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女子ヒッチハイカー部〜出会いと旅立ち〜  作者: マナマナ


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15/36

私は孫悟空。じゃない

「お前。何一人で笑っている?」

 最初その声が自分に発せられているとは気が付かなかった。

 ん?なんだか妙にたくさんの視線を感じるのは何でだろう?

「・・・あ、あれ?相澤君?一体いつの間に?」

「行くぞ」

 許可なく私の手を取ると視線の正体が判明。みんなイケメンを見ているのだ。


「ちょっと、待ってよ」

 手をいきなり取られたのにびっくりした。思わず立ち止まって

「なんだ?」

 言いながら手を離す。ちょっとだけ、いや不意を付かれたとはいえかなり動揺している。けど今はそんなこと気にしている場合じゃない。自分を落ち着かせるために一度深呼吸してから


「・・・・・あのさ、言われた通りずっと待ってたんだよ」


 溜息を付いたように見えるのは気のせいだろうか。

「遅れたことについては説明済のはずだ」

「そ、そうだけど。けどさ、こんな暑い中ただ待ってるって大変だったんだよ。連絡しようかどうしようか迷ったし」

「その割には楽しそうに笑っていたように見えたが」

 そう言ってちょっと笑った。イケメンは笑ってもイケメンだ。そんな顔見たの初めてのことかもしれない。ううん、初めて見た。意外に可愛いような、ついこっちの顔が赤くなるのが自分でも分かる。余計に暑くなった。私のことこんな風にした責任取ってもらうんだから。

「そんなに急ぐ買い物じゃないなら喉が乾いたんだけど」

「遅れた詫びでもしろって言うのか?」

「別にそんなこと言ってない。でもずっと待ってたんだよ。お茶くらいしたっていいかなって。それに相澤君だって汗、けっこうかいてるよ。喉乾かないの?」

 私は何気なくポシェットからハンカチを出して

「はいこれ。使っていいよ」

 イケメンは黙って受け取って汗を拭う。

 こんな仕草でも周りの視線を集めてしまうみたい。同時になんだか恨めしいような視線が容赦なく刺さってくる。

 そうでしょう、そうでしょう。あなた達の考えていることくらい分かる。答えは簡単。だからあえて言います。

 

 彼女じゃありません。ついでに言うとデートでもありません。私はただの付き添いです。

 

 心の中で叫ぶ私の思考なんてきっと伝わらないだろうな。

「分かった。確かに今日は季節外れの暑さだ」

 最初からそう言えばいいのに。ってちょっと待ってよ、とも言えず、さっさと歩き出す後ろ姿に続いた。


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「おかえりなさいませ。ご主人様」

 ご主人様?あの、今の状況を説明してい欲しいんですけど。

「好きなモノを頼め」

 慣れた感じでテーブルの向かい側の席に着くイケメン。案内してくれたメイド風店員さんからメニューを受け取るとさっきとは違う汗が出てくる。

 えっと、こういう時どんな顔したら良いのかな?とりあえず今は出されたおしぼりでおでこの汗を拭う。冷えていて気持ちいい。状況が分からないままメニューを開くと真っ先に目に付いたのはオムライスだ。

 

 ・・・な、何故ケチャップがハート・・かわいいけど

 

 それからもう一度隣りに控えている店員さんのことを見る。フリフリのフリルがヒラヒラしているスカート。続く絶対領域(というのを後で知ることになる)

 僅かな空間にそのような名前が付与されているなんて・・・私には異次元の感性としか言いようがない。

 足にもフリルの付いたストッキングが目に眩しい。多分、私は死ぬまで履くことはないだろうな。


「ご注文がお決まりになりましたら御呼びくださいませ」

 お辞儀をして去って行ったのを見届けてから、やっと妙な緊張が解けてくる。

「・・・あのさ、聞いてもいい?」

「それは今の状況のことか?それともこれからの買い物についてか?」

 グラスの水を一口飲んでから言う。

「え〜と」

 その質問に対する答えはもちろんどっちについても聞きたい。優先するなら

「今はこの状況について、かな?」

 私も水を一口。ほどよく冷えていて美味しい。喉が潤ったおかげでホッとした。

「こういう店だ。見れば分かる」

「えっと、そういうこと聞きたいんじゃなくて」

 その先のことを聞きたいのに、後ろから

「お決まりになりましたか?ご主人様」

 さっきの店員さんが再びやって来たと同時に私も再び背筋が真っ直ぐになる。

「決まったか?話しよりも先に注文だ。向こうから先に聞いてくれ」

 店員さんは『かしこまりました』と言って私の真横に立つ。

「え、あ、う」

 フッ、と鼻で笑っている。もしかしてこの人、私のことを観察して楽しんでいるの?

 待ち合わせといい、今の状況といい、私はブッダの掌で弄ばれている孫悟空じゃない。落ち着くんだ私。このフィールドは相手のホームだとしたら、私にとっては当然アウェイになる。これ以上ワタワタしたら相手の思う壷だ。もう一口水を飲んで体勢を立て直す必要がある。これ以上笑わせるつもりはない。これでも乙女なんだ。孫悟空とは違う女子の適応能力なめんなよ。


「じゃあ(コホン)、オムライスとアイスのカフェオレでお願いします」

 私は迷いなく注文する。どう?この堂々とした落ち着き。猿にはできまい。

「ご注文承りました、ご主人様」

 ふふ。その呼び名にはもう慣れたよ。余裕たっぷりに頷いて答えると

「それではメッセージ。どんなのがよろしいですか?」

 ん・・・?今、なんて??ハート以外にもあるの?それは絶対に不可欠なモノなの?私はなんて答えればいいの?

 ハリボテの余裕は冷や汗とともに流れてゆく。人間も猿もそんなに変わんないのか?そういえばチンパンジーとはたった3パーセントしか人間と遺伝情報が違うだけと聞いたことある。しかしその3パーセントには月よりも太陽よりも大きな隔たりがある。宇宙は無限だという人と有限だという人もいる。それくらい違うってことでいいのかな?

あ〜、今の私の思考回路は3パーセントの違いで大きく揺れてから、やっと言葉となる。


「えっ?め、めっせーじ?ですか?」

「はい」

 写真にあったハートマークのことだよね、やっぱ。それだけでも私はかなり恥ずかしい。普通でいいのに。普通がハートなら『普通で』て答えれば通用するのだろうか?それとも他に言い方ってあるの?

 ・・・・う〜・・・頭の中が沸騰し始める。

 つい救いを求めてイケメンの方を見ると、ワザとでしょ、それ!!!!

 メニューを見ていてこっちと目を合わそうとしない。


 ・・・仕方ない。白旗を素直に掲げよう・・・私は人間だからできる叡智なんだよ、これは。


「・・・・えっと、すみません、その・・・・初めてなんです。こういうところ来るの」

 正直に言うと合点がいったのだろう。笑顔でさらに顔を近づけて丁寧に説明してくれた。

 しかしこの近い距離感はどうにかならないのだろうか。爪はキレイにデコってあるし、髪はツヤツヤできれい。私も頑張ればこのクオリティーが出せるのだろうか。甚だ疑問だが・・・つい自分と比較してしまう。あと、香水の甘い匂いでクラクラするんですけど。

 私は咄嗟に天井の壁紙に目をやる。そこにはたくさんの星空が描かれていた。

「ほ、星の形がいいです」

 ハートよりはマシだよね・・・☆


「かしこまりました。お星様ですね。それでは今しばらくお待ちくださいませ」

 相澤君の方も注文が決まったみたい。またまたお辞儀をして下がってゆく店員さん。私がホッとしたのも束の間で

「さて、一体何が聞きたい?」

 両手を組んでその上に顎を乗せた格好で聞いてくる。真正面で目が合う。ともりならこの時点で失神しているか、鼻血でも出しているかもしれない。それくらい洗練されている。

 それなのに私は好きになるとかそういう恋愛的な視線では見れないのは何故だろう。というよりこっちはさっきから振り回されてばかりいるんだ。ならいろいろ聞いてもいいよね。あんたには言いたいことたくさんあるんだから。

「えっと、まずは・・・こういう店好きなの?意外っていうか・・・うん、意外だよね」

「秋葉原にはよく来るからな。それに特別こういう店が好きなわけじゃない」

「でもさ、私にはずいぶん慣れているように見えるんですけど」

 イケメンが答える前に

「お帰りなさいませ。瞬様」

 と、さっきとは別のメイドさんがやって来る。しかも名前で挨拶をしているとは・・・


 これって相当の常連ってことだよね。この現実、ともりに教えてもいいのだろうか?いやぜひ教えたい。いや・・・でも・・・こういうのってイメージだよね。

 もしともりが受け入れられなかったら、私のせいでともりの淡い恋に終止符を打つことになるのかもしれない。ん〜なかなか良い答えが出てこない。今すぐ答えを出すのはまだ時期尚早というやつなのかもしれないから後で考えよう。

 私はしばらくはまだこの状況の行く末を見ることに決めた。目の前では二人のやり取りは続いている。何だか私のことは蚊帳の外みたい。


「やめろ。今日はクラスメイトもいるんだ」

「それは失礼しましたご主人様」

 クスクスと笑う店員さん。それを鬱陶しそうな顔で見つめるイケメン。この二人が知り合いだとして一体どんな繋がりがあるのだろうか。まさか・・・ともりのことが急に心配になってくる。

「こちらがそのクラスメート?」

 今度は思考している私に視線を投げてくる。反射的にお辞儀をして、やっと店員さんの顔をちゃんと正面から見ることになった。メイクは濃いけれどこで見たような・・・?

「えっと・・・・えっ・・・え?」

「似てるが別人だ」

 相澤君は察したように答える。それって誰のことを指しているか分かっているみたい。

「これは亜衣香じゃない」

「・・・だよね。でも、うん、似てるよね。あのこの方って?」

 相澤君はこっちにも聞こえるように溜息を付いて

「姉だ。俺の」

「え!え?」

「亜衣花と似ているけど、こっちは大学生だからな」

「じゃあ、アイアイ先輩より年上ってこと?」

「そう言ったつもりだ」

 びっくりしている私には笑顔を、そして相澤君には

「ちょっと、年上なんて話してないよね?あ、失礼しました。そのようなお話は謹んでいただきたいとお願い申し上げます。ご主人様」

 と、少々キツめの目線をする。この時の視線。なるほど。これは相澤君に似ているような気がする。ほんとに本物の姉弟なんだ。納得して

「そっか、お姉さんが働いているからこのお店に来たんだ」

「そういう面もあるかもしれないが、この店は親が経営している内の一つだ。分かったならもう教えることはないな。おい、それより早く持ってきてくれないか」

 気になってお姉さんの胸元にある名札を見ると『あやか』と書いてある。一体どんな字を書くのかな?名前もアイアイ先輩に似ている。というか一字違いなだけ。


「ご主人様はず〜いぶん、強引なんですね」

「そういう喋り方はいい。仕事の時だけにしてくれ」

「今がその仕事なんですけど」

 ニッコリと笑って答える。その顔も相澤君に似ている。

「ならこれは命令だ。普通にしろ」

「・・・・・・かしこまり・・・」

 と言った所で呼び出し音が鳴って

「あ、失礼します。ただいまお持ちいたします」

 そして奥に消えていった。と思ったらすぐに可愛いワゴンと一緒に戻ってきた。ワゴンには私達の注文した品が載っている。

「大変お待たせしました」

 目の前に置かれるオムライス。けれど注文していた肝心の星の形のケチャップはない。不思議に思って顔を見合わせていると

「それでは始めさせていただきます。ご主人様よろしいですか?」

 その手にはケチャップがあった。私が頷いて答えると

「失礼します」

 言ってからオムライスいっぱいに星を描く。そして

「キラキラお星様。届けあなたのハートにシューティングスター」

 呆然と見ている私に向かってシューティングポーズをする。


 ・・・なるほど。いたたまれない。相澤君のお姉さんってことで余計に気恥ずかしい。

「それでは召し上がれ。ご主人様」

 私の方が一段落して今度は相澤君の方に行く。果たしてどんなことをするのかな?って思って見ていると

「はい。お待たせしました。まずはコーヒー」


 な!!!ふ、普通だ。いやどちらかというと無愛想にさえ見える。

「今日はちゃんとお金払っていくんでしょうね。ここはあんたのための無料のお店じゃないんだからね」

 なんか現実的な話をしている。そっか。親の店ということはタダってこと?それはそれで羨ましいような。

「今日は先生のお使いで来ている。だから経費で払う。ちゃんと領収書よこせよ」

 ジャケットの内ポケットから財布を出すと中から黒い色のカードを渡す。

「持って行け」

「あら、そうなの。前もって言ってくれたら良かったのに。それで先生は今どこに行ってるの?」

「石垣」

「石垣!良いなあ。今の季節だと台風もまだだし人も少ない。今頃マンタと会っているのかな」

 マンタ?って言った?実際見たことはない。テレビでしか見たことがない。

 そんな会話を聞いていると先生のことがもの凄くすごい人のように思ってしまう。っていうか実際そうか。部費だって出している。疑問の一つ。どうしてそこまでするんだろう?


「ゆっくりしてってね。こんな弟だけど仲良くしてあげてね」

 小さな声で耳元で話してくれた。かかる息がくすぐったい。お姉さんも良い匂いがする。そう思うと私って一体どんな匂いがするのかな?

 お姉さんは奥に引っ込んでゆく。姿が見えなくなってからやっとスプーンを手にする。

 先生、いただきます。これって今日のお役目の役得ってことでいいんですよね。


「(もぐもぐ)・・・うん。おいしい」

 星以外は普通のオムライスだ。ケチャップライスには刻んだタマネギにグリンピースあとはソーセージが入っている。卵は程よい半熟。至ってどこにでもあるオムライスのはずなのにもの凄く美味しく感じるのは何故だろう。もしかしてさっきのおまじないが効いているのかな?なんてね。そう言えば相澤君は何を注文したのかな。

「え・・・と、もしかしてプリンアラモード?」

 絵に描いたような模範的なプリンアラモードを食べている。しかもプリンは固めだ。

「ご飯は?」

「これがそうだ」

 プリンを一口。生クリームと一緒に頬張りながら答える。私は『へ〜』としか言えなかった。


 しばらくは特に会話もないままお互い食事を続ける。別に会話がしたいわけじゃないけど、ここまで沈黙が続くとなんだか不幸でもあったみたい。でも気楽ではある。それにあなたは気がついていないかもしれないけど、私はあなたのこと結構観察させてもらってるからね。

 ともりなら会話が途切れないようにいろいろ話題を振るんだろうな。それとも緊張のあまり食べるものも喉を通らなくなるとか?

 どっちにしても光景が目に浮かんで思わず笑ってしまう。

「何がおかしい」

 え!見られてた・・・向こうも私のこと観察していたとは・・・

「別に。美味しいなって」

 特に感想は言わずにイケメンはプリンアラモードを平らげて、ホットコーヒーを静かに飲んでいる。

 う〜む。もしかして早く食べろと言われてる?そんな視線を感じるが私はもう少し休んでいたい。だからあえて自分のペースは崩さず食べるからね。


 やっと食べ終わったオムライス・・・はぁ〜美味しかった。


 食後のアイスカフェオレはかなり本格的な味がする。優しいミルクの中にガツンとしたコーヒーの苦みがある。人によってはガムシロが必要かもしれないが、そんなことはこの飲み物に対する冒涜のような気がして私はそのまま飲んだ。

 親戚同士ってことでコーヒーにはこだわりがあるんだろうな。

 正直、こういうお店は雰囲気だけで味は大したことはないだろうという偏見で見ていたが、ここはそうじゃない。きっと私が世間知らずのせいもあるんだろうな。

 ほどなくお皿の上は何事もなかったようにキレイに何もなくなっていた。

 ごちそうさまでした。

いちょう並木の紅葉はきれいなのですが・・・たまに臭いが・・・

銀杏、食べるのはいいんですがね・・・

まったり読んでいただきありがとうございます。

なんか・・・長くなった・・・反省。

長かったり、短かったり。

それでもアップは続きます。

次も良かったら、よろしくお願いします。


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