テストを終えて
初めてのテストがいよいよ始まる。それは部活での自身の存続をかけたテストでもある。
相澤君も私も大丈夫だとは思う。チラッと隣りを歩くともりはというと、最後のあがきとして自分で作ったテスト勉強のリーフレットを見ていて時折ブツブツ何か口にするほど集中していた。
「あのさ、話しかけてもいい?」
ちょっと間があって
「え?何か言った?」
声が届かないほど集中しているみたい。
「あ、ごめん邪魔しちゃった?」
「そんなことないけど一点でも多く取らないと相澤君に嫌われちゃう」
「問題はそこ?」
思わず溜息。けれどともりの耳には入っていないらしく、また勉強に集中していた。確かに恋の力ってのは侮れない。その純粋な恋に対しての姿勢を見ていると、私はともりに負けちゃうんじゃないかっていう不安の方が強くなる。って、なんで余裕かましているのかな?私は。もちろんそういう可能性だって十分考えられたはず。もしかしてともりのこと結構甘く見ている?
そう思うのも仕方ない。あの件から私は毎日の部活が楽しくて浮かれている。いろいろな物事が自分が思うように進んでいるせいもある。楽しいから気持ちに余裕があるんだ。
ともりだってあの一件以来すいぶん気軽にイケメンに話しかけられるようになっていたし、教室でも話しかけられるまでに進化していた。
休み時間の度に私の席までやって来てはいろいろなことを話す。たまに隣りに相澤君がいれば模試の問題について聞いてみたりしていた。なんだかこれがホントの意味で高校の教室って感じ。ま、この調子じゃともりも平気かな。これで三人の顔ぶれは変わることなく存続ということになる。
教室に入るとみんな静かだ。簡単な挨拶すらほとんどない。いくら初めての実力テストだからってなんでみんなそんなに気合いを入れているのだろう?ともりも何も言わずに真っ直ぐに自分の席に向かう。その後ろ姿は今から戦に挑む武将みたいに気合いが燃えているのが見える。
ともりに比べたら妙に落ち着いている自分が不思議だった。未だに私は余裕というオーラに包まれているみたい。まあ肩の力が抜けて丁度いいか。私も自分の席に座ると相澤君も本を開いている。意外な姿にちょっと焦りを感じてきた。
「おはよう」
チラとだけ見て
「ああ。おはよう」
やっぱり相澤君も復習しているのかな。とてもそんなことするなんて今まで思わなかったけど、つい本の表紙を見ると試験とは全然関係のないプログラミングに関するものだった。
やっぱりね。ほんと今一つ分からない人だよね。
「ずいぶん余裕みたいだね」
と、思っていることが素直に口から出た。自分でもビックリするくらい自然だった。不審そうな視線をこっちに向けてくる。
「イヤミか?」
「え!えっと・・・あはは、そういうんじゃなくて」
最近ずっとアイアイ先輩と一緒だから自分でもずいぶん浮かれていた一週間だったと思う。
行き先だって二人でいろいろ話し合った。部活帰りはほぼ毎日アンプレアントでお茶をした。そして一時間くらいはアイアイ先輩やマスターと会話を楽しんだ。
あらためて振り返ると模試のことはすっかりないがしろにしていたのは確かだ。けど範囲から察するにそこまで勉強を必要としないことだって確認済みだった。あれ?今になって急に不安になる。
「私は相澤君みたいに余裕ないから復習でもしようかな」
慌てて教科書を開く。
けれどやはり自分の中では完璧に出来ていると思う。きっと周りの空気に流されているだけに違いない、と自己暗示。大丈夫。普段通りにやればいい。
「せいぜい俺の次点に着くくらいにしてもらいたいな。同じ部として」
私がワタワタしているのが面白いのかな。余計なプレッシャーをかけるのは止めてよね。勝てないのが分かっているけどなんか口惜しいから
「もちろん相澤君に勝つつもりだけどね」
ずいぶんな大口を叩いたがそれ以上は何も言わずに納得した表情をして再び自分の世界に入っていった。
チャイムが鳴り先生が問題用紙と解答用紙を持って入って来た。
黒板にはあらかじめ試験科目の順番が書いてある。まず最初は国語からのスタート。今まで読んだ本の数は自慢じゃないが千五百冊はいっている。正直得意科目だ。
『開始』の合図があって試験問題の扉を開く。特に難しいことはない。普段通りに鉛筆を走らせる。
あまりにも簡単で半分の時間で済んでしまった。残りの時間って何しようかと考えていると隣りが手を挙げる仕草をしたと思ったら
「終わりました。他のことをやっていていいですか?」
なんて大胆な。そんなことって可能なの?
「答案用紙は回収する」
先生は回収してまた席に戻る。相澤君は試験なんてどこ吹く風みたいな感じで本を開く。
どうやらさっきの続きらしい。と、そんなの見ている余裕はない。こんな大胆な余裕をかましているイケメンより良い点を取るために見直しに力を入れなきゃ。
再びチャイムが鳴って休憩時間になった。
次は数学だ。国語よりも自信がある。ついともりの方を見るとやっぱり復習に余念がない。こっちに来ないってことで本気度が分かる。
もしかしてホントに負けたりして・・・そんな考えが頭を過る。よって私も教科を見返す。
残りの試験も相澤君は予定時間よりも早く終えて、さっさと答案用紙を提出すると本に戻っていった。
今の彼は模試よりもプログラミングの方が優先されるべきことなのかもしれない。
これって絶対部活のやつだよね。で、ここで考える。
もしこの状態で負けたらこの先一切太刀打ちできる自信がない。一体いつ勉強をしているのだろう。
そんな私の視線に気がついたのか、相澤君は『フッ』って感じで笑う。
あ〜完全にバカにしたな。私は答案用紙の見返しに余念がなかった。
模試は正午過ぎには終了した。
やっと肩の荷が降りたような気がする。やっぱり大したことなかったと思えるがあとは結果待ち。今さらどうこういっても始まらない。とにかく終わってホッと一息。あ〜コーヒー飲みたくなってきた。
「・・・終わった」
「ぐったりだね、ともり」
「・・・うん。結構できたと思う。あやせは?」
「まあ予想通りかな。あとは結果待ち」
「うん。絶対上位に入りたい。私、頑張ったもん」
「うん、だと思う」
気がついたらともりの頭を撫でていた。
今日はもう解散になる。部活だってない。みんなは帰り支度を始めている。
相澤君はまだ本を読んでいて周りのことなんて気にしていないみたい。
「ともり、お昼でも食べよっか」
「・・・ん、どこで?」
「アンプレアントにしようと思うけど」
「いいよ。私もマスターのカレー食べたい」
意見が一致したところで席を立って教室を出ようとした時
「ねえ、相澤君も行かない?」
せっかくだ。一応声を掛けてみた。本を読むのを止めて視線をこっちに向けて
「・・・今日はやっていない」
「え?」
「日曜は定休日だ」
そうだったんだ。今さらながら初めて知った・・・残念。ならお昼どこで食べようかな。急な予定変更は考えていないから次の候補が見つからない。
「お前達今日はこのあと予定があるのか?」
この後の予定と言ったら、お昼を食べて帰って昼寝くらいしか思いつかなかった。
「ならこれから付き合えるか?お前達も知っておいた方がいいだろう」
えっと・・・なんの用なんだろう。それに知っておいた方がいいことって?
楽しいことならいいけど、相澤君の表情からは読み取ることはできなかった。でもこういう時ってあまり楽しい方には期待しない方がいい。経験からだけど。
誘われたのにともりも喜んでいるとは思えない。きっとなにかを感じ取っているのかもしれない。それともテストで精魂果てて正しい反応が出来なくなっている可能性だって考えられる。
でもせっかくこう言ってくれているし、いずれ知ることになる事実があるなら早く知っておいた方が良い場合だってある。
「分かった。私は大丈夫。ともりは?」
「そんなの聞くまでもないよ。あやせが行くなら私も行く」
「なら準備をしろ。今なら間に合うだろう」
相澤君はにべもなく支度を始める。私達も自席に戻って支度をする。
私達は学校をあとにして相澤君の先導で歩き始めた。
とても気持ちのいい日曜日の午後なのに、なんでこんなに気分が重く感じるのかな?
それは答えが示されるまで続くんだろうな。
どうか、何事もありませんように。そんな願いを心の中で祈っていた。
都内は久し振りの雨模様です。何もかもが灰色に染まっています。
読んでいただきありがとうございます。
たまにはこういう天気だって必要だよね。
傘を差して歩くのは面倒だけど考え方によっては楽しいものです。
思い出しませんか?雨あめ降れふれ・・・って。無垢だったあの頃のこと。
真っ白な心は成長と共にいろいろな色に染まってゆきます。
それは良いとか悪いとかじゃない。個性だってこと。
今の自分を信じて物語と紡いでいます。
この次も出会えること期待しています。




