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第六話 悲しき制裁

 九


 俺は母を呼び、トゥーを置いて全力で駆け出す。背後から俺を呼び止める女の声が聞こえた気がしたが、それさえも気にならない。全身の血が沸騰したように目の前が真っ赤になり、俺は隠し持っていた短剣を抜いた。


「もう一人の墓の守り人が来たぞ!」

「殺せ!」


 鍬やら斧やらと物騒なものを持った村の男達が俺に向かって刃物を振り上げるが、俺は足を止めることなく彼らに飛び込む。躊躇なく短剣を押し込めば、恐ろしく滑らかに刃は柔らかな肉に割り込んでゆき、俺がその刃を引き抜けば、血飛沫が大層見事に吹き上がった。その熱い鮮血を浴び、俺の理性は崩壊していく。狂熱に全てを支配され、それは遥か昔から俺の体に受け継がれる墓の守り人の血のなせるわざであったのかもしれない。ともかく村人の怒号と叫喚も、己の体に滑る鍬と斧の激痛も、全身に浴びる液体の熱も、その全てが俺を狂わせ自我を失わせる興奮剤にしかなりはしなかった。墓地に侵入した者は皆殺さねばならぬ。特にその村人の手に死者に咲く花が握られていればなおさらだ。そして何より母が血の海に沈んでいるとあれば、それは俺を激情に駆らせ殺戮に向かわせるのには十分だった。決して花を使わせてはならぬ。俺は村人を即死させるため、喉を的確に斬り割いていった。


「イエン!」


 女の声が聞こえる。しかし視線は逸らさない。体に鍬が突き刺さろうと、腕を斧に切り落とされようと、ただ墓の守り人の本能のまま、死者に咲く花を摘み取った罪人を死の深淵へと突き落とす。死に向かう村人達の咆哮を、その喉に短剣を突き刺すことで止めてゆく。


「殺せ! 墓の守り人を殺して花を奪わねば、俺達に未来はないと思え!」

「家族を守るために戦え! この化物を恐れるな!」

「死の流行病はもう隣町まで迫っているんだ! 今薬を手に入れねば私達の村は壊滅するのだから!」

「家族のために、こいつを殺せ!」

「恐れることなく戦え!」

「薬を渡そうとしない墓の守り人は我々生者の敵だ!」

「生者を見殺しにする罪人の息の根を止めろ!」

「――化物を殺して、薬を奪え!」


 そう口々に喚く村人達を、殺す。

 どれほど戦い続けただろうか。気がつけば村人は皆、喉を割かれて地に伏しており、純白の花がちりばめられた血の海に、俺も倒れていた。体中を斬り割かれ、片手を落とされ、それでもまだ意識があるのは奇跡に他ならなかった。



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