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通りゃんせのテンジン様  作者: 平野 箏
第1章 ここは何処の細道じゃ…?
5/10

テンジン様のお通りじゃ

⚠️注意⚠️

最初の犠牲者が出ます。死体表現がありますので、苦手な方はご注意ください。

4人が鳥居をくぐった瞬間だった。突然空気が変わった。

 

湿気を含んだ霧が、足元から立ちのぼる。

まるで地面そのものが息を吐いているようだった。

薄ら寒かった空気がさらに気温が下がり、冬のような寒さだった。


「え……なんかやばいか?」

先ほどまでの冒険心は何処へやら。

春人の足は止まり、後ずさる様子を見せた。

霧は段々と濃くなり、すぐそこにいるクラスメイト達の姿もぼやけているように見えた。


突然、霧の奥からぴゅー、と龍笛りゅうてきの音が高く、遠くで鳴った。

神楽のような、天から降りる音。

 

「とぉーりゃんせ、とぉーりゃんせ…。」

高い笛の音でそう奏でられたような気がした。

 

「今、何か音がしなかった?」

涼馬はみんなに問いかけるも、自分以外は聞こえなかったようだ。


細道の奥も、霧が深く、何も見えない。


その時だった―。

霧の奥から、鼻にかかった様な、すすり泣く音色が風に乗って木霊する。

 

篳篥ひちりきの音が、通りゃんせの旋律を歪めながら繰り返す。

まるで誰かが鼻歌を歌っている様に…。

 

声がどんどん近づいて、ついに霧が割れた。


そこには鬼の様な形相の男が立っていた。

 

来ているのは、平安の官人が身につけるべき狩衣だった。

しかしそれは朽ち果て、垂れ下がり今や見る影も無くなっていた。

その朽ち果てた衣から見える腕は異様だった。

白骨の様に細い腕から伸びるのは、痩せ細った老人の様に皺が多い手に、

まるで獣の様に伸びた爪が生えていた。

 

目と眉は吊り上がり、眼球があるはずの場所には暗闇しか無かった。

口は裂け、引き攣ったまま開きっぱなしの様だった。


全員が直感した。

これこそが噂の正体。テンジン様だと言うことを。

 

足がすくみ、立ち向かうことも、逃げることもできない。

テンジン様…天神様。

神を目の前にした圧が4人にのしかかる。


テンジン様は無い眼球をこちらに向けた。

「何様……か…。」

なんと問うてきたのだ。何をしにここへ来たのかと。

 

その声は、地の底から響いてきたかと思うほど、重く、恐ろしくしわがれていた。


「…か、帰してくれ。家に帰らせてくれ……。」

春人が声を震わせながら返事をした。

美香はハルトの腕を抱きしめて怯えていた。


「……承知した……。」

テンジン様がそう言った瞬間だった。

足元の霧が美香の足に巻き付いた。


「…え……。」

彼女は理解するよりも早く、春人の腕から剥がされテンジン様の正面に立たされた。

 

叫ぼうとしたが、声にならなかった。恐怖と絶望の色が浮かぶ。

「行きは良い良い……。」

そうテンジン様が呟いた瞬間


空が裂けた。


バチン、と鋭い音がしたかと思うと光が美香に向かって垂直に落下した。

 

一瞬の出来事だった。

美香と思われる人型の消し炭が地面に落ちていた。

 

焦げた肉と髪と、ゴムが焼けた様な匂い。

生ゴミをそのまま燃やした様な、耐え難い異臭が辺りを覆う。


あまりにも一瞬のことで、涼馬達は何が起きたか分からなかった。

 

「嘘だ…。嫌だ!死にたく無い!!!」

誰よりも早く、状況を把握できたのは春人だった。

彼は嗚咽を溢しながら、絶叫し始め、来た道を全速力で走って行った。


テンジン様は「……帰りは怖ひ。」

と呟き、また霧の奥へと消えて行ってしまった。



やっとこさテンジン様が出てきました。そして最初の犠牲者も…

本文に出てくる龍笛(りゅうてき)篳篥(ひちりき)は平安初期に盛んだった雅楽で使われていた楽器です。

YouTubeに、それぞれ通りゃんせを演奏してみたという動画がありましたので、お時間があれば是非聞いてこの物語をイメージして下さると嬉しいです。

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