃんと見ればそういう見方だってちゃんとできるのに。
「あの、私、誤解していたみたいです。明日ちゃんと謝りたいと思います」
「明日?こういうことは早い方がいいと思うな。そうだ。面と向かって言い難いなら電話してみなよ」
いやいや、確かにそうですけど、それっていきなり過ぎるっていうか、でも、
「あの、番号知らないです」
ラインは交換したけど電話番号の交換はしていない。
「それなら大丈夫。電話できるよ」
「う・・確かに。そういえばそうですね」
スマホを出してはみたけれどなかなか先には進まない。一体どんな感じで切り出したらいいのだろう。向こうだっていきなり謝れたら迷惑っていうか、説明だってしないと
「ほらほら、早く。鉄は熱いうちになんていうでしょ。こういうことって後になればなるほど言い難くなるものなんだよ」
先輩に言われて覚悟を決めようとしているけれど、なかなか指が画面の向かわないんです。困ったな。指は画面とは一センチも離れていないのに、今はその距離が途方もない程遠くに感じる。ちょっとだけ、あとちょっと勇気があればその距離は縮まるっていうのに。
「あやせ、頑張って」
先輩だって応援してくれている。ここで出来なかったら先輩の気持ちも裏切ることになる。たったこれだけのことだよ。
ああ・・・私って意気地なしだな。どうしてこんな簡単なことが出来ないの。
先輩のことを見るとニッコリ笑っている。そしてまた小さな声で『大丈夫』って言ってくれた。
高校生になってまだ少ししか経っていないけど、それでもいろいろ勇気を出してクリアしてきた。私は楽しい高校生活を送るために頑張ったんだ。だから、ここで・・・なんてことない。ただの電話だ。そして自分の気持ちを伝えればいい。別に変なことを言うわけじゃない。むしろ人として当然のこと。なら・・・大きく息をして、指にほんのちょっとだけ意識を込めて。画面は音もなく反応して
「・・・わ・・・かかってる」
呼び出し画面に切り替わる。呼び出し音に合わせて心臓がドキドキしてくる。呼吸は止まってしまったみたい・・・こうなったら早く出てよ。
「あれ、出ないね」
一緒に画面を見ている先輩が言う。確かに。出る気配がないような気がしてくる。
一〇秒、二〇秒・・まだ出ない。三〇秒経ったところで諦めて切った。
出なかったことでちょっと安心している自分がいるけれどそれ以上にモヤモヤした歯切れの悪い感情の方が多いような気もする。
もし着信に気が付いて掛け直してきたら・・・そっちの可能性が生まれたことにさっきとは別な意味で落ち着かない気持ちになった。
結局その日の部活が終わるまで電話もなければともりと土曜のことを話すこともできなかった。
というのもともりがなんか家の用事で早く帰らなくてはならなくなったからだった。後日ということで今日は解散になった。
気持ちは家に帰っても変わらなかったし視界のどこかには常にスマホの姿を捉えていた。
こんなに落ち着かないのならやっぱりもう一度こっちから電話を掛けた方がいいのかな。時間を見ると21時だ。まだ迷惑にはならないよね。
ただ。ほんの数センチの距離が遠い。
手を伸ばせば届くのに。勇気がないな。
明日。そう。明日学校で言えばいい。こういうことはちゃんと顔を合わせて言った方がいいよね。でも先輩は早い方がいいって。
今の私は逃げることばかり考えている。高校生活は充実させるという目標はこんなことでつまずいているわけにはいかない。簡単なことじゃん。答えは最初から分かっている。そう、出ていたんだ。
でも、やっぱり遠いなぁ。
うじうじ煮え切らない私にお母さんから声が掛かる。もうそんな時間?
よし。気分転換が必要だ。さっぱりしたら気持ちだって切り替わっている。それまでは向こうから電話がかかってこないことを祈る。まあ、相澤君に限ってそんなことないか。どうせ私なんてクラスでも部活でもその他大勢枠に入っているだろう。
言い訳ばかりの意気地なしだよね・・・でも素直な気持ちは絶対に伝えたい。
さあ、お風呂お風呂。なかばヤケクソ気味にお風呂場に向かった。
1月23日って何の日?衆議院解散が本日行われます。
読んでいただきありがとうございます。
瀬戸大橋。
あまりにも大きくて圧倒されました。人ってすごい。
橋下から覗く海はちょっと怖かった。
地球ってほんと壮大で奇蹟なんだね。
旅に行きたいなぁ。でも今は無理かな。
だから物語で追体験しているんだろうな。まだ準備段階ですが。
何時になったら出発するんだ?私か?ですよね・・・また次回で。




