アニマ・ラピス
「何だ、お前達は!? 」
――――壁を壊し、現れた牛の獣人族の男とカンフー服の髭を蓄えた老人が、俺達、めがけ向かってくる。
「カカカ、牛王お前は、あのパジャマの黒人を狙え、ワシは、あの、伝説の剣闘士…カヴァリエーレ・アダルベルト・ドゥーニを倒す」
「仕方のない、爺さんだな…さて…こっちも片付けるとしますかね、スカーフェイスさんよ!」
俺は急いで点滴を外し、牛王の、突進を避ける。
体格が違い過ぎる、俺が身長180センチぐらいに対して相手は3メートルはある。
だが、やられっぱなしじゃあ…いけないよなぁ、俺は牛王に近づき、ボクシングのオードソックスの構えから、相手のがら空きのボディに拳を叩き込む…がっ!?
「何だ? そのへなちょこパンチは…パンチていうのは、こう打つんだよ!!」
牛王の右ストレートが迫り、俺はガードを固めブロッキングするも、余りの力に…後ろへと飛ばされ壁に激突する。
「ガハァ!!」
なんちゅー力だ…獣人族でもここまでの力があるなんて、聞いた事ないぞ。
このままじゃ、こちらが殺られる。
どうにか、せねば!
「スカーフェイス!!腹に力を入れろ!」
爺さんと戦ってるアダルベルトがこちらに、向けて言う。
腹に力を入れろたって、くそー、こんな切羽詰まった状況で何が起きるんだ。
壁に寄りかかってる俺に牛王が追い打ちをかけるように、蹴りを入れて来た!
こうなりゃ言われた通りに、腹に思いきり力を入れた。
その瞬間、体にこれまでにない、力が入るのが、分かる。
―――――これは何だ!
牛王の蹴りを俺は避けず、受け止め押し返した。
牛王はそのまま、吹っ飛ばされて、今度は牛王が壁に激突した。
「何が…起きた? テメェ、力を隠してたなーー!」
この力はいったい…いや、それよりも目の前の脅威を何とかせねば。
俺は先程と同じように、ボクシングのオードソックスな構えから近づいて、牛王のボディに拳を叩き込むと、牛王は膝から、崩れ落ちるように、腹を押さえてダウンした。
「ゴボぉ…くーー、俺様がたかが普通の人間に…フシュー、フシュー!」
「もう止めとけ、お前は俺に勝てない」
「調子に乗るなよ、たかが普通の人間に、この牛王様が遅れを取ってたまるか…」
ダウンしながらも、強がりを言う牛王に俺は質問する。
「お前達は、何者なんだ? 何で襲って来た」
「ふん、何者ですかって、それはお前が良く知ってるんじゃないか」
俺が良く知っている…ユースティティアの残党か…いや、獣人族をメンバーに入れたなんて聞いた事もない…
―――――なら、
「パトリオット・アセンブリか、その系列の組織の者か!」
「へへへ、正解! お前、頭悪そうだが、意外と察しはいいな、本命はフィクサーだったけど」
「牛王!!我々の正体を軽はずみに言うな!」
アダルベルトと戦ってる爺さんがこちらに向けて怒鳴りつける。
なーるほど…それでか…って何故、フィクサーが狙われてるんだ?
何か…恨みとか…弱みとか…そんな俺の疑念を余所にあちらも戦いの終わりの目処が立ったのか、爺さんはこちらに向かって牛王を肩に、抱える。
「スカーフェイスと言ったか…お主、中々、
やりおるのぉ、牛王をダウンさせるなんて、普通の人間では出来ない所業じゃ、《《普通のプロボクサーではな》》」
老人はそう言い残し、軽い足並みでその場を去った。
あんな老人なのに…なんて身体能力だ…それは、さておき、俺は、アダルベルトへ視線を向けた。
細身の剣を鞘に納めた、アダルベルトは俺に言う。
「スカーフェイス、これが我々が戦おうとする、相手だ」
アダルベルトは澄ました顔で言い放つと、俺は「我々じゃねぇよ、こっちは聞きたい事が山程、あるんだつーの!」
「例えば?」
「お前ら、俺の体に何しやがった? 何か凄い力が湧いて来たぞ!」
「ああ、その事か…それは治療の一環として、ある物を君の体に埋め込んだ」
「ある物?」
「そう、アニマ・ラピス、人体の治癒効果を脅威的にまで上げ、且人体の身体能力も飛躍的に上げる、魔法科学の集大成とも言える物だ」
「それを俺の体の中に?」
「そう、心臓にね、埋め込んだ」
「馬鹿野郎!」
俺が殴りかかると、それを見事な足捌きで避けられた。
「何故、殴る? 君はアニマ・ラピスのお陰でこうして生きていられるんだよ」
「それじゃ、ドーピングと同じじゃないか!元のプロボクサーとして復帰出来ねぇよ…」
「そうだね、でも残念なのか幸福なのか、それはドーピング検査には引っ掛からないよ」
「そういう問題じゃねぇ、俺だってプロとしての誇りがあるんだ! こんな訳の分からない物で復帰して勝っても嬉しくねぇよ…」
「スカーフェイス、さっきも尋ねたね…プロとして日常に戻るか、我々に協力してパトリオット・アセンブリと戦うか、さっきは反対してたみたいだけど…」
フィクサー達、反パトリオット・アセンブリ及び系列組織と戦う。
←
再び、プロボクサーとして日常に戻る。
フィクサー達、反パトリオット・アセンブリ及び系列組織と戦う。←
再び、プロボクサーとして日常に戻る。
俺は、まだ納得してないが…やらざる得ないだろうと選んだ、納得はしてないが。
「不満のようだね、さて、外も騒がしくなってきたね」
外には、パトカーのサイレンが鳴り響いていた。
こちらに向かってくる。
「ここは、フィクサーの発明品の移動魔法陣を使おうじゃないか」
アダルベルトはコートのポケットからガラスの瓶を出して、地面に垂らす。
すると、魔法陣が現れた。
「女性と一緒とエスコートしないのが、残念だが、さあ、君も魔法陣に乗り給え」
「お、おう」
眩い光と共に、俺達はどこか何処へその場から消え去って言った。




