運命と偶然が必然となって
入学式は通り一遍普通に流れてゆく。
新入生代表挨拶はもちろんイケメン秀才だ。自己採点。私も結構自身があったのに彼は一体何点だったのだろう。
こうやってあらためて見ると確かにイケメンだ。それは認めよう。壇上で話す姿も凛としていて、すでに一年生全ての女子の心を掴んでいるみたいに見える。チラッとだけ後ろを振り向いてともりを見ると顔は赤く昂揚させていた。どんだけ好きなんだ?
三十分ばかりの入学式が無事終わってから再び教室に戻る。途中で教科書一式が一人一人に渡されてゆく。私達のクラスだけ別ブースがあって明らかに一般のクラスとは教科書の量が違っている。まあ三割増しってところか。
両手に抱えながらともりと一緒に歩いていると少し前をイケメンが一人で歩いている。その後ろ姿をともりは教室に入るまでずっと見ていた。
先程の席に着いて待機していると後ろからともりが話しかけてくる。話題のほとんどはイケメンの話だ。ふんふんと適当に相づちを打ちながら聞いていた。やがて担任が入ってきて
「君達の担任の沢渡です」
いきなりの自己紹介。歳は30代後半といったところか。細身で少々度がキツそうな眼鏡をかけている。その奥からは鋭い眼光が窺えた。性格はクールでキツそう。っていうのが私の感想。実際は分かんないけどさ。それから担当科目は数学。いかにも理系って感じがする。
「このクラスは特別だということを忘れないように。だからと言って勉強だけが高校生活ではない。有意義なモノにするためにしっかり考えて行動するように」
なんてことを言ってから今度は生徒たちの自己紹介が始まった。
出席番号一番から順に流れてゆく。ということはまずはイケメンからだ。大体の自己紹介がそうであるようにみんながみんなほとんど言葉こそ多少違えど内容は一緒だ。名前と出身中学がメインで後は趣味とか将来の目標なんかが語られる。時間にしても平均一分あるかどうかだ。ポンポンと進んであっと言う間に私の番になる。そして同じことを言って席に着く。
「はい、次、イツミさん」
「ヘンミです。良く間違えられますがヘンミです。っていうか私の前が藤川さんなのに『フ』の後に『イ』って変ですよね」
ともりはいきなりそんなことを言う。ちょっとだけクラスの中に笑いが生まれた。少しだけ緊張が緩んだみたい。そんな私達のことなんて特に気にする様子もなく担任はあらためて
「それは失礼した。では次、ヘンミさんお願いします」
「はい」
と大きな声で返事してともりは自己紹介した。出身中学を聞いて驚いた。完全に学区外だし電車でどれくらい掛かるのだろう。後で聞いてみよう。
それから簡単なオリエンテーリングがあって本日は終了。そして明日はいよいよ部活紹介と見学が始まる。そのことを胸に家路に着くとしよう。
「ねえ、あやせ」
そう話しかけてくるのは
「ん?なに、ともり」
「無事入学式も終わったことだし、この後お昼でも食べて帰ろうよ」
「お昼?」
「そう。お腹減っちゃった。家まで持たない」
「遠いよね。三年間通えるの?」
「まあ、そこはほら、恋の力ってヤツで乗り越えるつもり」
ともりはにっこり笑って言う。
「いいよ。なに食べるの?」
「それは・・・見てから決める」
教室を出て校庭を校門に向かって歩いていると、すでにたくさんの上級生達による部活勧誘が応援合戦みたいになっていて賑やかだった。
「うわ、すごいね。部活紹介明日なのに、気合い入ってるな」
何度も声を掛けられるけどその度にうやむやに笑って誤魔化す。ま、この身長じゃ運動部からの声は掛からない。もっぱら文化部から声がかかるわけだが。
何とか校門まで辿り着く。学校から最寄り駅までは大体10分くらいだ。ほとんどが電車通学なのだろうし、道だってまだ一つしか知らない。よって大名行列なような光景の制服姿の新入生で溢れている。私とともりもその行列に参列して駅を目指す。
「ねえ、あやせ、そういえばさっきの続き。部活がなんだっけ?」
「ああ。それね。実はもう入る部活決めてるって言いたかった。っていうかその部に入りたくてこの学校選んだってのもあるんだ」
「へえ。ねえねえ、それって?何なの?」
「それは・・・・」
と言おうとした時フイに横道から一本の手が伸びる。
「ヘイ」
それがちょうど私達達の目の高さだったから反射的に身体が反応して立ち止まった。おかげですぐ後ろを歩く同級生がビックリして慌てて避けて、すれ違い様に恨めしそうな顔をこちらに投げかけてゆく。
「ちょっとなに?びっくりしたんだけど」
ともりに合わせてその手の方を見る。よく見ると親指を空に向かって突き立てている。
「ごめんごめん、驚かせちゃった?」
そう言いながら私達の目の前には一枚のビラが風に踊っている。そこには
「これって・・・」
「なに?女子ヒッチハイカー部?」
ともりがじっと見てから口にして、私は思わずそのビラを手にした。そしてあらためてそのビラの主を見るとやはり同じ学校の先輩だ。制服の上には首から紐で下げている段ボールで手作りされたボードには『auto–stop』と書かれている。
「興味あったらよろしく。でもほんと驚かせたならごめんなさい」
そう言って頭を下げる。なんだかずいぶん礼儀正しい先輩みたい。絵に描いたようなオカッパ頭で眼鏡。一見とてもヒッチハイクをやれるようには見えない。
「それじゃ」
先輩はそう言ってまた横道に隠れターゲットになりそうな新入生を物色し始める。少しだけ様子を見ていると誰にでも声を掛けているようには見えない。人を見て判断しているとしたら声を掛けられた私、もしくはともりは声をかける対象として見えていたのだろうか。
『運命』
もしそんな言葉が本当にあるなら願ってもいない。偶然や努力だけでは到達辿り着くことができない場所だってある。
もし声を掛けられないで自分から明日足を運んだとしたら同じ場所になっていただろうか。
私もともりも努力してこの学校に入った。それに同じクラスになったのは偶然かもしれない。でも初めて声を交わしたのが運命だとしたら?今はこうやって一緒に帰ったりしていないはず。
急に心臓がドキドキと鼓動を速める。運命ならこの手を離すわけにはいかない。
「ちょっと待ってて」
ともりにそう言って私は向きを変えて先輩の元に歩き始める。
「待ってよあやせ。ちょっと、もしかしてさっきのことで文句とか言うんじゃないよね」
心配しているともりには悪いがそんなつもりなんかじゃない。全てが新しい一歩なら私は躊躇うことなく踏み出す。それだけだ。
「あの、先輩」
びっくりして振り向く先輩。私は自分の想いを伝える。
「興味あります。話が聞きたいです」
呆気にとられている先輩。でもすぐに理解して今度は驚きの表情に変わる。
「ほんと?」
「はい。一年六組、藤川あやせです」
まだドキドキは継続している。同時に足が震えているのも分かる。
一歩踏み出す勇気は心を重くするどころかむしろ春の陽気のように軽やかで清々しく感じる。だからこれは震えているのではない。私は運命という世界の中で奮えているんだ。
ほんと今日は特別な一日。今までを振り返れない。きっとそんな日々が始まる期待と希望。
空を見上げるとどこまでも透き通った青色が広がっていた。
読んでいただきありがとうございます。
だんだん文字数が増えて、読み難かったらごめんなさい。
まだまだアップしていく次第です。
よろしくお願いします。




