私達の目指す場所
教室前の廊下には模試の結果として上位五十名の名前が書かれた紙が張り出してあった。
言うまでもなくたくさんの生徒が集まって見ていた。背の低い私は張り紙すら視界に入れるのに時間が掛かる。
「やった!やった!」
ん?この声って
「ともり。着いてたんだ」
「やったよ、あやせ」
満面の笑みで私の手を取る。
「あやせもやったじゃん。これで部活続けられる」
ともりに教えられて自分が安全圏にいることが分かった。なら一体何位だった?
やっと掲示板を見ることが出来た。正直びっくりした。
「え?相澤君が一位なのは分かっていたとして、え?ともり四位?え?私は・・・・・・うそ・・・」
八位。
目標の十位以内には入っていることは確かだが、なんだろうこのモヤモヤする気持ちは。まさか部活メンバーの中で最下位とは。結果としては十分過ぎる。合格ラインだってクリアしている。それなのに私の心の中は敗北感で一杯だった。イケメンには負けることは分かっていた。けれど心のどこかでともりには勝つと思っていた自分が急に恥ずかしくなる。こんなことになるならもっと勉強しておけばよかった。
「みんな十位以内に入るなんてすごくない?」
「・・・そうだね」
「なによ。もっと喜んでもいいんじゃない?あ、もしかして私に負けたことに不満があるとか?」
うう・・・確かにそうなんだけどさ。でも何で私はともりには勝てるなんて思っていたんだろう。実際入試の順位だって知らないのに。もしかしてそれだって負けている可能性だってある。それなのに私って・・・・・
「・・・ごめん。確かに喜んでいいよね。目標は達成しているしね」
「そうだよ。私頑張ったもん。あやせより頑張ったと思う。だからこの結果には納得している。それに見てよ」
ともりは得点のところを指差す。
「ほら私とあやせってさ、得点で言ったらたった五点しか違わないんだよ。きっと一問か二問しか差がないってことでしょ」
「まあね。・・・ごめん」
「?」
「確かにともりの言う通り。私、ともりには勝つって心のどこかで思っていた。でもそんなこと思った時点で私は負けていた。私は私の奢った心に負けていた。でもこれだけは言わせて。決してともりのこと馬鹿にしていたとかじゃないから。ともり、ずっと頑張ってたんだもん。むしろ負けて当然だよ。余裕をかましていた自分が今はチョー恥ずかしいだけだから」
「いいよ、いいよ。そういう気持ちも分からなくもないから。今回は勝ったけど私はそれくらいやらないと駄目なんだ。あやせみたいに余裕はない。だからこれから先の試験はどうなるか分からないよ」
「ともり・・・私・・・ともりが親友って言ってくれるのなんでだろうって、ずっと思っていた」
「急に何を言い出すかと思えば」
私にはまだ友達と親友の境界線が分からない。けどそんなものは本当はないのかもしれない。私が親友だと思えば親友になって、ともりが親友だと思ってくれるなら、それはもう親友でいいのかもしれない。お互いがそう思っていることがきっと大事なんだ。
「私もともりのこと親友だと思いたい。だから私達は今から親友になる」
「なによそれ。それってあやせが決めることなの?」
「ううん。もしともりがやっぱり普通の友達の方がいいって言うんならそれでもいい」
ともりは私の顔をじっと見つめてから
「いいよ。私はずっと言ってたからね」
あらためてそう言われるとちょっとだけ気恥ずかしい。でも私も同じ思いだから。
私は人生で初めて『親友』と呼べる存在が出来たんだ。想定外なことだけど、きっとこれは運命なんだ。私とともりはそうなる運命で出会ったんだ。
「おい。もういいだろ。教室行くぞ」
「あ、相澤君、まだいたんだ」
「これで一安心だな」
と、ここで予鈴が鳴る。私とともりは相澤君の後ろ姿を前にして教室まで並んで歩いた。
放課後になって今は部室にいる。そしてみんなに報告すると部長が一言。
「まあ、みんな六組なら当然だろうな」
これで晴れて私達は仮入部が終わって正式に新入部員として迎え入れられた。
「ほんと。みんな十位以内なんて凄いね」
凛柊先輩が私達の前にコーヒーを置いてくれた。私達がやるって言っておきながら先輩の方が早く来るのでなかなかその機会は訪れていない。
「で?今度の土曜、逸見は大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫です、部長」
「なんか悪いね、新入部員に押し付けているみたいで」
「そんなことないです。むしろ任せてください」
ともりの気持ちはどこまでも前向きだな。もちろん私だって同じ気持ちだよ。
「頼もしいねぇ。じゃあ次。この間話していたゴールデンウィークの行き先を整理しよう。私達三年生にとっては最後だから後悔しない旅にしないとね」
部長はホワイトボードにみんなの名前を書き始める。
先ず部長がいてその次にはアイアイ先輩と私の名前が書かれる。次いで黒川先輩に紺野先輩が続いて最後に凛柊先輩の名前があった。ん?あれ?ともりの名前がないのは何故?
反射的にともりの顔を見ると視線に気が付いたのだろう。ニッコリ笑って
「気になる?」
「まあ・・・気にならないって言えば嘘になるけど」
「ふふん」
なによ、その不敵な笑いは?
「なによそれ。気になるじゃない、教えてよ」
「最初から正直にそう言えばいいのに」
また意味有りげに笑う。一体何を企んでいるのよ。
「逸見は私と一緒に行く。本当にいいのか?」
部長の言葉にともりは頷いて
「分かった。なら決まりだ」
そしてともりの名前を自分の隣りに書いた。いつの間にそんなことを決めていたのだろう。せめて私に相談くらいしてくれたって、なんて思っていると
「おあいこ」
は?一体何のこと?私が何も言えずにいるとともりはちょっと口を尖らせて
「だってさ、せっかくあやせと一緒にどこに行こうか決めようと思ってのにあやせってばさ、自分でさっさとアイアイ先輩と行くこと決めちゃってさ」
「・・・・あ」
「もしかして今気が付いたとか?」
確かに言われてみれば私は自分のことで頭の中が一杯でともりの気持ちをちっとも考えてなかったよ。う〜・・・・・そのことに対しては何も言うことことができない。私一人で突っ走っていたんだ。
「え・・・えっと・・・」
「ほらほら、何か言ったらどうなの?」
ともりは言葉に詰まっている私の顔を笑顔で見つめている。一体なんて言ったらいいの?ともりは本当に私と一緒に行きたかったんだろうな・・・
「あ、まあ、その、ごめん。あの時は一人で盛り上がっていたというか、私にとってこうするしか選択肢はなかった。私、どうしてもアイアイ先輩と一緒がよかった。もちろんともりとだっていつか一緒に行きたいと思っている。けどそれは私達には次があるから」
そこまでイッキに言った。その先にことを考えてみてもそれ以上のことは私には出てこない。正直に全部話したつもり。そんな私のことをともりは真顔でじっと見ている。
「知ってる」
「え?」
「だから知ってる。ちょっと言ってみたかっただけ。ごめん。私の方が意地悪だよね」
今度はともりの方が私に謝る。一体なんなの?何がしたかったのかな?
「でも言ったことはホントの気持ちだから。こんなこといきなり言われても困っちゃうよね。でも親友としてはあやせのホントの気持ち言って欲しかったな。私こそごめん。これって私のわがままだから」
頭を下げるともり。そっか。最初に言っとけば良かった。そのことに拗ねているともり。ついともりの肩に手を乗せて
「いいよ。許してあげる。私も許してもらったから」
そんな言葉が出てくる。
不思議。私はこんな風に言われてもともりのことは許せる。それに腹を立てているわけでもない。ともりのことが可愛く見えてくる。
「ちょっと、あやせはなんで私の頭を撫でているのかな?」
いつの間にか肩ではなく頭を撫でていた。形はいいし髪のしなやかさが手に馴染むみたい。
「さあ、何でだろうね。私にもよく分かんないんだ。けど今はこうしてみたいって思った」
「解決したならそろそろ始めるよ。いいかな?」
部長が言って私達は席に着いて頷いた。
それから各々の行き先の発表が始まった。
まず最初は凛柊先輩から。行き先は茨城のひたちなか海浜公園。先輩はネモフィラが見たいんだって。ネモフィラって青い花だよね。テレビで見たことある。
二番手の黒川先輩は紺野先輩と今この場で一緒に行くことを決めた。というのも行き先が偶然にも同じだったからだ。
伊豆下田。なんでもその辺りには自然が創り出したジオスポットと言われているところがたくさんあって二人はトンボロを渡りたいんだって。
トンボロってなんだろう?
聞きたいけどその答えは無事旅が終わった時に聞いてみよう。
部長・ともりペアは黒部ダムだって。
冬の間閉ざされていたアルペンルートが開通されるからその絶景を見たいんだって。
それにしてもこの二人。いつの間に決めていたんだろうな。
最後に私達の行き先の発表になる。事前にアイアイ先輩にはラインで送ってあるし先輩も了承している。
代表して私が席を立つ。軽く深呼吸すると武者震いに似た緊張感が背筋を走った。
いよいよ始まる。私は最初の一歩を。先輩は最後の花道を。私達はそれぞれの道を踏み出すんだ。
「私達は四国に行きます。香川県にある父母ヶ浜を目指します」
「ねえあやせ」
隣りに座っているともりが聞いてくる。
「そこには何があるの?」
多分聞かれるだろうと思って事前にいろいろ調べてあるんだ。
「ウユニ塩湖って知ってる?」
「?知らない」
「そこってね南米ボリビアにあって実際に日本から行くのってもの凄く大変なところなの。無事に到着できたとしても天気や気候に左右される。でもほら、条件が揃ったらこんなに」
私はスマホで奇蹟ともいえる幻想的な写真を見せる。ともりは目を丸くして
「うわ、なにこれ!すっごっくキレイ!」
「でしょ」
「きれいなのは分かった。それで?ここと四国がなんの関係があるの?」
「じゃあ今度はこれを見て」
次に見せたのは夕陽に照らされている写真だ。これもネットから拾った。ウリ二つなんて言わないけど
「日本でも条件が合えばこんな感じで見れる場所があるの。一番有名なのがココ。もちろん確実に見れるって保障はないけどさ。けど私は奇蹟を信じたい」
「あやせならきっと叶えられるよ。信じてる」
「ともり・・・」
そんな風に言われるとなんか恥ずかしいけど嬉しさの方が大きい。ともりが適当なこと言っていないことくらいは分かる。私だってみんなの成功を願っている。けれどそれ以上に今はこの瞬間の時間が大切に思えてくる。
「行き先といい、方向がバラバラ過ぎる」
突然こんなことを言い出すイケメン。
「確かに一人で監視しているのは無理がありそうだな」
先生も同意するように言う。っていうかいつの間に来たの?
「そうなんだ・・・どれくらいの作業になるかは土曜には分かるか」
部長はこの問題を真摯に受け止めているみたい。ペアを組んでいるのがほとんどだとしても確かに方向が違い過ぎる。けれどそれに対しての負担がどれくらいのモノなんて私には分からない。まあ、本人が言っているのだからそれは間違いないのだろうな。
「そういことならマネージャーをさらに募集してみるってどうでしょう?」
凛柊先輩が提案する。
「実際そうした方がいいだろう」
先生も部長も頷いて同意する。
「なら一人心当たりがある。わざわざ張り紙をする必要はない」
相澤君は立ち上がる。
「近くにいるなら話を着けてくる。いないなら居場所は知っているから会いに行く」
『お疲れさま』クールに言って部室を後にした。
相変わらずマイペースといいますか、自分勝手といいますか。そんなことより誰のこと?あの話し振りからだと当然この学校の生徒だよね。正直友達がいたことに驚く。完全に偏見で見ていた。
「この件に関しては相澤に任せよう」
部長が言って許可した。もう出て行った後だけど。
「これからいろいろルールを決めようと思う。その前に休憩しよう」
再びコーヒーの香りが部室を包み込んでいた。
やっと社会は通常運転になりましたね。ホッとひといき。
読んでいただきありがとうございます。
しかし、昨日の神田明神は激混み。まあ毎年だけど。
皆さまも今年の目標に向かって歩み出していると思います。
私も一歩ずつ自分のペースで歩んでいこうと思っております。
これからですね。いろいろ始まるのは。
方向は違うけれど楽しく進んでいきましょう。
次回もよろしくお願いします。




