それぞれの思惑
翌日、8月11日、明朝、俺は、同じ寄宿舎に泊まっている
(寄宿舎は男子寮、女子寮に分かれている、部屋は2人で共用する形だ)
アザレアちゃんに話しをする為、女子寮のアザレアちゃんの部屋をノックする。
すると、出て来たのは、ダマトジムにプロ志望で入門してきたケイティ・シールズだ。
階級はフェザー級(57.15キロリミット)の選手。
黒髪の白人で、普段は無愛想だが、笑うと可愛い人だ。
「おはよう、ケイティ」
「おはよう、タケシ、どうかしたかしら?」
明朝だからか、普段の無愛想さに輪にかけて、無愛想に見える。
俺がアザレアちゃんに用があると、伝えると彼女は、「そう…待ってて起こすから」と言って、ベットのある部屋まで引き返していった。
数分後、アザレアちゃんは眠そうに「おはようございます、タケシさん」と言って、出て来る。
俺が、今日はベゴニア君を学校へ連れていくとを伝えると、彼女は「そうでしたわ、いつも通りに過ごしてましたわ、時間は…」
「まだ、間に合うよ、俺が車で送っていくから」
慌てる彼女を落ち着かせ、ベゴニア君を学校へ送る為、駐車場へ移動する。
※※※
「いい、ベゴニア、学校ではお行儀よく、過ごすのよ!」
「うん、分かってるよ、お姉ちゃん」
「はは、そんなに気負わなくても、気楽にいこう」
「いけませんわ、タケシさん、学校に行かせるのも、世の中には色んな人間がいる事を学ばせる為ですわ、みんなが善意で接するとは限りません! その事を胸に学校に行ってくるのよ」
そうだった…ほんの少し前では、彼女はユースティティアというマフィア組織に在籍してたんだ、人間の暗部を知り尽くしてる彼女に言わせれば、学校も競争社会に入ってる歪な物と捉えてるんだろう。
まあ、心配もするだろうなぁ。
「さあ、学校までレッツゴーだ!」
俺は車にエンジンをかけて、出発した。
※※※
「ダニエル警部! おはようございます!」
「おはよう、ロベルト巡査」
フレイタス署内にて、ユースティティアは首魁のロジャー・セラノが例のズィクタトリアでの爆発事故で亡くなり、文字通り瓦解したと、署内だけでなくデーモスクラトス中の警察機構には認識されていた。
だが、瓦解、その為に…あの男…スカーフェイスが犠牲になった事は忘れてはならないと、俺は、ダニエル・J・コーベットは思っていた。
無論、スカーフェイスが死んだとは思ってないが…奴とはまたリングで相まみえたい。
そう言えば…そろそろだが、アーロン・ウィプマンが執行猶予付きで、釈放される筈だ。
あの男もユースティティアがロジャー・セラノが収監された時に、行き場を無くし、惚れていたフォゲット・ミーノットに入れ込んでいたものの、彼女がスカーフェイスの事を好きな事に、ヤケになり、事件を起こしていた…同様の事件が起こるとは、思えないが…ユースティティアの残党をどうするか…アザレア・バルベラとマイク・ジョーンズにでも、相談してみるか。
だが、仮にユースティティアの残党を何とかして、この国の安寧は保たれるのか…俺は、隣国、ズィクタトリアの動向も気になる。
そんな事を考えてると、先程、挨拶を交わしたロベルト巡査が俺に客が来ていると、言う。
誰だと、聞くと…ジャーナリストのアレキサンダー・ガッティとサミエル・エルナンデスの両人が俺に話しがあると言うのだ。
応接室に通しておけと、伝えると、ロベルト巡査は「分かりました」とその場を離れた。
※※※
「メイドさん…あんたは何者なんだ…それに、そこにいる、爺さんも俺にここまで治療してるのは、何が目的なんだ?」
見慣れない部屋、点滴を打たれてる俺の質問に老人が答えた。
「なにぶん、身分を明かせる立場ではないのでね、メイドは名前はミュスクルという私の身辺を手伝ってくれる、万能のメイド…といえば、いいかな…君を治療してるのは、私に協力して欲しいからさ」
協力? それはどういう意味なんだろうと考えてると、眠気が襲い、俺は目を閉じ、そのまま、眠りについた。
※※※
「ご主人様、あの男をどう扱うつもりで?」
「何、彼にはある勢力と戦う、戦力になって貰いたいのさ、《《我々》》だけでは、心もとないからね」
「ご主人様…例のバーノン・ルイスが決めた"特例優勢遺伝保護法"に反逆するつもりでですね」
「ああ、あれが可決されたなら、こちらも黙ってはいられない、だが、独裁者である彼にそう簡単には、近づけない、決起するにも、敵は多い、パトリオット・アセンブリ…彼等は、ロジャー・セラノが起こしたロジャー教の残党を取り込もうとしている、極めて危険な集団になってきている」
「ご主人様、それは関わらないで、デーモスクラトスへ逃亡して…」
「ミュスクル、それは意味がない事だ、何故ならユースティティアが両国を跨いで活動してた時に、パトリオット・アセンブリ、今は、ズィクタトリアにいるが憂国の集いといった集団は、いずれデーモスクラトスにも現れる…いや、もう規模は小さいが出来てる、自分達の都合の良い人間、エルフ族、ハーフエルフ族、獣人族を選定して過去の民族浄化のような悲劇が起こるだろう」
「それは、嫌ですね…私に流れてる獣人族の血がそう言っているのか…拒否感マシマシです」
「ミュスクル、そうだったな、君は、母方の祖父が獣人族だったな、そのミオスタチン関連筋肉肥大に似た特異体質も、その血が関連してるんだろうが…今のはどうでもいい、話しだったな」
「いえ、ご主人様の話す事にどうでもいい事などありません」
「ありがとう、さて…彼が目覚めたらなんて説明するか…」
私、フィクサーがこれから起こる、戦いにスカーフェイスを巻き込む訳だが……今、読んでいる貴方方もこの行く末を見守って欲しいのです。
それでは、またの機会を。




