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フォーゲット・ミーノット

「フォーゲット・ミーノット、準備は出来ているのか?」


「はい、出来てます」


※※※


何万人入るかも知れない、このスタジアムで歌うんだ。

―――でも、そんなに来てるのかな、控え室からじゃ、確認出来ないし、いや駄目だ、お客様の数じゃない、例え、0人でも歌わなきゃ、私は何たって、数々の歌手の憧れの地アドマイアスタジアムで歌うんだ。

ここで、怖じ気ついたら、駄目だよね。

お客様にだって失礼だし、何よりここまで、準備してくれたみんなにも顔向け出来ないよ。

ここまで来て何を照れてるだろう////、私ったら本当に歌えるのかしら。

そんなこと考えてたら控え室のドアからノックが…開けたらマネージャーがそこにいる。


「大丈夫?顔真っ赤じゃない、いつも言ってるじゃない、客の事は犬なり猫だと思えって」


私、そんな器用な事出来ないんだよ、マネージャー、私はいつも人の前では、こうやって緊張して顔真っ赤で、歌ってることは貴女だって分かってることじゃない〜、もーー、私

だって好きでこんなんになってる、訳じゃないのに。


「あらあら、《《そんな事が出来れば苦労しないよって》》顔にでてるわね」


「そんな事…あります、でもローレルだって緊張してるんじゃない、こんな大舞台初めてでしょ」


ローレルはマネージャーだ、今までだって私を仕事のスケジュール管理や心理面でも、支えてもらえたけれど、こんな大仕事は彼女だって初めての筈だ、


「あんたを信頼してるからよ、私の心配なんて杞憂だわ」


「うん、そうだね…そうだよね」


よーし、やってやるんだ、私でも出来る事を、今、証明してみせるんだ。

トントンとノックが鳴ると、鋭い目の会場の支配人が私に「フォゲット・ミーノット準備は出来ているのか?」って、言うと、私は、「はい、出来てます!」と返事をした。

会場までの関係者通路を一歩一歩歩く度、胸の鼓動が高鳴る、これは出来る時の高鳴りだと、不思議と過度な緊張は和らいでいった。

そして、会場の舞台に着くと数えきれない、お客様が、私の歌を聴きに来てくれてる。

場内アナウンスが『只今より、フォゲット・ミーノットより《《あの街へ》》が、歌われます、会場の皆様、盛大な拍手を以てご覧ください』

私は拍手の中、一礼をし、マイクの前に立った。


「それでは…歌います、あの街へ…」


お腹から肺を通して、ビブラートを効かせてた音程が、私の口から奏でる。

必死に、身体中で歌うように、音を出すとお客様は、聴き入ってくれてるようだ。

まだ、まだ、まだだ、こんなものが私の全力じゃない、私は故郷を思い出して歌っていた。

死んだお父さんの事、お母さんの事、孤児院に行って別れた兄の事、街での寂しさは、孤児院で歌ったこの歌で紛らせていたなぁ。

最後まで、歌い切ると、会場からは盛大な拍手が迎えてくれた。

最初から最後まで、こんなに迎えてくれる場所が、この場所であり、私、フォゲット・ミーノットなんだって実感できた。

最後に一礼し、会場をあとにした。

控室に戻ると、マネージャーのローレルが抱き着いてきた。


「ミーノット、貴女、最高よ、想像以上だわ、みんな大絶賛よ」


「そんな大袈裟だって…」


「そんな小柄な身体で、どこからあんな綺麗で声量のある声を出せるの、本当に不思議」


私は余り褒め慣れてない、だから顔を赤く染めて照れ隠しに、わーー! って叫んじゃった。


「どうしたの!?」


「照れ隠し」


「もう、驚かせないでよ」


ローレルは、嬉し泣きを拭いなぎながら、私に言う。


「さあ、帰りましょ、車も用意してるわ」


「うん、そうだね」


私達は、用意されてる車へ向かうと、外は、月明かりだけが、私達を照らしていた。

何だか、ロマンチックだなーって思っていたら、キャーー!?とマネージャーの悲鳴が。

よく見ると、周りを男達に囲まれていた。


「あんた達、警備の人を呼ぶわよ」


「あん、それなら、そこで猿轡にしておねんねしてるぜ」


「目的は、お金?それなら…」


私は懐から財布を出し、男達の前に投げた。


「違う、違う、用は貴女だよ、フォゲット・ミーノットさん」


どうして、私に…彼らに犯行を掻き立てる要素なんて…身代金目当てだったとしても、うちの事務所なんて弱小でたかが知れてるのに。

「分かったわ、マネージャーを離して貴方達の言う通りにするわ」


「よしよし、物分りのいいお嬢様で助かるわ、おおーっとそう睨むなって、その端正な顔が台無しだぜ」


悔しい、こんな所で、訳の分からない連中の好きにされるなんて。

私が、手を後ろから縄で縛られて、連中に連れていかれそうになった時…妙な事が起きた。

男達が、次々に倒れていくのだ。

私を捕えていた男もその人に向かうと、あっと言う間に、地面にひれ伏せた。


「がはっ!?」


「夜中に、まさか女の子を連れ去ろうとする馬鹿がいるとはな、ズィクタトリアも治安が悪いじゃねーの」


「《《スカーフェイス》》、こっちは大丈夫だぜ」


「よし、タケシよくやった、おっとお嬢ちゃん、縄で縛られているな、今、解いてやる」


「うん…」


縄から開放された私は、すぐにマネージャーに駆け寄った。


「ローレル大丈夫?」


「私は大丈夫よ、貴女も傷が無さそうで安心したわ、不幸中の幸いだわ」


あっ、あの人にお礼を…言おうとしたら、もういなかった。

まるで、涼風のように私達を助けてくれたあの人は一体…。

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