結果発表の前に
私達はアンプレアントに到着する。
不思議な感じがドア越しに伝わってくる。この時間はまだお客さんで賑わっているはずなのに妙に静かだったからだ。だからって閉店しているというわけじゃなさそう。窓からは営業している灯りが漏れていた。
アイアイ先輩がゆっくりドアを開ける。
「おいおい、なんでみんなしているんだ?」
一足先に帰ったはずの部長や他の先輩達が当たり前のように席に着いてコーヒーを飲んでいるし沢渡先生までいる。先生はカウンターに一人で座っていてマスターと話をしていた。
「あら・・・変ねえ」
部長がアイアイ先輩に向かって言う。
「変って・・・何が?」
「だってここは喫茶店、でしょ。お客がいてもなんら不思議はない」
「そうだけど。他にも店あるだろ」
部長は答えないでクスクス笑っている。
「あの、アイアイ先輩」
凛柊先輩が部長に代わって説明する。
「その、実は・・・結果が良かったってことを先生から聞いたんです私達。そしたら部長がお祝いするって。だから・・・」
最後まで言い終わらないうちにクラッカーの弾ける音が店の中に響く。
「うわ・・・ビックリした」
鳴らしたのは部長で、しかも自分でやって自分で驚いて、中に入っている紙テープはアイアイ先輩のポニーテールに引っかかっていた。
「ちょっと・・いきなり?他のお客さんだっているのに」
周りを見回すと一斉に拍手が起こった。
「大丈夫。皆さんにはちゃんと了承してもらっている。それに一個だけってことでマスターからも許可は貰っているから。あの、ほんと騒がしくしてごめんなさい」
部長は周りに向かって頭を下げる。真っ直ぐな黒髪が顔全体を覆う。
そしてアイアイ先輩の手を引く。自分の隣りに先輩を座らせると
「・・・よかったね。アイアイ」
アイアイ先輩の肩に頭を乗せて言う。
「ちょっと、なに急に湿っぽくなってんのよ。さっきと全然違うじゃない」
「・・・みんなも同じ気持ちだからね」
「はいはい、分かったから」
顔を上げた部長は目の周りが少し赤かった。アイアイ先輩は額に着いている髪を直して今度は自分から部長に抱きついた。けど言葉なんてない。ただじっとそのまま。今度は部長が優しくアイアイ先輩の背中に手を置いている。
「これでおあいこだからね」
離れてからアイアイ先輩は言った。二人ってもしかして親友だったりして。今の私とともりと同じように。
私が昨日泣いた時。ともりは何も言わずにそっと包んでくれた。ともりじゃなかったら絶対あんなことしてない。急にともりのことが恋しくなった。だからこの後みんなで撮った写真をラインで送ると、すぐにスタンプで返信があったけどそれ以上は何もなかった。明日になれば会える・・・待ち遠しいなぁ。
今ここにある日常って本物だよね。それは青春っていうベールで覆われている奇蹟みたいな日常なのかもしれない。だからと言ってこの日々が非日常なんてことはない。
私はこんな毎日を手に入れようとしているのかもしれない。優しさや思いやりに溢れてて誰かが誰かの足を引っ張ることがない場所。みんなが前を見て足並みを揃えている。この部活にはそんな一面があるのかもしれない。
私の心はどんどん温かくなってゆくのを感じることができる貴重な時間だった。
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「はい、これ」
「なにこれ?」
通学途中でともりに渡す。三センチほどの小さなガラス瓶の中には白い砂が入っている。不思議そうに覗き込んで
「あ、これってもしかして『星の砂』ってヤツ?」
「そう。それ」
「で、これってなんなの?何の前触れもなくいきなり渡してさ」
「これは先生のお土産だって。ほら、石垣行ってたでしょ」
それで納得したみたい。今日のともりはちょっとどこか不機嫌に見えるのはきっと気のせいではないだろうな。
昨日あんな楽しそうな写真みたらね。ここはちゃんとフォローを入れておかないと。これは親友としての心遣いのつもり。だけどその材料になり得るモノって・・・・・・しばらく考えて、そうだ、そうだ、そう言えば大事なこと伝えてなかった。
「あのさ、ともり」
「今度はなに?」
「土曜って空いてたりする?」
「なんで?空いているといえば空いてるけど。それがなに?」
私は昨日部活でやったことを説明する。それには感心を持ったみたい。特に相澤君の素晴らしい活躍を強調して言ったことが功を奏したよね。
さて、今からともりのこともっと喜ばせてあげよう。私はどちらかと言うと美味しいモノは最後に食べる派なのだ。
「で、今度の土曜日にかなり範囲を広くして実証実験することになったわけ。私と先生は車に乗って実際に浜松まで行く。そして相澤君は部室でそれをモニターする。でね、どうしても助手が必要になるんだけど、生憎先輩達はみんな都合が悪いの。で、その役にともりが挙ったの。いないから勝手に決めたんだけどさ。だからその日は相澤君と部室で二人っきりになるんだけどね。どうかな?もし空いてるなら」
「ふ〜ん・・・・考えておく」
あれ?おかしいな?もっと飛び上がるほど喜ぶと思っていたのに反応悪いな。
「えっと、もしかして嬉しくなかったりするとか?」
けれどそう思ったのは間違いでなんだか口元が怪しい。ホントは喜びたい気持ちを押さえているのかな?なによ、嬉しいなら素直に喜べばいいのに。私は畳み掛けるように
「お土産何がいい?」
話題をさらに提供する。ちょっと考えるともり。
「・・・浜松・・・静岡県で確か浜名湖があるところ」
「そうだよ。もしかしてよく知ってたりする?」
「ううん。行ったことない。けどそこってウナギが有名でしょ。ならウナギ」
「ウナギかぁ。そうくるか」
「何がいい?って聞くから答えただけだよ」
「そうだよね。分かった先生に聞いてみる」
そこでやっとともりの顔に笑顔が戻る。やっぱりまだ花より団子。成長期の私達にはなんたって栄養が必要だもんね。
さて。そろそろ日曜日の結論が出るかな?なんて期待していると
「今日は二人揃っているんだな」
後ろから落ち着いた声が聞こえる。ともりは声に反応して私より確実に0.5秒は早く振り向いていた。
「お、おはよう相澤君」
ともりは笑顔で返事をする。相澤君も「ああ」とだけ言ってから
「体調は良さそうだな」
「心配してくれるの?えっとね・・もう平気。軽い貧血だったから」
イケメンは軽く頷いただけだったが、おかげでともりはいつも通りに戻ったみたい。
ここでイケメンからのまさかの・・・・・・・ん?なんだ?私は今何を見ているのだろう。冷静になれ私。こんなことって予想外過ぎて思わずホッペを抓りたくなるよ。けど夢じゃないことは重々承知だ。あんたが他人の体調を気遣うなんて。一緒に買い物に行った意味があるってもんだ。うん、うん。この短期間で少しはまともな人間に成長してくれたこと、私は嬉しく思うよ。なんて冗談は置いといて
「おい藤川」
「な、なに」
「何を考えている?」
「え?べ、別に・・・なにも・・」
コイツの観察眼と洞察力は人並み以上なこと忘れてた。それとも私の顔はそんなにいろいろ書いてあるのだろうか。だったら考えてることだだ漏れってことでしょ。それはそれでなんか恥ずかしい。私が答えるまでもなく大体のことを察知している顔が憎たらしい。
「今度の土曜日。私、絶対行くから」
ともり・・・それってさ、私にいう言葉だよね。こっちは返事をずっと待っていたのにさ。結局はそういうことか。ま、これで何とか体勢が整ったでいいよね。
「期待している。今日は模試の結果が戻ってくる。結果次第では残念なことになるかもしれないな」
ずいぶん余裕だよ。確かにあんたは心配することなんてないだろうけど、私達が喜んでいるところに水を今差す神経が分からない。やっぱりまだまだ読めないなぁ・・・
「絶対二人には部に残ってもらいたい。これは俺じゃなくて亜衣香が言ったんだ」
そんなこと言われると反論できないじゃん。それにあんたに言われなくても心配ご無用。私達のことそんな風に思われてるって方が嬉しくなる。
「何をニヤけている?」
「ほんと。あやせって顔にすぐ出るよね」
二人に言われて顔が赤くなる。やっぱり顔に出てたんだ。
う〜、そんなこと言われても私だって分かんないんだからしょうがないじゃない。
「なにあやせ?ちょっと待ってよ」
「私、先に行くね。あ、勘違いしないで欲しいんだけど、怒ったとかそんなんじゃないから」
イケメンといるとどうも調子が狂うな。それに今の状況ならともりはきっと嬉しいはず。
私は怒ったんじゃなく気を利かせたんだからね。
二人は追いつくとかはしない。私は少しずつ速度を落としてやっと深く呼吸をする。体勢を立て直さないとまた思い出してニヤけてしまうかもしれない。
あ〜、今って絶対青春しているよね。
空には大きな雲が鎮座している。ちょっとやそっとのことでは動かない象徴のように。新しい季節はもう目の前までやって来ていることを教えてくれる。
雲だけじゃない、風も日差しも、私を取り巻く全ての世界を次の季節に運んでいってくれているような感じがする。肌で直に感じるとやっと心も落ち着いてきた。
さあ、結果が楽しみだな。私はどこまでも余裕ある歩きで校門をくぐった。
新年あけましておめでとうございます。
読んでいただきありがとうございます。
穏やかな天気の元旦でしたね。新年早々PCとにらめっこ。
おせちもお餅もそこまで好きではない私は正直お正月は苦手でした。
でも今はそうでもないかな。この穏やかさが心地いいです。
今年はもっと頑張ろう。そんな意気込みです。
今年も読んでもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします。
あ〜・・・カレェ食べたい。よし!食べよう!(←勝手に食えって)




