バカ王子の視点2
城に帰宅してまず父上に婚約破棄を伝えたら殴られた。
「お前はバカか!ワシがどれほど大変な思いで婚約させたと思っている!」
父上の怒った顔など初めてみた。何でも許してくれた父上が…いつも悠然たる態度の父上が…顔面を蒼白にして頭を抱えてその場で崩れ落ちた。そしてブツブツと何かを呟いている。
「大帝国に消される。早くなんとかせねば…。」
コーステリア公爵令嬢の悪逆非道を伝えようとしたら怒鳴られた。
「証拠はあるのか!このバカ息子が!」
そしていかにクレイア男爵令嬢がポンコツで、コーステリア公爵令嬢に一切の非が無いかを説明された。王族の周辺調査などには常に目を光らせ、所詮は子供のお遊びと無視してきたこと。現に公爵令嬢に危害を及ぼす事は一切起こっていない。だから公爵家も黙認していた。
父上が立ち上がりながら無感情な声で言った。
「こうなっては仕方が無い。お前は王族から除籍する。爵位も一切与えぬ。今後何が起ころうとも王家は関与しない。また関与することを許さない。」
もともと公爵家に婿入りする際に除籍は決まっていた。アイリスには弟がいるので爵位は弟が継ぐ。だから私に変な肩書きなどあっては困るとの事だった。
「可能な限り早く荷物をまとめなさい。生活ができるようにだけはしてやる。今日はもう良いから下がれ。」
そう言うと部屋から追い出されてしまった。
廊下には兄上達が居た。
「私達も話がある。」
そう長男に言われて部屋に連れて行かれた。
兄上達と対面する形で座ると、長男が口を開いた。
「コーステリア公爵家から正式に、お前の付き人の件が白紙になったと連絡が来た。お前がパーティーで遊んでいる間に、父上と色々手は打ってみたんだけどね。」
兄上は何枚もの文をテーブルに広げた。
「外交補佐官を解雇されたお前に他の公務は任せられない。それでも庭師くらいならと聞いてみたが、ダメだったよ。あと、友人達に雇ってもらえないか聞いてみたが、全滅だった。これらはその文だよ。」
兄上達のご友人達は高位貴族がほとんどだ。彼らが断るようならもうどこも雇ってはくれないだろう。
「何でパーティー会場に紙とペンがあったんだろうね。無ければお前が笑われて終わったのにね。お前の秘書は、今後を考えてコーステリア公爵家ゆかりの者だったのを忘れていたのか?」
そう言われて思い出した。そうだ、彼は公爵家から紹介されたんだった。一応、紙とペンを用意しましょうと提案したのも彼だった。まさかアイリスは知っていたのか?
兄上達が呆れた顔でこちらを見ていた。珍しく次男が口を開いた。
「お前は考えが足らなすぎる。明日の朝、王家御用達の商人が来る。雇ってもらえるか聞いて、自分がいかに浅はかだったか思い知りなさい。」
そしてやっと解放された。今日は疲れたからもう寝よう。明日には商人が雇ってくれるはずだ。
朝食を手早く済ませ、登城している商人達に職は無いか聞いてみる。不思議なことに皆が既に婚約破棄をしっていた。そして皆が一様に、
「恐れ多くて我が商会では殿下を雇うなどできません。」
と言われてしまった。
商人がダメなら貴族だ。書類整理でも代理領地運営でも何でもやればできるだろう。高官達を捕まえては聞いてみるがこちらもダメだった。
なぜダメなんだ…私は王族で、皆が繋がりを欲しがるはずだ。こんなのはおかしい。きっとアイリスが根回ししたに違いない。なんて卑怯なヤツだ。文句を言ってやらねば気がすまない。そう思ったら吉日。すぐさま馬車に乗り込みコーステリア公爵家へと向かった。




