特別なルール
部室に入ると既に凛柊先輩がいてみんなのために紅茶の準備をしていた。
「私、代わります」
ともりは隣りに行って手伝い始める。やはりこの素早さというか、気転の利かせ方は私にはまだ無理そうだ。少し遅れ気味になって私も参加する。
出来上がった紅茶をポットに移してから席に着く。
「部長達遅いですね」
私はなんとなく部室を見回してから言う。
「三年生だからね。それより藤川さん、昨日はお疲れさま」
「いえいえ、別に大したことないです。私こそ一体何しに行ったんだって感じで」
「でもそれでいいのよ」
ニッコリと笑って答えてくれる。それでいい、ってどういうこと?なのかな。
ふと隣りを見ると相澤君は昨日仕入れたブツの梱包を解いていた。それを見ているともり。
「あのさ、手伝えば」
「え!いいのかな」
「聞いてみれば?」
「・・・そ、そだね」
ちょっとだけ顔を赤くして立ち上がる。それからゆっくりと近づいてゆく。その姿は珍獣に触れ合いを求めているように見えてしまうのは私だけ?
頑張れともり。もし振られたら慰めてあげよう。なんて考えていると意外にも素直に受け入れたみたい。
「あの先輩、今日って何をするんですか?」
読んでいた小説を置いて
「ああ、放っておいてごめんなさい。ええと確か・・・・」
スマホを出して
「・・・えっと、今日はパソコンのセッティングとゴールデンウィークの目的地を話し合う、かな。とにかく部長達を待ちましょう。あ、暇なら今までの活動記録とか見てみる?」
見たい。それはぜひ見せていただきたい。そう言うと
「えっと、この棚に入っているよ。一応年代順に並んでいるから好きに見ていいわよ」
私は二年前のファイルを手にする。
分厚いファイルが全部で三冊ある中で四月のタブのところを開く。まず目に入ったのは新入生の紹介のページだ。そこには言うまでもなく、アイアイ先輩が映っていた。二年前の先輩は凄く初々しい。髪型も変わらずポニーテールにしている。思わず笑みが溢れる。若いなぁ。それに可愛い。
そんなことを思いながらページを捲ると写真と説明がある。ヒッチハイクの練習風景なんてのを校庭や屋上でしている写真がある。きっとこれから私達もやることだよね。楽しみ。
『最初のポイント。親指を見やすいように立てること』と書いてある。
つい同じように親指でその形を作ってみる。今までこんなことしたことない。でもこれが初歩的ルール。間違っても中指なんて立ててはいけない。悪い例としてアイアイ先輩がそうやっている写真があった。さすがに私でも分かるよ。自分の手を見る。けれどそんなことはなかなか出来るものじゃないよね。
試しにやってみようかと思ったけど何となく気が引けて出来なかった。同じ指なのにこんなに意味や印象が変わるんだな。これも今まで人が生きてきたという歴史が作ってきたルールなんだろうな。
四月は校内での練習というか研修で終わっていた。
そして五月。
ゴールデンウィークを使ってみんなの旅の記録があった。みんなそれぞれ行き先が違っていて、一人の旅もあれば二人での旅もあった。新入生は大体先輩と一緒か新入生同士が多かった。
けれどアイアイ先輩は新入部員にもかかわらず一人での初旅だ。それは私が初めて見たホームページにあった軽井沢の時のものだ。
「どう?面白い?」
凛柊先輩が話しかけてくる。
「はい。みんな若いなって」
「若いって。たった二年前だよ」
「でもこの時って10人くらい部員がいますね。今の倍くらい。二年前って多かったんですね」
ちょっとだけ凛柊先輩は困ったような顔をして
「そうね。その年って結構いたみたいなの。けどここには二年生がいないの。映っているのは三年生と一年生だけ。だから三年生が引退した途端、部員は四人だけになったの」
なんでそんなことに?二年生が一人もいないなんて
「あの、それってなんかあったんですか?」
急に不安になって聞いてみる。もしかして何か事件でも?
「ええと、そうね・・・・」
と言ったところで
「おはようございます」
威勢のいい声で入ってきたのはアイアイ先輩と部長だ。
「よ、あやせ、昨日はお疲れ」
「あ、あの」
「どうした?」
「聞いてもいいですか?何で午後なのに挨拶が『おはようございます』なんですか?」
私の質問に対して指で壁の一片を指す。
「あれを見よ。何て書いてある?」
紙に手書きで書いてある文言を読む。
「あいさつは『おはようございます』で始まる。帰る時は『お疲れ様でした』・・・あの、これって」
「我が女子ヒッチハイカー部の規則その一。挨拶はこうすること。分かった?」
「・・・は、はい」
なんだか変な感じがする。朝でもないのに『おはようございます』なんて。でもこれがこの部のやり方なら慣れてゆくしかないのかな。
「まあ、最初は違和感があるかもしれないが慣れたらそうでもない。ゆっくりでいいから慣れてくれ」
今度はともりの方に行って
「やっぱ似てるな」
頭を撫でながら言う。そして最後に
「どうよ瞬。順調?」
相澤君は振り返ることすらせずに何かを答えている。見たところ“話しかけるな”とでも言っているみたい。そういう風に遠慮なく言えるのってやっぱりイトコ同士だからかな。
「藤川、どうかな?一年生の私達」
今度は部長がアルバムを覗き込みながら話し掛けてきた。
「え、えっと、部長、・・・・・おはようございます」
「いいねぇ。そうやっていればいつかは慣れる。・・・二年前だけど懐かしいな」
「えっと、まだ最初しか見てませんけど、みんな若いなって」
それを聞いて先輩達は声を出して笑う。なんだか恥ずかしくなって顔が赤くなる。そんなに変なこと言ったかな?
「まあまあ。先輩、それくらいにしてあげてください。今日は紅茶を用意してますよ」
「いいねぇ。いただきましょう」
凛柊先輩と一緒にカップに紅茶を注ぐ。
それからみんなして飲んでいる間に黒川先輩と紺野先輩もやって来てお茶に合流。その間もイケメンは作業を継続しているし、ともりもお茶のことは気にしないで一緒になって手伝っている。
なんだ、心配ご無用か。結構上手くいってるじゃん。
全員が揃ったところで部長が立ち上がって
「さて。今日はパソコンのセッティングは相澤と逸見に任せて、他は今度のゴールデンウィークについての話し合い。それと新入部員にはノウハウを教えること。担当は凛柊。任せた」
頷いて答える先輩。
「凛柊先輩よろしくお願いします。でもいいんですか?今度のヒッチハイクの行き先とか決めないで」
「私はもう一年あるからゆっくり考えることができる。けど三年生はこれが最後の旅になるの。ゴールデンウィークが終わったら引退だから」
今なんて?引退って?それって冗談ですよね、そう言って欲しい。けど凛柊先輩がそんなこと冗談で言う人ではないことくらい分かる。だからちゃんと聞かないと。
「え?そうなんですか?だって夏休みとか、冬休みだって・・・・・」
「まあ、引退って言っても旅に行かないだけでサポート側に廻るってことだけど。だってほら一応受験があるし、この部のルールで自分の第一志望に必ず合格するって掟もあるの。これは顧問の沢渡先生から言われていること。だから旅には行けないの」
「そんなルールも。あの・・・もし第一志望に合格できなかったら?」
「それがさっきの答え」
「え?さっき?」
「そう。なんで二年生がいなかったかってこと」
それについて少し考えてみる。けれどそれってさ、こういうことにしか答えが出ないんですけど。
「・・・もしかして第一志望に落ちた人がいたってことですか?」
凛柊先輩は正解、だけどね、みたいな複雑な感じで答えてくれた。
「そう。もしそうなったら次の年の新入部員はなし。これも先生が言い出したことなんだって。だから二年生がいないの。もし今の先輩達の誰かがそうなったらあなた達は一年間後輩を持つことが出来なくなる」
「なんでそんなルールを?そんなことしたって何の意味もないような気がします」
それ以上は聞けなかった。部長が割って入ってきたからだ。
「そんなことないように私達は頑張るから心配するな。それより始めるぞ」
なんだか複雑な気持ちがする。それってやっぱりここがちゃんと認証された部じゃないからなのかな?今度先生に直接聞いてみようかな?
なんだかモヤモヤする。だって第一志望に絶対合格って・・・そんなの失敗することだってあるだろう。当日の体調とかさ。なんでそんなルールがあるのか理解できない。
先生の意図はどこにあるのだろう・・・それにアイアイ先輩・・・最後の旅。
こんな理不尽ってあり?
私の計画・・・頓挫しそうなんですけど・・・これは責任取ってもらわないと
そんな私の視線に気がついたアイアイ先輩は笑ってくれている。
先輩・・・私のわがまま・・・聞いて欲しい・・・そんな想いが胸の中を熱くした。
旅をしていての楽しみの一つはホテルとか旅館の朝食です。
読んでいただきありがとうございます。
最近はブッフェスタイルが多いですが、当時は和食と洋食で分けられていました。
和食を選ぶことが多かった私です。
食べ方は大体同じで最後は納豆と生卵を混ぜたのをご飯に掛けて
仕上げに味海苔で彩りを添えてイッキにかき込んだものです。(若かった)
あ、話が遠くに行ってました。
こんな私の物語ですが、次回も読んでもらいたいです。
朝食は一日の始まり。皆さまも元気に来年を迎えましょう。




