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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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22/39

幸福なことだけ見ていたい

 行き先を教えてくれないから私とともりは相澤君の後ろについて歩くしかない。一体どこに行こうというのだろう。


 日曜の昼下がり。

 空はキレイに晴れ渡り、風がとても穏やかに頬を通り抜けてゆく。

 ずいぶん散ってしまったけど桜の花びらはまだ枝に残っていた。ささやかな風にすら飛んで行ってしまう。それに葉っぱも顔を出している。季節は次の準備を進めているような感じだ。

 街の喧噪も穏やかそのもの。どこにでもあるおだやかな日曜日。今ならきっと平和って言葉が一番似合う瞬間なのかもしれない。


 相澤君は駅を通り越して学校とは反対側の道をひたすら歩いてゆく。そういえばこっち側ってまだ来たことない。何があるのか興味津々で見ていた。

 こっちはどちらかというと商業的要素が多くて買い物する人で賑わっている。歩いている人に自転車に乗っている人。日曜日ということで家族連れが一番多く目に留まる。

 おまけにお昼時。あっちこっちからお惣菜とかの良い匂いがしてくる。そうだった。私達ってみんなお腹が空いている。余計に匂いに敏感になるのもしょうがない。

 時々ともりが『おいしそう』とか『今度ここに食べにこない?』なんて話しかけてきた。私はその度に『そうだね』とか『うん』とか空返事をしていた。それにしても一体何時になったら目的地に着くのだろう。一言くらい説明してくれてもいいのにな。


 商店街を抜けると広い通りに出た。歩道橋を使って反対側に渡ってからさらに右に曲がる。

 道路は渋滞はしていないがそこそこ混んでいて舞い上がる砂埃が目に見える程だ。

 やがて左手に大きな白い建物が見えてくる。目の前まで来て

「ここだ」

 やっと口を開いた。私は入口に掲げられている石で彫られた看板を目にする。


『国立総合医療病院』


 この病院、私、知ってる。だって十年以上通ったんだ。

 今でも定期検診で一年に一回は来院している。いつもはお母さんの運転する車で来ていたから分からなかったけど、そっか、まさか学校と正反対の位置にあったとは。

 どうりで、この制服をよく見かけるわけだ。でもなんでこんなところに?

 なんとなく今はそのことについて聞くのは違うような気がして聞けなかった。ともりも同じことを思っているのだろうか。どことなく冴えない表情で歩いていた。


 日曜日なのに受付にはたくさんの人がいる。そのほとんどがお見舞いで来ている人みたいだ。

 相澤君は受付で何かを訪ねて、それからこっちに戻ってくる。そう言えば日曜日に来たことってなかったな。大体は学校を休んで平日だったから。

 日曜の病院はいつもと雰囲気が違うように見える。なんでだろう?


「行くぞ」

 言われるまま相澤君の後ろに続く。エレベーター前は人がたくさんいて二回もスルーすることになった。やっと乗れたのはいいけど、かなりのスシヅメ状態。そんな中でも相澤君は顔色一つ変えずに静かに乗っていた。

 私達は七階でエレベーターを降りた。私はいつも三階だから初めて来たフロアだ。

 ナースステーションに掛かっている札を見ると『放射線科』と『精密検査』とあった。相澤君は再び受付で何かを聞いている。

 ともりはあまりこういうところには慣れていないのかな、なんだか必要以上に周りをキョロキョロとして落ち着きがなかった。


「ちょうど終わったらしい」

 それだけ言ってから廊下を歩き出す。両側にはたくさんの部屋があるのはどこのフロアも一緒みたい。それに染み付いたアルコールの匂い。

 突き当たりを左に曲がってさらに歩く。このフロアは患者よりも看護師の方が多いみたい。すれ違う人はみんな医療関係者ばかりだ。

 やがて待合室になっている空間が現れてそこには一人、検査用のピンク色の服を着た髪の長い女性が座っていた。その人以外は誰もいない。相澤君はその人に向かって真っ直ぐ進んでゆく。


「来たぞ」

 当たり前のように話しかける。その声に気が付いたみたいで顔を上げる。

「・・・わざわざ来たんだ。めずらしい」

「・・・え?アイアイ・・先輩?」

「・・・え?」

 私達のことを不思議そうな顔で見ている。きっと私もともりも同じような顔をしているよね。

 そんな私達に何も説明なしに相澤君はアイアイ先輩の正面にあるベンチ椅子に座って

「あとどれくらいで結果が出る?」

「・・・そうね、さっき終わったばかりだから一時間くらいかな。って、あなた達も座ったら?あ、そっか今日は模試だったんだよね」

 言われて私達は相澤君と同じ並びで座る。

 いつものポニーテールじゃない先輩はちょっとだけ疲れているように見える。っていうか何で?それをそろそろ聞きたいけど、どう切り出したらいいか分からない。だから黙ったまま。おかげでますますこの場所の静けさだけが強調されたみたい。相澤君は私達に何かを教えるためにここに来た。それはあまりに予想外過ぎてむしろ聞きたくなんてない。悪い想像がだんだん私の頭を支配してゆくみたいで気が重くなる。


「ビックリしたでしょ」

 重たい沈黙と空気が動く。

「どうせ瞬のことだから何も言ってないんでしょ」

 これにも頷いて答えるしかできない。先輩はそのことを感じたのか

「なんかごめんね。こんなところ見せちゃって」

 そう言いながら笑顔を作る。ホントはそんなことをさせちゃいけないような気がしてくる。

「あ、あの・・・・・」

 やっと言葉を出そうと決めた時だった。

「あ、君達・・・・・」

 声の方を振り向くとマスターが歩いていて、目の前まで来るとアイアイ先輩の隣りに座った。

「すまない。遅れた。結果は?」

「今、終わったとこ・・・・・」

 と、さっきと同じことを話すところで急に私のお腹が鳴った。あまりに大きくて

「あ、あの・・・・すみません」

 顔を真っ赤にしながら言った。

「もしかしてお腹空いているの?」

「そうですね。お昼まだだし」

 ともりが代わりに答えてくれる。

「なら食堂で何か食べてくるといい」

 マスターがそう言ってくれた。私とともりは顔を合わせて

「そ、そうしようかな。ともりは?」

「そうだね。あやせ、行こ」

「じゃあマスター、アイアイ先輩。ちょっと行ってきます」

 マスターは二人分の食券を渡してくれた。『場所は』って言うのを遮るみたいだったけど『知ってます』と言って歩き出す。相澤君は『いらない』とだけ言ってマスターとその場に残った。なんだろう。お腹が空いているのに食欲がない。私は先輩のことが気になって仕方なかった。

 でも今はこの場から離れていた方がいい。頭とかいろいろ整理したい。そんな思いもあった。


 再びエレベーターに乗って地下一階を目指す。この病院の食堂ならよく知っている。それに何回も食べたことがある。

 扉が開くと美味しそうな匂いがするのに一緒に病院特有のアルコール臭がするとちょっとだけ食欲が落ちてしまう。どんなに工夫したところでこの匂いと決別することはきっとできないんだろうな。そんなことを思いながらカウンターに行って食券を出す。出てきたのは『本日の定食B』だった。トレーを持ってともりと一緒に空いているテーブルに座った。けれどなんとなく会話がなかった。いろいろ話したいことがあるけど、私はまだ何もこの状況を理解していない。理解していないことを話してもすべてが憶測になる。それは良い方向の場合もあれば悪い方向の時だってある。だからなかなか会話の糸口が見つからなかった。


 気分を紛らわすため目の前のメニューを見てみる。

 煮込みハンバーグに付け合わせのフライドポテトと人参のグラッセ。生野菜のサラダがあって、定番のご飯と味噌汁。こんな状況じゃなかったら喜んでいたかもしれない。

「あのさ、あやせ、大丈夫?」

 ともりは私のことを心配そうに訪ねてくる。もちろん私は大丈夫、のはず。

「なんで?」

 つい理由が聞きたくなる。

「だって、先輩の顔を見てからずっと表情が固まってるっていうか、青いっていうかしてたから。そりゃ私もなにがなんだか分からないから黙ってたけどさ」

 言いながら箸を手にして

「マスター、ごちそうになります。いただきます」

 ともりは箸を取って食べ始める。なかなかの食べっぷり。

「あやせも食べなよ。なかなか美味しいよ。こういう所で食べることってなかったけど」

 よほどお腹が空いていたのかな?気持ちいいくらい次から次へともりの口の中に消えてゆく。私も箸を持ってとりあえず味噌汁を一口。少し温度が下がっていたけど

「・・・・・・おいしい」

「でしょ。私達は元気なんだからちゃんと食べるのが道義だよ。残すなんて迷惑でしかないと思うんだ」

 ・・・そっか。

 なんだかともりの言っていることが分かるような気がする。そうだ、私は元気なんだ。あの頃とは違う。

 相澤君は何かを伝えたくてここまで私達を連れてきたんだ。そのことをちゃんと聞くまでは凹むなんてことできない。自分自身を奮い立たせて私は全部食べてしまった。

「おいしかった。マスター、ごちそうさまでした」


クリスマスまで一週間。ケーキの予約はお済みですか?(余計なお世話?)

読んでいただきありがとうございます。

なんか、ここまで来るのがあっという間に感じます。

年末が近づくとしみじみしてしまう私です。

もの寂しく、そして感慨深く年越しをしています。

来年はもっと楽しくなればいいな。今もしみじみ思っています。

そんなしみじみとした気持ちで書いている物語です。

次回もしみじみとお会いしましょう。

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