失ったもの
「私は認めない!お前が全ての原因じゃないか!」
このおバカさん大丈夫かな…そろそろ説明がめんどくさくなってきたから切り上げるか…。
「我が家は婚約を望んでいませんでした。一方的に婚約を申し付けて来たのですよ。正規ルートで婚約破棄をしていただければ、それに応じたでしょう。あんまりくどいと我が家も全力で殿下に牙を剥きますよ。」
バカ王子が怯んだ。目を泳がせながら、ポツリとつぶやいた。
「私は、大手商会の就職も、伯爵位も、あわよくば王位も全て手放したのか。」
やっと現状に気がついてくれたみたいだ。私は入口付近のメイドに目配せをする。メイドが察してドアを開いてくれる。
「殿下。後悔ならご自宅でしてくださいませ。さようなら。」
「待ってくれ。もう少しだけ話を。」
バカ王子が慌てて取り繕おうとしたが、そんな隙は与えない。蔑んだ目と冷え切った声で促す。
「お帰りください。二度とお会いすることは無いでしょう。さようなら。」
その声を合図に廊下に待機してた護衛二人が王子を羽交い締めにして部屋の外に連れ出していった。
しばらくの間、バカ王子の叫び声が聞こえた。
「話はまだ終わってない!」
「もう一度チャンスを!」
結局、最後まで謝罪の一言も無かった。




