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通りゃんせのテンジン様  作者: 平野 箏
序章 噂話を確かめに行こう
3/10

唯の噂話で…

ついに放課後になってしまった。

 

涼馬と光道、春人と美香の4人は例の交差点へ向かっていた。

学校から歩いて15分くらいにある為、涼馬達はじっとりと湿気を含んだ空気に耐えながら歩いていた。

 

「そういやさ、何であそこだけ変わってないんだろうな。昔はもっとあったろ。」

春人が独り言の様に呟いた。

 

「私知ってるよ。なんか障害がある人が信号の音を統一して欲しいって訴えてて、

 鳥の鳴き声に変えてるってニュースでやってたんだけどね、

 あそこだけ音を変えようとすると異変が起きるんだって!」

美香はちょっと大袈裟な言動で続けた。

 

「急に土砂降りになったり、晴れてるのに雷が近くに落ちたりしたらしいよ!」

だからあそこだけ通りゃんせのままなんだよ、と美香は得意気に話して春人の反応を探った。

 

話題を振った張本人の春人の反応は薄く、「ふーん。」で終わった。

美香は春人の反応が期待通りでなかったのか、不満そうな、

はたまた少し残念そうな表情を一瞬見せたがすぐにいつもの笑顔で春人を見つめる。

 

クラスでは唯の美男美女カップルだな、という印象だけだったが、

こうして近くで2人のやりとりを見てみると春人のあまりにもそっけない態度、

美香の一方的な好意から実はこの2人は周りから付き合っていると思われているだけで、

実は違うのではないかと思えてくる。

 

暑すぎて涼馬はどうでもいい事を考えている。

 

本日の最高気温は35度。湿度55%の立派な猛暑日だ。


なんだかんだで、涼馬たちは黙々と歩き、横断歩道を視界に納めるところまでやってきた。

青信号になる度に、通りゃんせの曲が流れる。

狭いコンクリートの道路にもともと交通量も多くないその場所は

車も一台も通っておらず、通りゃんせと蝉の鳴き声だけが響いていた。

 

夏の暑さで、ゆらゆらと陽炎が立っているそこはあまりにも寂し気な雰囲気があり

本当に異世界に行ってしまうのではないかと思わせる不気味さがあった。

 

横断歩道に近づくにつれて涼馬は、お約束とでも言う様に頭痛と戦っていた。

暑いのに冷や汗が止まらない。心臓がドキドキと鼓動を打っていた。

余りの痛さに目を瞑ると、一瞬ここではないどこかの風景が見えた。


 

石畳の地面、周りは木々で覆われている。

大きな手と涼馬の2倍はある身長の誰かに手を引かれて涼馬はこの道を歩いていた。

その誰かは急足でどんどん奥へ進んでいく。

「ーー、何処へ行くの?」

涼馬が問うても、返事は無かった。この人は、誰だ?

全然風景が違うけど確かにこの道だ、と確信があった。

昔は石畳だったっけ…。いつからコンクリートの道路が出来たんだろう。


 

「ーーくん、涼馬くん、大丈夫?」

ぽん、と肩に手を置かれて涼馬は、はっとして目を開けた。

 

横を見ると光道が心配そうな表情で涼馬の顔を覗き込んでいた。

今の涼馬は、きっと誰よりも具合が悪そうにみえる事だろう。

蒼白な顔に怯えた表情、前髪は汗で顔に張り付いていた。

 

そして、いつの間にか噂の横断歩道の前まで来ていた。

「光道くん、ここって昔石畳だった……?」

「……?ここは僕たちが生まれる前から変わってないよ?」

涼馬の問いに光道は意図がわからないと言ったような表情を見せた。

 

「なんか僕、ここに来たことある気がするんだ。でも全然風景が違うんだ。」

涼馬の言葉に光道は少し考えて「記憶を無くす前の話かな…。でも…。」

 

と何か言いたそうにしていたが、そこへ春人が先ほどの光道と同じように涼馬の顔を覗き込んだ。

「……。やっぱり、芦田は怖いの駄目なんだな。近づいただけで怖がりすぎじゃね?」

と言った。

 

彼のニヤケ顔から察するに、涼馬の推測は当たっていたらしい。

彼は怖がる涼馬を見て面白がっている。

「さて、もうすぐ青信号だ。行こうぜ。」

春人は涼馬と光道の肩を掴み、横断歩道を進んでいく。

美香も後を続いて4人一緒に狭い横断歩道の真ん中で止まった。

 

車は一台も通らない。そして、もうすぐ曲が終わる。


曲が終わりぷつ…っという小さい機械音と共に青信号が点滅し始める。

よかった、噂は噂だった。

と安心して瞬きをした時だった。


次に目を開けた時、涼馬達は木々に囲まれた石畳の細道に立っていた。

さっきまでの暑さは何処へやら。木のトンネルのお陰で陽は当たらず、風が冷たいくらいだ。

 

風に乗って、湿気を含んだ土の匂いがする。

ただの噂じゃなかった。

涼馬達4人は本当に噂の通り、異世界へとやってきてしまったようだった。

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