表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/35

プロトタイプだけどね

 私は最初にともりのことをみんなに伝える。

 そんなこともあるさ、って感じで部長が立ち上がってみんなの注目を集める。


「さて、いよいよと言うか、やっと言うか。相澤、お疲れだった。みんな拍手」

 一斉に拍手が起こる。というのも前々から進めていた例の安全対策システムがやっとテストできる段階まで来たからだ。

 顧問の沢渡先生も相澤君に対して労いの言葉をかける。あんなに熱心に作ってたんだ。よっぽど大変だったんだろうな、なんて思いながら相澤君のことを見ると、相変わらずだよ、なんでいつもそんなにクールなの?

「本日はこのシステムのテストをして使い方をマスターしてもらいたい」

 私達の前に腕時計型の端末が置かれる。これって、まあ、あれだよね、どう見ても。先生がきっとお金を出しているんだろうけど、カメラマンってそんなに儲かるのかな。

「みんな手にしてください。そしたら説明しますので今度はスマホを出してください」

 凛柊先輩が部長に代わって説明を始める。

 スマホとの同期は実に簡単であっと言う間に終わってしまう。しかしこんな最新の機器が自分の手にあることがなんだか不思議な気持ちがする。普段は腕時計なんてしない。病院にいた時はいつも手首に何か巻いていたけどね。

 面白くて何度も画面をタッチしてみる。こんなに小さくてなかなか賢いヤツみたい。血液の流れや心拍数なんかも計測してくれるし、もしピンチになった時は自動で警察に連絡してくれるなんてね。アプリ次第で本当に色々出来る。


「気に入ったか?」

「先生、これほんとに貰ってもいいんですか?」

「あのな、一応個人に管理を任せているが、基本的には部の備品だ。だから部活を辞める時や引退する時には返してもらう」

 私は『あ〜確かに』なんて感じで笑って答える。それでも今からコレは私の物になったわけだ。その時が来るまでは。

「じゃあ、早速始めよう。使い方は相澤の方からしてもらう」

 相澤君はホワイトボードの前に立って色々と書き始める。ふ〜ん、なかなか上手い字を書く。

「簡単だから簡単に説明する。先ずは・・・」

 何やらアルファベットを長々書いてあるのを指す。

「このアプリをダウンロードしてくれ」

 えっと、あれってアプリのアドレスだったんだ。よくあんな憶えていられるよね、なんて感心している場合じゃないか。ええと、面倒だな、でもなんでイチイチアドレスを打つ必要が?あんただったらQRコードくらい作れるはずだよね。そんなことも思いながら打ち込んでゆく。


「もしかして苦戦しているのか?」

 アタフタしている私のことを見て言う。なによ。アキバの時だって私の慌ててるところが面白かったみたいだけど・・・そんなに面白いのかな・・・

「これは俺が作った。この部のためだけにな。一文字でも間違えたら永遠に辿り着けない」

 って、そこって笑うところ?なんか腹立つ。これで間違えたらあんたのその心ない言葉のせいにしてやる。なんて思っているとすんなりと

「あ。できた」

 ダウンロードはあっという間に終わる。そして知る。このアプリのタイトル。

『白羽南ヒッチハイク』

 ほほう。それにアイコンも可愛いフォントで『aout—stop』と書かれていてそのバックには親指を立てている絵があった。なかなか可愛いセンスしてんじゃん。そんな顔で相澤君のことを見ると

「気に入ったみたいだな」

「ま、まあね。こんな可愛いの作るとは予想外だから」

「意外性も時には必要だ」

 何よその笑顔。そんなに嬉しいのかな?

 それから説明が本格的になる。

 アプリを開くとまず最初に各自登録をしてそのまま進むと今度は地図が表示される。言うまでもなく部室に矢印がある。

 右にスワイプさせると行き先が表示される。言われた通り学校の前にあるコンビニにセットすると距離が表示される。三分。まあ、大体それくらいだよね。

「それからヒッチハイクする時はこの端末をしている方ですること」

 その理由とはこの端末には特別にカメラが搭載されていてすれ違う車を録画出来るということだ。試しに自分の顔を写してみてスマホで確認すると、これもなかなかの精度だ。これならナンバープレートだってバッチリだね。

「実際に車に乗ったら画面を二回タップする。そうすることでそこからの時間と距離が計測される。そして車を降りたらまた二回タップする。それがワンセットになってこちらのホストコンピューターに記録される」

 ふむふむ。でもそれって何か忘れそう。そう思って手を挙げる。

「なんだ?質問なら後にしろ」

「ご、ごめん。でも今聞いておかないと忘れそうで」

 相澤君は仕方ないという表情をして

「それはこれから説明することだ。いいか、これを二回タップしてちゃんと記録を録らないで車に乗り込んで移動を始めると一分で警告音が鳴る。そこで二回タップすれば問題はない。ただそれすら忘れるとそこからさらに三分後、事故、事件に巻き込まれたと判断してこっちに警告される。そしたら俺が電話をかける。それで出ればこちら側が問題ないと判断してアプリを作動させる。さて、ここからだ。もし電話にも出ず10分経過したら即最寄りに警察にコールされる。それはこっちもモニターしているからこちらと警察のやり取りが始まる」


 おお。二重にも三重にも対策が取られている。これなら安心しても大丈夫だよね。


「理解できたか、藤川」

 頷いて答える。説明はさらに続く。

「もし乗っている時とか、他のことでも自分自身が危険を感じて助けが欲しくなったら大きな声で『助けて』と端末に叫べばいい。それで繋がる」

 なるほど。確かにそんな時にいちいち端末を操作するのはできないかもしれにない。ま、そんなことないことを祈るだけだけどね。

「それとコレは本人の登録した声のみに反応するようになっている。だから他の人が言ったところで反応はしない。あと、普段何もない時に言ってみても反応はしない。心拍数や血流でちゃんと診断してくれる。だからうっかり言っても心配ない」

 そこまで言って私の顔を見る。これなら質問はあるまいとでも言いたそうな顔をしている。それはそれで何かムカつくので何か質問ができないか探してみても、残念。今のところはないみたい。それが分かったのか、さらに説明は続いてゆく。


 大体のことが分かったところでいよいよ実践である。私達は目的地を駅にしてタブレットでモニターしている相澤君の後について歩き始める。

 端から見たらなかなか変な集団に見えたことだろう。けれどそんな視線はまったく気にならない。私は自分の腕を見ているだけで精一杯だったからだ。

 歩くと自分のアイコンが地図の上を進む。それを周りの景色に合わせて確認するとなかなかの精度だということが分かる。そして目的地に全員到着する。今度は部室に設定し直して今来た道をまた戻る。

 部室に到着してまたみんなして相澤君を前にして

「これからモニターを見てもらいたい」

 映し出される映像には

「これって私達だよね。何時撮ってたの?」

 と、質問する私にちょっと溜息混じりで

「前にも言ったと思うが、これは目的地までの道程にある防犯カメラの映像だ。まあ、無断でハッキングしているからあまり大きな声では言えないけどな」

「ハッキング?」

「ああ。だが通った時にだけ一時的に借りる。と言った方が聞こえがいいか?」

 確かに映像はちゃんと私達の姿を映し出している。これなら確かに通った道筋を確認できる。けどハッキングって。そんなこともコンピューターがあればできるという現代の技術が凄いというか怖いというか。

 これじゃ他人のプライバシーを守るなんて段々難しくなってくるのかもしれない。

 それにこのプログラムを作ったイケメンの頭の良さに脱帽してしまう。これじゃ、絶対学年トップなんてなれないよね。先輩達も予想以上の出来だったかもしれないのかな、みんなただ驚いて彼の凄さを実感していたように見えた。


「それで今度の土曜日なんだが」

 先生がそう切り出す。みんなは自然と注目する。

「今度は車に乗ってみたいと思う。実際は車に乗って移動するからな。そこで誰か暇な奴はいないか?」

 先生はみんなの顔を一人ずつ見ていった。土曜は特に何もないよな、確か。そんなことを考えていると『ちょっと、用事が』なんて声がチラホラ出始める。えっと、みなさん、そんなに予定があるんだ。なんか一人だけ何もないっていうのも気まずいような気がする。けれど嘘を言うのもなんだかなぁ、とも思ってしまう。仕方ない。

「・・・あ、あの、特にないです」

「分かった。なら藤川、土曜は朝十時に部室集合だ」

「あ、はい。あの聞いてもいいですか?」

 先生は特に返事しないので勝手に続けた。

「車でこの辺を廻るくらいですか?」

 よく分からないので適当に聞いてみると、なんだろう、少しだけ笑ったような

「馬鹿言っちゃいけないなぁ。これはちゃんとした実験だ。高速に乗って・・・っておい、今はどこまでカバー出来ている?」

 今度は相澤君の方を見て

「東名なら浜松、中央なら松本、関越なら・・・」

「なら浜松だ」

「人の話は最後まで聞け。訪ねたのはそっちだろ」

 話を途中で中断されたことに少し不満げな顔をするイケメン。そんな表情でもイケメンに見えるのが不思議だ。一体どういう状況なら変顔になるのだろう。ちょっと気になるよ。けどきっと私の期待には答えてはくれないだろうな。そんなことを考えていると

「藤川、あと逸見にも聞いてもらってもいいか」

「え、ええ、それは構わないですけど。一応何でか聞いてもいいですか?」

「相澤一人だと大変だろうから助手が必要だ。だから車組は俺と藤川。システム組は相澤と逸見に分けようと思う」

 先生と二人。密室ともいえる車で遠出。こっちはこっちで年頃の男女が一組。

 ふむ、これって果たして許される状況なのだろうか。まあ、大丈夫だとは思うけどさ、それでもそんな経験一度もない。もちろん先生のことだって相澤君のことだって信用しているよ。でもやっぱり心のどこかは不安で一杯だ。きっとともりは喜んでオーケーするだろうけど。


 私の心配事なんて誰も気にも留めていない。むしろ『ごめんね』とか『頑張って』とか『お土産よろしく』なんて声援とでも言うべきお言葉をいただいたくらいだ。

「心配するようなことは何もないよ」

 そう言ってくれたのはアイアイ先輩だった。なんだろう、先輩に言われるとホントに大丈夫に思えてくるから不思議。そっか、きっと考え過ぎているよね。

 部活を始めてから今までとは違う日常に戸惑いと驚きとが連続しているわけだけど、もしかしてこれが私の求めていた日常なのだろうか。


 『青春』


 この言葉にはどこか非日常的な響きがある。限られた時間軸の特別な日常とでも言った方がいいのかな。ずっとは続かない特別な場所。今を逃したら死んで一から人生をやり直さないと訪れることがない瞬間の中に私は確かに足を踏み入れている。


「じゃあ今日は解散」

 先生の声で今日は終了した。時間は十九時を過ぎたところだ。外はすっかり日が落ちていて空気も冷たい。本当の春まではもう少しだけ時間が必要みたい。

 思いっきり深呼吸してみるとやっぱり私は今のこの時間の中に含まれていることを実感する。この今ある瞬間が私のいる世界なんだ。ここにいていいんだ。冷静な頭はそう答えを導き出す。

「あやせ、このあと時間ある?」

 アイアイ先輩が帰り支度している私に話しかけてきた。

「はい。ありますけど」

「ならウチでご飯食べて行きなよ。おごるからさ」

「ええ!いいんですか?実はお腹ペコペコで」

「そう言ってくれて良かった。実はさ、パパがあやせに会いたいんだって。もちろん逸見にも。でも今日は休みでしょ。あいつはまた今度だな」

「そうなんですか?マスターが?私に?」

「まあ、なんだ、ほら昨日のこともあるし。それと今度ウチで盛大とまではいかないが部活メンバーとかお世話になった人とか呼んで快気祝いやるから」

「快気祝い。いいですね。じゃあ今日は私だけなんですか?」

「いや、瞬もいる」

 言われて相澤君の方を見る。けれどスマホで何かやっているみたいで私の視線なんか気が付きもしない。ほんと自分の世界が好きだよね、あなたって。


 アイアイ先輩と並んで歩く。相澤君はちょっと後ろを歩いている。空には雨なんか忘れてしまったようなキレイな星空が煌めいて、月もほとんど顔を出していないのでいつもよりたくさん見えるような気がする。

「まだ夜は冷えるな」

「そうですね。でもなんだか気持ちがいいです。それに日によっては東京でもこんなに星が見えるものなんですね」

「ああ、確かに。そろそろ新月だしな。東京をちょっと離れるともっと凄い星空が見れる。それも旅の醍醐味の一つなんだ」

 星空ってこんな風に見たことなんてなかった。だって高層ビルの明りの方が強くてほとんどと言っていいくらい見えたことなかったから。でもそんな先輩の顔を見ていたら少しだけ星に興味を持ってみてもいいような気がしてくる。

「楽しみです。あの、先輩」

 ん?と返事をする先輩はまだ空を見ている。その先には星があって、けど視線はそれよりも先のことを見ているようにも見える。

「今でもホントなのかなって思うんです」

「何が?」

「こうして先輩と一緒に部活が出来て、それに最後の旅なのに私のわがままに付き合ってくれて」

「何度も言っただろ。あやせの熱いラブコールが私の心に響いたんだって」

 あらためて顔が赤くなる。けどその火照りは夜風がすぐに鎮めてくれた。

「あやせ、良い思い出作ろうな」

 今度は私の顔を見て言う。その笑顔にまた顔が赤くなる。

「先輩、行き先なんですけど」

「決まりそうか?」

「はい。まだ具体的にはどこって決まっていないんですけど、今回のテーマは『星』にしようかと思います。だから星がたくさん見ることができる場所を探したいと思います」

 雰囲気に流されたわけじゃないけど、きっかけにはなったような気がする。


「・・・あ、あの、どうですか?」

 先輩にとっては最後なのにこんな感じで決めちゃってもいいのかな?心配する私を余所に

「いいんじゃないか?あやせの意見に賛成」

「ほ、ほんとですか?」

「ああ。確かにそろそろ場所を具体的にしなきゃいけない時期だからな。行き先はあやせに任せてもいいかな?もちろん相談してもらって構わない。私にとっては最後の旅。あやせにとっては最初の旅になるんだ。楽しみだな」

 私は思わず大きな声で『はい』と答える。自分でもビックリする大きさだ。こんな声が出せるなんて。今までの自分からは想像も出来ない。先輩は笑っていたが相澤君はちょっと視線を投げかけただけで特に反応はなかった。

除夜の鐘の音。年越そば。大晦日ですよ。

読んでいただきありがとうございます。

ゆく年来る年を見て気が向いたら初詣。

午年の2026年

いろいろなことが上手くいきますように。そんな願いが込められています。

素敵な一年にしたいですね。皆さまと私自身の幸せを願っています。

来年もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ