小さな希望
しばらく歩いていると、大きな神社にたどり着いた。
しかし、大きいだけで手入れはされていないような寂れた雰囲気が漂っていた。
細道と繋がる参道は苔が広がり、石畳にはひび割れている。
奥に鎮座する本殿は古びているが威圧的な存在を放っていた。
魔除のために塗られた朱色は劣化して黒ずんでおり禍々しい雰囲気を助長させていたし、
扉が閉まっているにも関わらず何か神的存在が祀られていることがわかるような気配を感じるようだった。
本殿の横には倒れかけた絵馬掛けがあり、誰がかけたのだろうか沢山の絵馬が掛けられていた。
「かなり大きい神社だけど…。人がいないとすごく不気味な感じだね。」
光道は、神社を観察する様に視線を動かした。一方、涼馬はかなり驚いた顔で神社の風景を見ていた。
目線は違うけれど、先程夢で見た神社と同じところだ、と直感した。
幼い頃、来たことがある筈なのだが記憶はしっかりと閉ざされていて思い出すことが出来ない。
「僕、ここへ来たことあるかもしれない…。小さい時に…。」
光道はそうなのかい?と話の続きを待った。
「さっき気絶している時に見た景色と同じところなんだ。
その時僕は光道くんと、あいつを誘いたかった…。
僕が記憶を無くす前、他に友達がいたのかな?」
幼馴染から、このすっきりとしない気持ちを解決して欲しくて問うてみた。
「…………。いや、僕は涼馬くんとしか遊んでなかったからなぁ…。」
考えてくれていたのか、何かを隠しているのかわからないような間を開けて答えた。
何故かこれ以上聞いてはいけない気がして、質問するのをやめた。
結局、『あいつ』の正体はわからないままだった。
しばらく、2人に気まずい雰囲気が漂った。
しかし突然、薄暗い空間に人工的な光が涼馬達を照らした。
「あなた達、こんな所で何をしているの!?」
光の先には1人の女性が立っており、懐中電灯を手に持っていた。
涼馬達は、人がいる事への安堵と同時に信頼してもいいものかという疑念が同時に生まれた。
目の前に現れた女性は、普通の人間に見える。
涼馬達より、少し年上くらいだろうか。
長い髪は後ろで一つに括っており、可愛らしい顔立ちをしている。
ボーダー柄のTシャツに、短い丈のジーンズにスニーカーといった服装で
よく似合っているが、後ろに背負っている大きなリュックが少しアンバランスの様に感じた。
「君達、ここへはどうやって入ったの?学生?」
彼女はまた、捲し立てる様に尋ねたが、涼馬達の満身創痍な状態と
警戒心を感じ取ったのか自己紹介を始めた。
「ごめんなさい。私は遠宮楓。
神學院大学の3年生よ。此処へは神社の調査をしている時に迷い込んでしまったの。」
そう言って、彼女は此処に来た経緯を話し始めた。