現実2
バカ王子の目が泳いでいる。いくら考えた所でバカ王子にできることなんてあるわけない。我が家も本当はこんなバカを引き取りたくは無かった。
「でもゆくゆくはコーテ商会で秘書をするはずだったんだ。それも無くなった。お前のせいだ!」
このバカ王子は何を見ていたのだろうか。
「コーテ貿易商会は母が経営していますの。ゆくゆくは私が引き継ぎ、その秘書に殿下をする予定でした。婚約破棄した相手と働きたくありませんわ。」
「お前のとこだったのか…。しかし職務に私情を挟むのはおかしい!」
「無能を秘書にする気はありませんの。」
「なっ。私のどこが無能なんだ!」
「全部ですわ。外国語もろくに話せない。私情で一方的に契約破棄をする。まともに交渉もできない。王子教育もろくすっぽしてこなかったから教養も無い。どこに雇いたい理由がありますの?」
「私は第三王子だぞ!王族とのコネができるではないか。貿易商ならその肩書が優位に働くだろ。」
おっ。無い頭を頑張ってひねったようだ。しかしそれも的外れである。
「我が王国は小さな島国です。ちっぽけな国の肩書きなど何の役にも立ちませんわ。」
「じゃぁ何でお前は私と婚約したんだ!」
「押し付けられたからですよ。」
「へっ?」
バカ面が本当にひどい。多少なりとも王子教育を受けていれば、諸外国との立ち位置も理解していただろう。このバカ王子はそれすらも覚えていないのだ。
「王家としては大帝国との繋がりを強化したいから無理やり婚約させられましたの。王命じゃ断れませんのよ。」
まだ伯爵だった祖父が外交官として働いていた時に、父を従者にして大帝国に訪れた。祖父としては見聞を広めて欲しかったのだろう。そこで母に一目惚れされ、母に押し切られる形で結婚した。圧倒的な力の差がある大帝国と国交を結び、不可侵条約の締結。以前は属国に近い扱いを受けていたので偉業にも近いものがあった。また大帝国からの圧力もあり、公爵位を授かり父に代替わりをした。