今日のともりは元気だね
ともりは今日も元気だ。毎朝五時起き・・・いつも七時くらいまで寝ていても寝足りない私には考えられない。今彼女を動かしている原動力は『恋』という至極分かりやすい理由なのだ。
「どうかな?」
じっと見つめる視線の先にはどうやってもイケメンの姿が見えるのは気のせいではないだろう。
「うん、美味しくできてると思う。凄いね。もう作れるんだ。ほんと凄い」
「ほんとにそう思ってくれてる?」
「当たり前でしょ。私は美味しくないものに美味しいなんて言わない」
「お世辞とかじゃなく?」
「だからホントにホント。本心から美味しいって思ってるから」
ともりは拳を握って『よっしゃー』的なポーズをする。
ほんと冗談じゃなくこのハンバーグは美味しいよ。冷めていても美味しいって。この味はお弁当という形じゃないとけっして味うことなんてできないよ。
「でさ、料理を頑張るのは分かってたけど。ホントは私じゃなくて・・・」
その先を言おうとしたところで
「その先は待って」
目の前に手を翳して私は制された。ともりの顔が急に赤くなる。もちろん本人に聞こえないように言うつもりだったけど。
ともりは今度は顔を近づけて小声で話す。
「実は」
視線をずらすと当然その先にはやっぱりイケメンがいる。
「今度、相澤君にお弁当作ってあげようかなって」
「え!お弁当!」
「ちょっとあやせ、声、大きい」
「・・・ご、ごめん。急にそんなこと言うからビックリした」
意識して小声で
「で?それっていきなり?」
私は今までそんなことしたことない。漫画とかならよくある展開かもしれないけど、果たして現実ではどうだろう?いきなり渡されて受け取ってくれるものなのかな?それにともりはどうやって渡すつもりなのかな?
「それでね・・・悩んでる」
「だろうね」
やっぱり同じことを思っているのだろう。もし自分が逆の立場なら?喜ぶ?それとも困惑する?実際そんなことありえないと思うけどさ。あ、でもアイアイ先輩だったら私は無条件に喜んでしまうだろうな。やっぱこういうのって人によるか。
「あのさ・・・」
的確なアドバイスにもならないと思うし、ともりだって解決策を望んでいるわけではないよね。
それと・・・なんでそんなに目を輝かせているの?
「あのさ。きっかけが必要だと思うんだよね」
「・・・きっかけ。そう、まさにそれ」
今度はともりの声の方が大きいし席を立ち上がる。今度は私がともりのことを制して席に落ち着かせた。
「きっかけって何かあるかな?」
「あるよ」
私はキッパリ、ハッキリ、断言する。
そんなのちょっと先のこと考えたらすぐに答えは出てくる。
「ホントに?なになに?参考にしたい」
「土曜日。この日しかない」
「なんで?」
「なんでって決まってるじゃん。部活だよ」
ともりは部活のこと思い出したのだろう。元に戻った顔が再び赤くなってゆく。
「そっか・・・確かに」
「でしょ。だから前もって言っておくといいよ。じゃないと自分で用意しちゃうかもしれないしね」
ともりは私の手を取ると
「・・・お願いがある」
顔もだけど手もずいぶんと熱く感じる。それで?何をお願いしたいのだろう。
「あやせも一緒にいて欲しい」
懇願するような眼差しをされても。私も一緒ってなんか違うような気がする。
「え?そんなの私がいたら変じゃん。一人で言いなよ」
「それができるなら頼んでないよ。お願い。私達親友でしょ」
親友をここで持ち出すの?親友ってそんな存在だっけ?
すぐに断れない私がいる。
ともりにはあの時のことがある。いわば借りを作ったと言えなくもない。なら今度は私からともりに返さないとならないのかも。
ともりは何も言わずに私のことを助けてくれた。それは私のことを親友だと思っていたからなのか、親友として当たり前の行為だったからなのか。どちらにしても親友なら当たり前のことなのかもしれない。
私だって今となってはともりの親友なんだ。そう宣言もした。私だってともりの力になれることがある。今の彼女がそれを求めているなら。力になれるならなりたい私がいる。
でもやっぱ今回は違うよね。
親友の恋を応援するのは賛成だけど、やっぱり自分自身で越えないとならない壁は自分の力で越えることに意義があるんじゃないかな。
なら親友の私としては
「ともり、頑張れ。草葉の陰から応援している」
「なによそれ。冷たくない?」
「だから。勇気を出してみなよ。私はともりのことずっと応援してたよ。上手くいくといいってホントに思っているよ。だから・・・もし断られたら私が親友として慰めてあげる」
今はこれが正解だと思う。当たって砕けたらそれを癒す。
「もう一度言うよ。ともり、頑張れ。きっと上手くいく。もし断るなんて暴挙に出たら私に考えがある」
「考えって?」
「そう。相澤君のお姉さんにこのこと報告する」
「え?お姉さん?いるの?っていうか何であやせ知ってんの?」
あれ?言ってなかったっけ?いや言ったと思ったんだけどな。
「私、言ってなかったっけ?この間一緒に買い物に行った時会ったんだけど」
「初耳なんだけど」
「ごめん。言ってなかったか。いたんですよ、お姉さんが。でね、アイアイ先輩にそっくりなの。あ〜。でも横顔とかは相澤君に似ているかな。今大学生なんだって。それでね、たまたまバイトしている日だったの。今度みんなで来てって言ってたよ。だから・・・・・」
あれ?なんでともりは急に目を逸らす?
「おい」
その声って。振り向くと
「あ、相澤君?え・・・っと、もしかして・・・」
「よく聞こえる。藤川は背は小さいが声はデカいな。そろそろ止めてもらってもいいか」
そうですね。ついあの時のことを思い出して興奮してました。
「えっと、それで?話しかけてきたのって用があるからじゃないの」
相澤君は手招きをすると席替えの時の良いヤツがこっちに歩いてくる。相変わらずの茶髪だし近くまで来るとやっぱり香水の匂いがする。
「紹介する」
紹介も何も知ってるし。確か・・・あれ?
「えっと・・・結城君・・だよね。確かこの間の模試十位だった」
ともり、ナイスフォロー。でもなんでそんなこと憶えている?
「なんだよ、同じクラスなのに俺って影が薄いのか?」
「そうじゃない。コイツ等が周りにあまり感心を持ってないせいだ。特に藤川は自分の好きなモノしか見えていない」
な、なによ、その言い方。確かに間違ってはいないけど他にもっと説明の仕方あるでしょ。
「俺は二人の名前憶えているのに。藤川あやせ、それと逸見ともり」
なんか男の子からフルネームを呼ばれるのってちょっと恥ずかしい感じがする。
「えっと、あの時は席を代わってくれてありがとう。結城・・・君」
「俺の名前は結城翠だ。憶えたか?」
やっと認識。確かに自己紹介の時変わった名前だなって印象はあった。けど他のことで頭が一杯だったから名前と顔の一致ってまだ追いついていないんだよね。
「そっか『すい』って呼ぶんだ。『みどり』だとずっと思ってた」
ともりも今知ったみたい。ま、あの時の彼女は他の人なんて目に入ってすらいなかっただろうから。あ、今もそうか。
「それで?結城君を何であたらめて紹介って」
「新しいマネージャーだ」
まさかマネージャー候補だったとは。私とともりは顔を見合わせて驚いた。
冬なのに頬に当たるのは南風。
読んでいただきありがとうございます。
風の向きで見える色が違うのがなんとも不思議です。
空は青いのに違う青色。雲は白いのに違う白色。
もっといろいろな色が見たい。だから人は旅に出るのかな。
今年はどこに行こうかな。久し振りに沖縄もいいなぁ。
次回も違う色の空の元で待っています。なんてね。




