そんなつもりじゃなかった
放課後。部活が始まる時間。
私はともりと一緒に部室に向かう。その少し前を相澤君は結城君とで並んで歩いている。追いつこうと思えば追いつけるけど、まあいいか。どうせ部室で。
いや、部室に着く前に言った方がいいよね。
「相澤君。ちょっといい?」
聞こえたのだろう。すぐに反応して振り向く。でも特に何かを言うわけじゃない。黙ったままの視線が向けられている。むしろ私が何を言うかを待っている。なら、こっちから切り出すまで。
「さっき、ともりが言ったこと。あれってどういうつもりで言ったの?」
ため息混じりの顔で
「土曜のことか?」
なんだか変な空気が漂っているのは私の勘違いじゃない。ともりも結城君もなにかを察知したのかみんな黙ってしまう。けどこれってみんなで話すことではない。話があるのは相澤くんだけだから。
「ともりと結城君は先に部室に行ってもらっていい?相澤君と少し話したいの」
「え!あやせ、私は大丈夫だから」
ともりは私が何を言うのか分かったみたい。でもね。今ちゃんと解決しないと部活を楽しむことはできない。
「大丈夫じゃないよ。今言わないと分かってもらえない」
「でも・・・私はそれでいいって。だからこの話は終わりにしたい」
ともりはとても困った顔をしている。本人はそう言っているけど私は納得できない。一体どういうつもりでそんな提案したのか知らないとならない。この人の場合は特に。
私とともりは親友だし、相澤君とは友達だよね。ならこういう話だって友達なら当たり前にできると思いたい。
「お願い。すぐ終わるから。だから部室で待ってて」
私の気持ちが通じたのか分からないが結城君が気を効かせてともりの背中を押す。ともりは渋々歩き出した。私は後ろ姿を見送る。
二人の姿が見えなくなってから廊下の端っこの方に相澤君と向かう。心臓がバクバクしている。なのにこの人はなんでこんなに涼しい顔をしていられるのだろう。何を言われても構わないという余裕すら感じる。
「早く結論を言え」
「もちろん言うよ。でもその前に相澤君に確認しておきたいことがある」
さっさと言えとでもいうような顔をしている。なら希望通りさっさと済ませよう。
「さっきともりと話したこと」
「土曜日に弁当を作る話か。もう終わったことだが」
あなたの中では終わっていても私の中では現在進行中なの。
「私が言いたいことはたった一つ。なんであんな提案するわけ?全員分なんて」
「そういえば諦めると思った」
即答。私の言いたいことは分かっていると言っているみたい。さすがエスパーだよね。
「やっぱり。なんで?せっかくともりが相澤君のためにって毎日頑張って料理の腕を磨いてきたのよ。やっと少し自信が出来たって。だから作れたらいいって」
言葉を重ねる度に白熱していくのに相手には全然堪えてはいないみたい。
「そのことを煽ったのはお前だ。そんなのは逸見にとっては迷惑でしかない。そう考えなかったのか?」
相澤君は冷静に答える。そんな風に考えていなかった自分を指摘される。
言葉に急にブレーキがかかる。
だって。ともりはそんなこと一言も言っていない。確かにちょっと強引だったかもしれない。けどきっかけってこういうことじゃないの?
「逸見の性格なら提案する前に勝手に作ってくるだろう。それなら無下にできない。ちゃんと食べた上で考える。それを藤川は見切り発車した。逸見のことが気の毒になった。藤川、お前、誰かを好きになったことないだろ。特に異性は。恋をしたこともないヤツが恋のアドバイスなんてできるとは思えない」
感情の急ブレーキ。一瞬で状況を理解できた。
見切り発車って。そんなこと言われたら・・・確かにその通りだ。恋だってしたことない。図星を突かれることがこんなに恥ずかしいなんて、今まで経験したことなかった。
「逸見が土曜に弁当を作ってくるのはありがたいことだ。けどそれはアイツの意思じゃない。無理矢理だ。自発的に作ってくるって言えば俺はすぐに了承しただろう。けど藤川が逸見を使って遊んでいるように見えた。だから課題を出して諦めてもらうようにした」
「そんな・・・私・・・ともりを使って遊んでなんか・・・」
その言葉が心に大きなクサビを打ち込む。
そんなつもりはなかった・・・それなのにその言葉には真実を突きつけられた。そう確信すると急に涙が滲んでくる。ともりに対してこれっぽっちも思っていないのに・・・
この涙の意味は?
少なくとも相澤君にはそういう風に見えた。
私はもの凄くともりのことを傷つけたのかもしれない。自分の浅はかな考えのせいで。
「・・・違う。私はそんなつもりはないよ。それって勝手に相澤君が思ったってことでしょ」
「結果的には逸見はやりたくもないことをやらされた」
・・・・そんな。ともりは自分で言ったんだよ。いつか渡せたらって・・・
今まで恋愛は自分とは遠い場所にあった。これからも私の中ではしばらくはそうあり続けるものの一つとしてカウントしていた。
けれど恋愛を本当に真剣に考えている人が身近にいて・・・だから・・・もしかして私はともりから恋の話を聞いた時、ともりよりこの状況に興奮してしまっていたのかもしれない。
恋を知らないと知っているとでは計ることすらできない距離がある。
今、そのことを思い知らされている。
ホントは相澤君に一言だけいうつもりだった。
けど言われて初めてそれが自己満足だってことを思い知らされた。だから苦しいんだ。苦いモノを口の中に詰められたような感じがするんだ。
私は自分自身のことを認めないとならない。だとしたら私はともりに何をどう言ったらいいのだろう。謝っても今の状況が好転することはない。
「話は終わりだ。部活に行くぞ」
相澤君は振り向いて行こうとする。
「おい。まだなんかあるのか?」
咄嗟に私は相澤君の手を取っていた。まだ終わっていない。こんな気持ちのまま部活なんて出来ないよ。
「・・・確かに相澤君の言うことは間違っていない。言われて初めて気が付くこともある」
私は自分のことを分かった上で言うんだ。
「私はともりを自分の遊び道具なんてしていない。私一人で盛り上がった結果だとしても。私は親友に酷いことしない。誰にも思われたくない」
私とともりは親友だ。他の人にそんな風に思われるなんて絶対に嫌だ。その気持ちは今ここで絶対に分かってもらいたい。
「だとしたら藤川はどうするつもりだ?」
「最初にともりに謝りたい。私が彼女の意思を無視したのは本当のことだから」
その瞬間、頭の上にフワリをしたモノを感じる。
「なら部活に行かないとな。それから藤川はどうする?」
「苦手だけど・・・私もお弁当作る。ともりだけじゃ大変だから」
相澤君は私の髪をクシャクシャとする。
「逸見は良いヤツだからきっと許してくれるだろう」
え?今、なんて?
その答えを聞こうとしたけど
「・・・ちょ、ちょっと」
待ってよ。なんで話の途中で歩けるのかな?
不思議だけど心が軽くなっている。それに相澤君の後ろ姿を見ていると今まで曇っていた気持ちが少しだけ晴れてゆく。
追い着くつもりはないけど私はずっとその背中が見える距離を保ったまま部室に向かって歩いていた。
お弁当・・・最近は作っていないな・・・
読んでいただきありがとうございます。
おにぎりにちょっとしたおかず。
冷めていても美味しい。その感覚が好きです。
よし。暖かくなったらお弁当を持って出掛けよう。
桜でもボーッと見ながら食べる。きっと最高でしょうね。
あ、脳内でお弁当食べてました。空想好きだな。
次のアップは少しだけ春に近づいている。一歩でも半歩でも。
桜の樹の下には・・・なにが埋まってる?(答えは秘密)




