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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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23/40

花びらは風に乗って

 さっきの場所に戻ると顔ぶれは変わっていない。みんな静かに座っていた。


「戻りました。マスター、ありがとうございます。ごちそうさまでした」

 私達はお礼を言うとニッコリと微笑んで頷く。私達はさっきと同じ場所に座った。


「あの・・・アイアイ先輩ってどこか悪いんですか?」

 沈黙に耐えられずに思いきってマスターに聞いてみた。

「その様子じゃ聞いてないみたいだね?」

 マスターはアイアイ先輩のことを見る。先輩はちょっぴり笑顔になるとマスターは話し始めた。

 アイアイ先輩のお母さん、この人は相澤君のお母さんのお姉さんに当たる人は先輩が小学校の時白血病で亡くなっていた。

 そしてアイアイ先輩が中学に上がる頃、同じ病気になってしまった。

 

 骨髄移植をしたのが今から五年前。その提供者は相澤君だった。

 治療は成功した。お母さんの時はあまりにも進行が早くて間に合わなかった。


 この病気は五年というスパンで診ていかないといけない。その間も再発が起こらないとは限らないのだ。

 

 今日がその五年目。今回の検査で異常がないと認められて初めて寛解になる。

 私はその期間を頭の中で計算してみる。もしかしたら病院ですれ違うくらいはしていた可能性があった。


 初めて知った先輩のこと。結果が出るまで私自身もドキドキして落ち着かなかった。そんな私の気持ちが伝わったのだろうか。マスターが持ってきていたポットからコーヒーを出して渡してくれた。

「・・・あ、ありがとうございます」

 この匂いはいつも私の気持ちを落ち着かせてくれる。ともりにはちゃんとミルクと砂糖が多めに渡される。私達の好みをちゃんと憶えておいてくれていることにマスターの人としての温かさを感じる。


「なんか重たい話ですまなかったね」

 マスターはそう言ってくれた。けどこれが相澤君が私達に教えたかったことなんだ。

「あの、先輩のこと、部の人はみんな知っているんですよね」

「まあ、そうだね。それに学校だって知っている。けれどそれくらいじゃないかな」

「・・・そう、なんですか?」

「みんなに話しても空気が重くなるって亜衣香のことだから話していないんじゃないかな」

 私は先輩の方を見ると、その通りと言わんばかりのなんともいたずらっぽい笑顔をしていた。


 そして

 私達がコーヒーを飲み終える頃になって主治医が先輩の元にやって来て

「良い匂いがするな。待ちくたびれただろ。そろそろだから」

「先生もどうですか?」

「いや、なんか催促しているみたいですみません。でも貰ってもいいですか?」

 マスターは新たにコーヒーを注いで渡す。この空間がアンプレアントのようにコーヒーの匂いで包まれてゆく。先生は美味しそうに飲んでから私とともりの方に視線を合わせて

「あれ?君は確か高畑先生の」

「あ、はい。藤川です」

「やっぱり。やっと抗体ができて普通に生活出来るようになったってな。よくここまで頑張った」

 私はちょっとだけ笑って答える。それから制服を見て

「もしかして相澤さんと同じ部活かな?」

 そっか。先輩がヒッチハイカー部ってこと知ってるよね。だから素直に『はい』と答えた。

「ま、結果は良好だろう」

 今度はアイアイ先輩の隣りに座って

「そんな顔するな。病は気からって言うだろ。もっと自信を持て。今の僕から言えることはこれくらいしかないが、とにかく結果が出てから先のことは考えた方がいい」

 それだけ言ってしまうと。呼び出しのアナウンスが入って

「おっと、行かないと」

 今度は腕時計を見て

「じゃあまたな。コーヒーごちそうさま」

 私はずっと先生が見えなくなるまでその姿をずっと追っていた。けど全然無意識だったからともりが呼ぶ声に気が付かなかった。

「ちょっとあやせ、聞こえないの?」

 急にともりの顔が目の前に現れてビックリする。

「え?な、なに?」

「さっきから呼んでるのに全然気付かないんだから」

「そうなんだ。ごめん、聞こえてなかった」

 ともりは隣りに座るように手で椅子をポンポンした。言う通りに座ると

「もしかしてあやせって何か凄い病気とかしてたの?」

 と、小さな声で話す。ここは正直に認める。けれど病名とかは面倒だから省く。それにそのことにはあまり触れられたくない。という気持ちになる。

 あ、そっか。もしかして先輩もあんまり聞かれたくないかもしれない。それをどういう風にともりに言おうか考えていると

「相澤さん、結果が出ました」

 看護師が私達のところにやって来てそう告げた。マスターと相澤君は先輩と一緒に立ち上がって診察室に向かおうとする。私達は親族じゃないからここで待つしかない。

「ねえ、ともり」

 私は立ち上がって

「屋上行こっか。あのマスター、私達屋上で待ってます。いいですか?」

 頷いて答えてくれた。同時に

「終わったらラインを入れる」

 相澤君がそう言ってくれた。えっと、隣りから急に厳しい視線を感じるんですけど。

「じゃあまた」

 私はともりの手を引っ張って少し早歩き気味にその場を後にした。


 エレベーターに乗って屋上に出る。ここも何回も来たことある場所だ。それは昨日のことのように思える。

 ここにも人が割といて、みんな外の風景を見ていたり、用意されているベンチに座っておしゃべりとかしていた。私も空いているベンチを見つけてともりの手を引いた。

 しばらく会話はなくて二人して金網の外に広がる街の風景を見ていた。

 

 青い空に遠くに浮かぶ白い雲。まだ四月なのに夏のような雲があった。それはあまりにも立体的で、柔らかそう。あの場所で寝そべることができたら模試の疲れなんて、あっという間に解消されるような気がする。チラッと隣りを見ると同じ方向を見ている。ともりは一体何を考えているんだろう。

「良い天気。こんな日に模試だなんて高校って大変」

 ともりがこの沈黙を破るように静かに話し出す。

「で、やっと終わって帰れるかと思ったら今度は病院の屋上で親友と一緒に先輩のことを心配している」

「やっぱり私はともりの親友なんだね」

「じゃなかったらとっくに帰ってる」

「帰りたいの?」

「そうじゃないよ。先輩も心配だけどあやせのことも心配ってこと」

「なんで?私はもう大丈夫になったんだよ」

「そうじゃないよ。あやせさ、我慢しているでしょ」

 そう言われて自分が何を我慢しているのか、そう思った瞬間、急に何の前触れもなく

「・・・・・・あ、あれ?」

「だからさ、いいんだよ。我慢しなくても」

 ともりは私の頭を抱えて、で、そんなことされたら、もう、止まらない。

 なんでだろう。自分の意思とは関係なくそれは止めどなく流れてくる。悲しいとか、そんなんじゃない。これは表現しきれない私の感情を形にして昇華しているみたいなもの。

 でも、でも、でも・・・・・そんな言葉だけが頭の中でグルグルとループしている。こんな私に誰も気が付かない。ともりがしっかりと周りに壁を作ってくれているおかげだ。

 なんで分かったのかな?

 今の私の気持ちはどこにも落ち着くことができなくて、不安定で。それでいてどこかでそんな場所を探していること。ひょっとしてともりが私の親友だからなのかな?今の私にはよく分からない。ただ一つ言えることがあるとしたら

「・・・・・・ありがとう。ともりが私の親友で良かった」

「どういたしまして。なかなか悪くないでしょ」

 そうして頭を撫でてくれる。おかげでどこかに見失いそうな気持ちがだんだん落ち着きを取り戻してくるみたい。


 その時間はあっという間に去ってゆく。もうどこにもそんな形跡はなかった。今は気分は軽い。ともりにそう告げるとまたさっきと同じように二人して街の風景を眺める。

「なに考えているの?」

 今度は私から話しかける。

「あやせが自分を取り戻している時ね、ゆっくりとだけど風が吹いてね。そこにはたくさんの桜の花びらが一緒に運ばれて行ったんだ。もう桜も終わりだから最後の花びら達かもね」

 花びら?まだそんなに残っていたんだ。私も空を見るけれどその姿はどこにもなかった。

 風に乗ってどこに向かってゆくのだろう。もしかして私達だって同じようなものかもしれない。今はまだよく分かんないけど。でもね、こんな風に誰かと一緒にいるってこと自体、私にとっては奇蹟みたいな、それとも運命みたいな、今思いつくのはこんな言葉しかない。

「もう見れないかな?」

「さあね。また風が吹いたら分かんないけど」

 どこに行こうかな?見上げる空の色がどんどん濃くなってゆくみたい。そして必ずどこかに繋がっている。きっとどこかでまた出会えるかもしれない。そんな瞬間に。


「あ。きた」

「じゃあ、戻ろっか」

 現実。それをちゃんと受け止めないとならない。けどもう大丈夫。私は大丈夫。もうあの頃とは違うんだ。

 そして自分が今ちゃんと現実に立っていることを確信した。


コンビニを見てもスーパーを見ても、どこもチキンだらけです。

読んでいただきありがとうございます。

これもクリスマス風景の一つなのでしょう。明日はサンタで溢れている。

街のざわめきに浮かれている私です。(案外チョロいミーハーらしい)

イベントごとには血湧き肉踊る体質なのでしょうか・・・

年末は明るく楽しくカウントダウンです。

が。その隙間にある侘しさも味わい深いものです。

次回も浮かれている私に会いに来て下さい。

よろしくお願いします。


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