決意
遂に噂のテンジン様と出会ってしまった涼馬達。
どうやら彼らは、奥へと避難した様です。
「わー!すごい!大きな神社だ!」
幼い時の涼馬は、立派な神社に来ていた。
身体が小さいので余計に大きく、壮大に見えた。
「あいつも来ればよかったのになー。熱が出ちゃったからしょうがないけど。
光道くんも誘えばよかったなー。」
今度誘おう、と意気込んで大人に手を引かれて奥へと進んでいく記憶。
失った記憶の一部だろうか。
この神社に来た覚えは無い。それに涼馬が言う「あいつ」とは誰の事だろうか。
光道以外に、友人がいたのだろうか。
どうしてその子は記憶を失った以降、姿を現してくれないのだろう。
そう思いながら、意識がどんどんはっきりしていくのだった。
目を開けると、2人は石造りの灯籠に寄りかかって脱力していた。
どうやら匂いがしないところまで避難した後、力尽きて気を失ってしまったようだ。
「目が覚めた?気分はどう?」
光道は涼馬の顔を覗き込んで、顔色を確認した。
なんとか大丈夫だ、と返事をして辺りを見渡した。
先ほどの衝撃的な光景が、鮮明に記憶されてしまった。
匂いがしないところまで離れたはずなのに、鼻の奥にあの匂いが残っているような錯覚を覚える。
何より、ただの噂話だと思っていたテンジン様が、実在していたことに驚きを隠せなかった。
「本当にいたんだね…あれがテンジン様……。」
「かなり不気味だったね。それに…。」
光道は美香の最期を口にそうとしてやめたようだった。
春人は逸れて行方がわからないし、2人は彼と反対方向へ進んでしまったので
追いかけるには死体と対面する事になる。
それは現代を生きる青年には酷なものだった。
これからどの様に行動するか、お互い思考を巡らせなければならない。
「…テンジン様は、行きは良い良い、帰りは怖い…って言っていたよね。
佐々木くんはもしかしたら先に帰れているかもしれないね。」
ふと、光道が推測した。
「1人帰るには、1人死ななきゃいけないってこと!?」
そんなの無理だよ…、と涼馬は絶望した表情を見せた。
光道の推察が正しければ次にテンジン様に会ったとき、必ずどちらかが死ぬことになる。
幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた唯一の親友を差し出すことは涼馬には出来なかった。
「2人とも生きて帰れればいいけどね。」
光道はどこか落ち着いて言った。
寺の息子だからか、この雰囲気には慣れているのか、
それとも平静を装っているだけなのか疑問だった。
「涼馬くん、テンジン様が現れる前霧と通りゃんせの歌が聞こえたよね。
その異変を見つけたらすぐに何処かに隠れよう。
そうすれば、しばらくはどちらも死なずに過ごせるよ。」
彼の冷静さに引っ張られ、龍馬も落ち着きを取り戻していた。
「ありがとう、光道くん。2人で帰れる方法を見つけよう。」
2人は、この異界の奥へ進むことを決めた。無事に生きて帰れるように、薄暗い細道を進んでいった。