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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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準備っていろいろある

 相澤君からの返信はない。ということは学校の外で友達と会っているんだろうな。

 

 そんなことを思いながらアイアイ先輩の部屋で先輩が持ってきてくれたミックスサンドに手を伸ばしている。

 取ったのはキュウリのサンドウィッチ。

 マヨネーズベースにほんのり塩気がしてさらに胡椒がなかなかいいアクセントをしている。主役のきゅうりはポリポリと小気味良い音で食感を楽しませてくれる。美味しいに決まっている。


「瞬のヤツ、連絡しても返事が返ってこない」

 そりゃそうでしょう。ってイトコにも私達と同じ態度を取るとか、やっぱり我が道を行く人なんだね。

「それと・・・あやせは少し落ち着いたら?」


 自分でも分かっています。けど無理です。

 アイアイ先輩の部屋だもん。ついキョロキョロといろいろ見てしまうのは仕方のないことなんです。


「・・・あと、さっきからパン屑もすごいから」

 先輩は溜息混じりで言う。慌てて集めてゴミ箱の中で手をパンパンする。

 初めて入った部屋は予想を反してコーヒーの匂いはしない。とても爽やかな匂いがする。例えるなら森の中みたいな?

 興奮してしまう私のことを今は許してください。自分じゃどうしようもないんです。一生懸命心臓のドキドキを抑えようとしているのに意識すればするほど言うことを聞いてくれないんです。

「えっと・・・すみません」

「声と顔。言っていることと表情が違い過ぎる。あやせの場合顔を見るのが一番分かりやすいな」 

 むむむ、さすがイトコ。血は争えない。というか私ってそんなに顔に出るんだ。これはちょっと自重しないと。けどどうやって?

「・・・うう・・私ってやっぱ顔に出るんだ」

 ちょっとだけ自己嫌悪。治そうとして治るものなのか?いや、この二人が特別であってきっと他はそこまでじゃないことを願いたい。けれど自信ないなぁ。


「ほら、あやせ。これ見てみ」

「は、はい」

 先輩は目的地までの地図とルートをパソコンの画面に出している。

 東京から香川までのルートが赤いラインで表示されている。見た目にはほぼ一本道。距離にして大体七〇〇キロ以上あってずっと走り続けて九時間弱。

 東京の外にロク出たことのない私にとってはなかなかの距離と時間だ。修学旅行で行った京都なんてほぼ半分じゃん。一体何回ヒッチハイクしたら?それにどれくらいの時間を使えば辿り着くのだろう。想像しても実感として受け止めることができない。

 今の私には月に行くのと変わらないような気持ちがする。


「私達が一番遠いからな。しっかり計画を練る必要がある。あと予算のことも考えないと」

「予算?・・・確かにそうですね。ヒッチハイクで交通費はなんとかなっても他はかかる」

「そう。食費に宿泊費。乗せてくれた車の運転手さんには缶コーヒーの一本くらいは差し入れしたいしね。だから行程が長くなればその分かかる。けれどそれだと面白くない。なるべく最低限で達成したい。これもこの部の醍醐味の一つだと思っている。お金をかけることは簡単だ。けれど使わないって結構難しいんだ。それに・・・」


 ここで一旦会話を区切って冷めたコーヒーを一口飲んでから話を続ける。

「もう一つ大事なこと。いくら先生が稼いでいるからって全部を持ってもらうわけにはいかない。一応経費としての予算はあるけどそれを越えた場合は自腹になる」

 自腹・・・ということは持ち出し。そこまでは考えてなかった。

「初めて聞いたって顔はそういう風になるんだ」

 クスクス笑う先輩。私は自分でも顔が赤くなるのが分かる。つい両手で隠して

「・・・う〜、はずい」

「まあまあ、それがあやせだよ。なかなか面白い。で、お金の話だけど」

「・・・は、はい」

「私は今まで自分のお金を持ち出したことはない。むしろ予算より安くあげる方が多い。だから自分のお金を使う時っていうのはきっとどうしようもないくらい緊急なことだと思っている。だから持っていくことはもってゆくけれどそれは言ってしまえばお守りみたいな感じかな」

「・・・凄いです。もしかしてみんなそうなんですか?」

「まあ、浅倉以外は大体達成しているかな」

「部長ってそんなにオーバーしがちなんですか?」

「まあ、これから知ると思うがアイツは行った先々で食うんだ。それが浅倉の一番の目的なんだ。おかげでかなりのウエイトを占めている。一旦旅に出たらしばらくはお土産の宅配が部室に届くことになる」

「そうなんですか。もしかして部長のお家ってお金持ちなんですか?」

「いやいや、いたって普通の家庭。アイツは旅のためにバイトしているしな。ついでにこれも言っておくか。あいつの土産を食べたらその分お金を請求されるから迂闊に手を出してはならない」

「ええ!お土産なのにお金を取るんですか?」

「まあ一個二十円とか、価格設定は低いけどあいつはそうやって少しでも回収しようとしている。ま、これをケチとかセコいと思うのは自由だ。私達は知ってるから承知で食べるけどな」

「・・・はぁ」


 お金か。まあ、考えてみたらそうだよね。全部おんぶに抱っこってわけにはいかないか。

 私は今現在全財産っていくらあるのかな?もしかして部長のようにバイトをしなきゃならなくなるのかも。


「それと今回は帰りの旅費の心配はない」

「えっと、それってどういう・・・」

「今回は期間が短いから達成出来なかったらその時点で電車なりバスなり飛行機なり、とにかく公共交通機関を使って帰ることになる。じゃないと学校に間に合わない」

 そうなんだ。でも予算内に納めるというのも一つの挑戦なのかもしれない。今回は時間がなくてバイトはとても出来そうにない。だから絶対予算内で押さえないとならない。違う意味で新しい目標ができた。

「お金の話のばかりじゃ窮屈だろ。でも現実も知っておかないとな。じゃあ一旦置いといて。私達の旅をいかに充実したものにするか。そっちの方が大事だからね」

 そうだよね。お金のことは大事だけど今はそっちの方が大事です。やっとここまで辿り着くことができた。そして憧れの先輩と同じ部屋で同じ時間を過ごしている。


 今という瞬間は私にとって十分過ぎるほど充実している。これまでの私は身体のことを気にして部活なんて入ったことなかった。でも私のつまらなかった中学時代は完全に過去になっている。

 考えてみれば先輩の存在を知った時からずっと努力してたんだ。頑張ったってことが自分の自信になっていることを確かに感じることができる。


 コンコン。


 ノックがしてマスターが入ってくる。手にはトレーがあってコーヒーだと匂いですぐに分かる。

「こんばんは。あのマスターこの間はごちそうさまでした」

 私が言うといつもの笑顔で

「いやいや大したことじゃない。それより頑張ってるね。これ僕からの差し入れ」

 コーヒーと一緒にプリンアラモードがある。美味しいんだよね。ここのプリンはちょっと固めで。

「いいんですか?ありがとうございます」

 マスターはテーブルの上にトレーごと置いて自分も座った。

「この間はなんだか賑やかになってしまってちゃんと言えなかったから」

 正座をして姿勢を正すと

「ホントはともりさんにもちゃんと言いたいんだけど」

「あ、はい」

 私もつられて同じように正座してマスターの真っ直ぐな視線に合わせる。

「病院のこと。君達がいてくれて本当に良かった」

「いえ。私達はただ居ただけですし」

「そんなことない。君達がいたから亜衣香は冷静にいられたんだ」

「分かります・・・あの、私のこときいてもらってもいいですか?」


 私は最近まで自分の身体がどんなだったか隠さず話した。先輩とマスターには話してもいいと思ったから。自分のことだけど難しくて病名だってよく分からない。でも自分の言葉にできることは話したつもりだ。ほんとはアイアイ先輩が話の中心なのに、もしかしてこんな話し聞きたくないかもしれない。でも私には分かる。先輩のあの時の気持ち。


「・・・だから何となく分かるんです。慰めも励ましも人によっては煩わしくなる。自分一人だけが世界に対して背中を向けていて同じ方向を見ていないような気がする。少なくとも私はそうでした。みんなと同じことができない。病院に通うのが当たり前の日常の世界。いつも世界に馴染めていない気持ち。亜衣香先輩は違うかもしれないけど、もしかしたらそういう気持ちに寄り添えたのかも、なんて・・・勝手に思ってます」


 病気は人それぞれ違う。感情だって違う。同じように病院に通っていたとしてもなかなかお互いを理解することは難しいと思う。なのに私は先輩に気持ちを考えないで自分の意見を言っていた。

「あ、あの、これは私のことの延長で話しただけで、かえって先輩を傷つけたり不安にしてしまったりしたらごめんなさい」

 しばらく誰も話をしようとはしない。沈黙とコーヒーの匂いで部屋は満たされてゆく。けれどその沈黙は何時までも続くものではない。


「いや、びっくりした」


 そう言い出したアイアイ先輩は笑っている。え?また変な顔でもしていたのかな?

「あやせって、ずっと元気で過ごしていたと思っていた。むしろ話したくはないことだっただろう。なのに悪いな。私にいろいろ気を使ってくれて。でもあやせの言いたいことは分かる。私もあの時はちょっと、いや違うな、かなり参っていたし不安だった。『もし』なんてことをずっと考えていた。私の母親のことは聞いたよな。実際そうなっても仕方ないと思っていた。けれどあの日。瞬が二人を連れて来た時、なんていうか場の空気が変わったんだ。生きていることが眩しいというか、楽しんでいるって見えたんだ。だから思ったんだ。『もし』があったとしてもそれまでは生きていられる。だったら私もその時が来るまでは明るく生きていこうって。そんな気持ちになったんだ」

「そう・・・なんですか?」

「気が付いていないのか?あやせは出会った時からずっと楽しそうだ」

 そんなことを先輩から言われると顔が熱くなる。私だって同じ気持ちを先輩からもらったんです。

「結果を聞いた後は思わず大きな声が出たんだ」

「あ、あやせさん、亜衣花はもちろんだが、今言っているのは瞬のことだよ」


 一瞬ポカンとして思考が停まる。


 先輩の姿はすぐに想像が出来るけど相澤君の姿は想像出来ない。

 っていうか、そんなキャラじゃないでしょ、あなたは。

 でも彼がいつもクールなわけじゃないことが分かるともっと親しみを感じる。今度は別のかたちでそんな姿を見てみたいとも思ってしまう。


 私達三人は静かに笑う。とても温かくて生きていることへの感謝のような笑いだ。

 こんな気持ちにしてくれたことに本当に感謝している。運命という道標に。


 私の中で楽しい思い出が毎日毎日どんどん増えてゆく。まだ始まりだとも思っている。

 これから先、もっともっと。ちょっと欲張り過ぎかな?でもそれは今までを埋めるように速い流れの中で生まれているように感じる。


 夜が更けてゆくのが楽しい。けれど悲しくもある。複雑な想いがクルクルと廻るような一日だった。

いくつになっても青春してますか?

読んでいただきありがとうございます。

自分が我武者らに生きる。歳なんて関係ない。

年寄りの冷や水なんて言われるかもしれませんが

私は走っています。いつだって今が輝いている。

そんな人生になるといいな。

そんな物語を次も読んでもらえることを願っています。

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