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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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雨が・・・晴れてゆく

 夜になると昼の晴天が嘘と言いたくなるくらいの大雨が降った。

 打ちつける雨音は世界に溜まった汚れを洗い流しているんじゃないかって思うほどだし、今では憂いも流してくれるほどの激しい雨だった。


 私は心底ホッとしている。こんなにホッとしたのは自分の時以来かもしれない。良かった。本当に良かった。

 屋上から戻るとみんなは同じように待合所に座っていた。けれど、さっきまでの緊張感はない。むしろ安堵の空気しか感じられない。私はすべてを理解した。アイアイ先輩はもちろん、マスターに至っては目元が真っ赤になっていたし、相澤君だっていつもより柔らかい表情で

「付き合わせて悪かったな」

 とまで言う。かえって面食らってしまう。今まで相澤君のこと誤解してたみたい。


「もう帰っていい。これでまた明日からいつもの日常に戻る」

 私とともりはこれ以上ここにいる必要はなさそう。そう理解して家路に着く。エレベーターが閉じる瞬間、みんなが手を振っているのが見えた。私は反射的にお辞儀をした。そして扉が完全に閉まってしまうと

「・・・あやせ、よかったね」

「うん。そうだね」

「もう泣かないの?」

 不思議。ホントならここで流すはずの涙はさっき桜の花とびらと一緒にどこかに消えてしまっていた。だから代わりに笑顔で

「今は笑う。ともりも一緒に笑って」

 私達は声に出さずにお互い笑顔になる。今日だけでずいぶんともりとの距離も縮まったような気がする。それについても不思議と嬉しさが込み上げてくる。

 駅までの道程がさっきとは違って見えるのは気のせいだろうか。ううん。そんなことない。あの時と同じようにキラキラとして見えている。きっと運命が良い方向に動いていると。

「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」

 そして一人になった。電車の窓からは病院の屋上が見える。

 今頃みんなどうしているのかな。きっと喜んでいるよね。私の気持ちも風に乗って届いたらいいのにね。


 朝になっても雨は止むことがなかった。降り方が変わっただけ。しとしと。そんな音が聞こえるような雨だ。気温だっていつもより低く肌寒い。これが俗に言う“花冷え”というヤツなのだろう。季節が一ヶ月は巻き戻ったみたい。


 教室に入って何気なく隣りを見ると相澤君はまだ来ていないみたい。今度は反対側を見る。ともりの姿もまだなかった。電車は通常運転だったから遅延とかではない。昨日のことで疲れたからギリギリに来るつもりなのかもしれない。とりあえず席に着いて一限目の準備を始める。

 やがて予鈴が鳴ってギリギリの生徒達が教室に駆け込んでくる中で相澤君は特に慌てもせず悠々と入ってくる。ま、いつものこんな感じだけどね。昨日のことは何一つ引きずってはいないみたい。そして私と目が合うと

「藤川・・・おはよう」

 なんと!あんたから挨拶してくるとは。うんうん、友達としては嬉しい成長を感じるね。

「逸見は?」

 言われてまたともりの席の方を見る。

「まだみたいなんだ」

 スマホを見ても特に何もない。こっちから連絡してみようかな。ってところで本鈴が鳴った。昨日はあんなに元気だったのに・・・

 休み時間になって連絡を入れてみる。けれどすぐには既読が付かない。学校に何か連絡が入っていないか先生に聞きにいこうかな。

 授業が始まって、終わって、また休み時間。未だ付かない既読。


 私は職員室に行ってみることにした。そう言えば職員室って初めてだな。ノックしてからドアを開ける。小さな声で『失礼します』なんて言ったところで聞こえるはずもなく。私の姿を見つけた沢渡先生が手を振ってくれた。やや早歩きで先生のところまで行って

「どうした?」

「あの先生、ともりから何か連絡とか入っていませんか?」

 どうして私がここに来たのか察したみたいで

「ああ、逸見なら今日は休むと連絡があった」

「休む・・・それって何時ですか?」

 ちょっと食い気味に聞いた。

「朝だ。一限が始まってからだったな」

「・・・・・そう・・ですか」

「体調が悪いって言ってたな。ま、模試対策で勉強し過ぎたのかもしれんな」

 先生はそれ以上の情報は持っていないみたい。だからお礼を言ってその場を後にした。廊下で再度スマホを確認。やはり何も変わっていない。事情は分かった、けど心配だよ。

 

 昼休みになってお弁当を食べながらスマホを見ているとやっと既読がついた。私が食べようとしていたプチトマトは箸から滑り落ちてしまう。やっと見てもらえたことに安堵するし、お弁当も味わって食べることができる。私は体調が悪いってことを承知の上で会話を続けてみる。

『先生から聞いたよ。体調が悪いって。平気?』

 いつもはすぐに返ってくる返事はレスポンスが悪いのだろう。時間が掛かっている。でも既読はつく。ということは見ているってことだよね。簡潔に今の自分の気持ちを送ってそれで終わりにしよう。そんなことを思いながら文を綴っていると

『もしかして心配とかしてくれた?』

『当たり前でしょ。全然既読がつかなかったから』

 返信が来る間に私はお弁当を食べ終わっていた。

『ごめん。さっき起きたばっかりなんだ』

『そっか。じゃあ学校には』

『そ。お母さんがしてくれた』

『それで今って大丈夫なの?』

 すぐに大丈夫的なスタンプが送られてくる。そして

『ちょっと貧血。ここんとこ無理してたから』

 そんなに頑張ってたんだ。やっぱりともりって素直だし努力家だよ。

『明日は?』

『大丈夫。明日は絶対行く』

『じゃあまた明日。今日はゆっくり休んでね』

 すぐにオーケー的なスタンプが返ってきて確認は終了した。すごく心配したけど大したことなさそうで良かった。私は昨日に続いて再び胸を撫で下ろすことになった。私は持参しているポットで食後のコーヒーを飲むとやっとホッとすることができた。


 放課後になると雨は上がっていて、昨夜からずっと滞在していた雨雲はちぎれて合間からは赤味を帯びた空が顔を覗かせている。そんな空を見ながら部室に向かう。偶然にも相澤君も一緒だ。いつもは一人でとっとと行ってしまうのに今日に限って向こうから声を掛けて来た。こんなのともりが見たらまた私は厳しい視線に晒されることになるってことをいい加減理解して欲しいんですけど。そして部室の前までやって来ると何の前触れもなしに

「藤川がいてくれて良かった」

 は?なに?いきなりこの人は何を言っているの?言葉の文脈が唐突なんだってこと自覚してないんだろうな。

「えっと、それってどういうこと?」

 質問しているのになんで話を振ったあんたが不思議そうな顔をしているのよ。

「だから、なんで私がいて良かったの?そういうこと何かしたかな?」

「昨日のことだ」

 まあ、そうだと思ったけどさ、そのことを最初に言って欲しいんだよね。

「昨日って。別に何かしたわけじゃないよ」

「亜衣花はああ見えてホントは凄く繊細なんだ」

 そうなの?でもそういう面、誰だってあるでしょ。人間なんだもん。それに昨日は特別だった。結果次第ではもっと、こう、悪い方に向かっていたかもしれない。

 私には分かる。明日を無事に迎えることが当たり前だなんて思わない。いつも心のどこかに小さな不安として存在している。今は昔ほど自覚することはないけどさ。

 でもね、大きな事故とか、災害とか、そんなニュースを見た時とか、誰かが泣いているのを見たりするとその不安は風船が膨らむように大きくなる。アイアイ先輩だってこの五年、そんな風に思っていたんじゃないかって。


「なんとなくだけどさ、もしかして私は自覚のないところでアイアイ先輩に自然と引かれたのはそういうところをブログを通して感じたせいなのかもしれない」

「・・・アイツのブログはボジティブの塊のようなブログだけどな」

「だからだよ。先輩は物事の良いとろだけを見てずっと生きていた。だけどそういう面だけを見れば見るほど反対側がむしろよく見えるものなの。私にはなんとなく分かるの」

「だから亜衣香は藤川の提案に乗ったのか?」

「・・・・それは・・先輩に聞かないと分かんないけど」

「まあいい。藤川と逸見のおかげでアイツは必要以上に深刻にならずに済んだ。お前達が来てやっと笑顔になったくらいだ。前の夜なんて不安で一睡も出来なかったみたいだしな」

 『病は気から』

 先生の言った言葉を思い出す。少しでも笑顔でいられるならそうしておいた方がきっと心の健康の為にはいいのかもしれない。けどこれって私は良くなったから言えること。誰に対しても簡単には言えるものでもないことは分かっている。

 もしこの先。明日の太陽が見れない状況になったとしても私はきっと絶望の先で笑っていたいと思う。笑っていれば後悔なんてしないと思いたいから。


「ちょっと。二人してこんなところで何やってんの?」

 アイアイ先輩がドアを開けていつもの元気な笑顔で言う。それにトレードマークのポニーテールもいつもと同じ。何も変わらない日常がある。私は慌てて挨拶をした。

「ほら、部活に来たんでしょ。早く入ったら?みんな待ってるから」

 私と相澤君が入ろうとしたところで

「昨日はありがとう。あやせの顔見たら元気が出てきたんだ。ま、おかげで結果オーライ。これで私もみんなも一安心かな。だからって完治したわけじゃないけど、まだまだ普通に生きてゆくことが出来る。それとこのことはもうみんなに話してあるから。だから、私達はゴールデンウィークに向けて前を見るんだ。いいな、あやせ」

 そこまでイッキに耳元で喋ってから部室に入った。中では当然のようにコーヒーの匂いがする。

 そうだ。これから私は自分の夢を現実にするために頑張らないと。先輩との最初で最後の部活での旅。

 『絶対一生に宝物にするんだ』

 そう決意する私の中でキラキラがこれまでより輝きを増したように感じることができた。


時代が変わってゆく。新年までもう少し。

読んでいただきありがとうございます。

皆さまは楽しいクリスマスを過せたでしょうか。

私はいろいろ楽しみました。天気だけがちょっと残念だったけど。

残りは大晦日・・・おそばですね。

厳かに、嫋やかに。心を落ち着けて新年を迎えようと思います。

次回もお会いできること心よりお待ちしております。


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