下見に来ただけなのに!!
一度家に帰り、近場の神社にやって来た楓は一通り観察が終わった所だった。
ここは教授が言っていた異常気象はまだ起こっていない様で、閑散とした少し寂れた神社だ。
日が長い為、現在、午後6時前だが夕暮れのオレンジ色の空が綺麗で初夏を思わせる。
「うーん、今日は特に収穫なかったな…。
異常があった神社にも行った方がいいかしら。福岡と京都かぁ…。」
旅費がきついなぁ、と呟いた。
今日はそろそろ帰るかな、と考えていた時、ふと神社の本堂の横に小道があるのを発見した。
楓は何故かその小道が気になり、少し進んでみることにした。
小道の先はT字路になっており、鳥居を抜けると道が左右に分かれている様になっていた。
鳥居を抜けて、辺りを見渡すと草に覆われた石像を発見した。
石像には二体の男性が彫られていた。
笑みを浮かべた老爺の顔と、顔を顰めまるで怒気を湛えた様な顔をした老爺の正反対の二人だった。
石の根元には紙垂れが落ちており、ゆらゆらと風に靡いて揺れていた。
「これは道祖神?男性2人なんて珍しい…。」
教授に見せる為に写真を撮っておくか、とカメラを向けた瞬間、
二体の間を引き裂く様に、一直線の亀裂が入った。
「えっ」
楓は驚き、目を見開いた。
写真を撮ることも忘れて道祖神を凝視していると、
石が鼓動するみたいに少し揺れた様な気がした。
嫌な予感がして、一歩後ずさり、瞬きをした瞬間だった。
突然、夕焼けのオレンジ色の空が暗闇に変化した。
目の前の亀裂が入った道祖神は消えていて楓は草むらの上に立っていた。
ただ、神社に繋がる道はそのままで少し遠くに神社も見えた。
「どうしよう…。変な所迷い込んじゃった……?」
教授から、研究の段階で異界に迷い込んでしまったり、
信仰強い孤立した村で大変な思いをした話は何度か聞いて居たが、
まさか自分が迷い込むなんて、しかもまだ様子見のつもりだったのに!と半信半疑だった。
家から持って来た懐中電灯で道を照らしながら神社まで辿り着くと、更に困惑した。
楓が訪れて居たのは、かなり小規模の神社だったはずだ。
目の前に佇むのは大きな神社だった。共通点と言えば寂れている事くらいじゃないか。
……教授。大変な事になりました。どうしたらいいでしょう。
と思わずここにはいない人間に助けを求めてしまう程だった。
1人で途方に暮れている時だった。
神社の入り口らしき所で2人の人影と話し声が聞こえたのは。
一瞬この異世界であろう場所の住人かと思い、息を潜めていたのだがよく見ると学生服、
それに満身創痍のような様子だった。
明らかに自分より先にこの世界に迷い込んでしまったのだろう。
合流して事情を聞こう、と楓は涼馬達に声をかけたのだった。