きっと大丈夫
一通りの説明を終えた後、楓は改めて…と言って自己紹介をした。
「改めて、私は遠宮楓。
あなた達は?どうやって此処へ?大分疲れて見えるけど、いつからいるの?」
涼馬達は、自分達がどうやって来たのかと、自分達の地域で流行っている
「通りゃんせが鳴る信号機の横断歩道の中心に歌が終わるまで立っていると異世界へ入れる」
という噂を面白半分に信じ、終業式の帰りに肝試しをしに行った事、
道中、噂のテンジン様に遭遇し、1人は雷に打たれてしまい
もう1人は逸れてしまって何処にいるのかわからない事を説明した。
説明を聞き終えると、楓は頭を抱えてため息を吐いた。
「君達、かなり大馬鹿者ね。……犠牲になった子は残念だったね…。」
彼らの話を聞くと、逸れた子はテンジン様に「帰りたい」と願いを口にして
しまったからその代償として身近な存在の彼女を取られたんだろう。
2人の推測通り、現実世界に帰っている可能性が高い。
彼等の噂が先か、天満宮の神器が壊れたのが先か。
それか神器の力が弱まったのと、噂が始まったのが同時期だったのか。
どちらにせよ、学問の神と呼ばれた天神様の見る影はなく、
怨霊である菅原道真公の部分が色濃い。
天神様が歌詞に入っている童歌が噂の根源であるのも気になる。
楓が1人で考え込んでいると、不意に、涼馬がこう言った。
「あの…、僕、昔ここに来た様な気がするんです……。
小さい頃の記憶はほとんどないんですけど…。」
それは、楓にとってはありがたい発言だった。
「なら、その君の記憶が頼りになるかもしれないわね。
それが本当なら、貴方は一度ここへ来て、無事に帰れた事になるんだから。」
3人の間に、帰れる可能性、という希望が少し見えた気がした。
「大丈夫。うちの大学の教授も何回か異界に迷い込んだらしいけど、
細かい探索をすれば帰れる道はあるはずって言ってたから!」
2人を元気付けるように、わざとらしく明るく振る舞った。
涼馬も光道も、楓という異界に詳しい人間がいることにより、少しの希望が見え始めた。
彼らは、先ずは神社を調べようと動き出したのだった。




