プロローグ
物語にご都合主義だと主張するのはナンセンスだ。たいていの話で勇者が魔王に負けないのは、数ある勇者を目指す人間たちの中から書き手が魔王に勝った勇者を主人公に選んで綴っているだけで、私達が勇者を目指しても名を残さず消えてく可能性が高い。だから物語に対してそんなことあり得ない、といった主張はたいていテメェの人生にはあり得ねーな、と言ってやるんだ、と。これは姉貴の受け売り。ただこれから綴ることはおれの主観なので、特に珍しくない一般人の体験だと思って期待せず読んでほしい。
天才と言われた姉貴もオレからしたら、ちょっと品がないおしゃべりな良いお姉ちゃんだった。
その日オレが自分の部屋でゲームをしてると、
「入るぞ」
と声がして前ボタンガン開きのパジャマ姿の姉貴がオレの部屋に入ってくる。肩まで伸びるぬばたまの黒髪はびしょ濡れ。いつも通りケチャップとチーズを乗せたトーストを二枚乗せた皿を持ち、もうコンタクトを外して眼鏡になっている。
「s○xやるぞー(席座るぞ)」
といい椅子をこっちに向けて座り、オレがやってるゲームを見ながらトーストを頬張る。ケチャップの酸っぱい香りにつられて腹がグーっと鳴る。
「オ○る?(オレのある?)」
とゲームしながら言うと、満足気にこっくり頷きながらトーストを片方くれた。それから色んな話をした。確か当時オレは思春期に片足突っ込んだくらいの年齢だったが、姉貴とは上から下まで、はじめから終わりまでいろんな話をしていた。そのまま寝てしまっており、朝起きるといつの間にかステージクリアされたゲームがついていた。その日から姉貴は失踪し、今になるまで会っていない。