試合決着
―――――カーン!!
第7ラウンドのゴングが鳴った。
スカーフェイスはタートルシェルの構えから、左ジャブを繰り出し、コーベット警部に圧力をかけるように、前に出る。
コーベット警部も前に出て、スカーフェイスの防御の隙間を見逃さず、左フック、右アッパー、左ボディフックと打ち込んでくる。
スカーフェイスは、隙間からの打撃をもらい、左の傷跡から出血し、後退する。
コーベット警部は後退するスカーフェイスに、左ボディ、右ボディへと叩きこみ、スカーフェイスを更に追い詰めていく。
サークリングしながら、コーベット警部の攻撃を凌ぎながらも、ただ、防御に回るだけでは、なく、左リードジャブをボディへ2回放つと、右オーバーハンド…ボラードを放った。
それは、コーベット警部の左側頭部に当り、あわやダウンを奪えそうだったが、コーベットは踏ん張り、距離を取る。
そのままコーベット警部を追い、追い打ちをかけようとスカーフェイスが向かい、右ストレートを打ち込んでいく。
それをコーベット警部は、ウィービングで躱しスカーフェイスの左ボディへフックを打ち込むが、スカーフェイスも打ち込まれた瞬間に、左フックでコーベット警部の右側頭部へ一撃を食らわせた。
これで、コーベット警部がダウンし、スカーフェイスもボディへの一撃でダウンする。
ダブルダウンだ!!
珍しい出来事に会場から『おお!?』と、どよめきが起きる。
2人にレフェリーが10カウントを数えると、2人は立ち上がり、両方、戦う意思を見せると…レフェリーは2人の状態をまだ続行可能と、みなし、試合は続けられた。
底なしの気合と精神力で、2人のボクサーは戦った、振り絞る気力で、戦い、第7ラウンドは終わった。
インターバルに入り、傷跡の止血をヤンさんは必死にやり、ブレンダンさんは「あと1ラウンドだ、頑張れ!頑張れ…スカーフェイス!」と檄を飛ばし、俺も氷嚢でスカーフェイスの火照った体を冷ましながら、「スカーフェイス、頑張れ!ブレンダンさん、ヤンさん、俺、みんなが応援してるから!」
スカーフェイスは笑みを浮かべながら、「あいつに勝って…ロジャーの奴も何とかしないとな」
ああ…そうか、スカーフェイスの戦いは試合が終わっても…
だけど…
「スカーフェイス、今は試合の事だけ考えてろ、ロジャーはみんなで何とかしてみせるから!」
「期待はしてないが…ありがとう…タケシ」
※※※
―――――ダニエル・J・コーベット陣営
「ダニエル、あと少しだ、スカーフェイスに勝てるぞ」
「ふふ、それはどうかな…あっちに大分、ポイントを取られたかもよ」
「ダニエル!!何を弱気な事を!」
セコンドに氷嚢で火照った体を冷ましてもらいながら、俺は次のラウンド…最終ラウンドへ向けて、気合…気力を貯めていた。
俺の弱気なセリフにセコンドは、「勝つのは、お前だ!」と喝を入れられた。
「そうだな…スカーフェイス…悪いが今回も勝つのは俺だ」
「その意気だ」
水分も摂り、闘志を燃えさせ、最後のラウンドに臨んだ。
※※※
会場が見守る中、2人は、リングに向かった
――――――ラストラウンド、Fight
――――――カーン!!!
ゴングが鳴り、2人はグローブタッチし、リング中央で向かい合う、8月の夏の日…外は灼熱に近い暑さだが、この会場はドームで冷房も効いてる筈だが、会場の観客もリングの2人も…今、この瞬間も燃えあがっていた。
そして…2人共に、リング中央で最後の気力を振り絞り、打撃戦を繰り広げる。
スカーフェイスが、コーベット警部の左ジャブをサイドステップで躱しながら、同じく左ジャブを出し、牽制する。
スカーフェイスは、ガードを下げ、コーベット警部と同じ、デトロイトスタイルに切り替えた、フリッカージャブでコーベット警部を狙い打ちする。
コーベット警部は、逆にタートルシェルの構えで、ブロッキングし、距離を一定に保ったまま、サークリングし、スカーフェイスのボディに左ボディジャブを、放つ。
それをサイドステップしながら3回ぐらい繰り返し、右ストレートを打つと、スカーフェイスがウェービングしながら、掻い潜り、右ボディへ渾身の一撃を繰り出した。
だが…それをコーベット警部は、ガードし、逆に、至近距離にいるスカーフェイスに、左フックを振りかざす!
それをスウェーで、躱しつつ、右ストレートでコーベット警部のガードの隙間を通すように、打ち込んでいた。
2人の打撃戦は、佳境に入り、2人共、ガード無しで打ち合いを始めた!
スカーフェイスが打たれ、打ち込み、コーベット警部も打たれ、打ち込み、時間にすれば短い時間、15秒ほどだが、会場も2人の打ち合いに興奮している。
打ち合いに消耗している2人だが、まだまだ、時間はある。
だが…時間は確実に経ち…2人のボクサーの明暗を分ける一撃が放たれた。
それは、接近戦でスカーフェイスの左アッパーが入ったのだ。
そして…これにダウンしたコーベット警部、
レフェリーが10カウントを数え、立ち上がり、レフェリーもコーベット警部の状態を見て試合を続行させた。
戦局はスカーフェイスに向いていた。
試合も終盤に入り、残り10秒の拍子木が鳴る。
コーベット警部はスカーフェイスを攻める、スカーフェイスもそれに迎え撃つ!!
激闘もこれで、終わりなのか!
そして…スカーフェイスとコーベット警部は互いにフックを放ち、相打ちになるもどちらも一進一退の攻防を続け、遂に…
――――――カーン!カーン!カーン!!
激闘の幕切れだ。
コーベット警部とスカーフェイスは抱き合い、健闘を互いに称え合った。
セコンドもリングに入り、両陣営、入り乱れる。
主催者である、ドン・フレジャー氏もリングに上がり2人の健闘を称えた。
「2人共、いい勝負だったよ!お客さんも大満足さ、また、試合ある時は、呼ぶからね」
ドン・フレジャー氏は非常に満足そうだ。
さて、まだ終わりじゃない、試合は判定だ。
リングアナウンサーが、ジャッジから受け取った、採点表を読み上げる。
『ジャッジ…ミッキー・ガルシア…74対74、アルツロ・ルーカス…74対74…、マイク・ベンジャミン73対74…勝者!!スカーフェイス!!!』
勝った!!僅差だが、勝ったぞ!!
会場も大盛りあがりだ。
「スカーフェイス!やったぜ!!お前の勝ちだぞ!」
「おう、分かってる…ほんと…僅差だな」
「スカーフェイス!!」
コーベット警部がこちらに近づいて、「おめでとう!!たった今からロジャーを確保する、お前は勝利インタビューを受けておけ」
「なっ!?コーベット、ロジャーの奴が見当たらないぞ!」
「部下に追わせてる、心配するな、まだ会場の中にいる、それより…気を付けろ!例の集団がお前を狙っている…」
コーベット警部は、リングを降りて、警察仲間と合流している。
会場を見渡すと、ピエロの仮面を着けた人間が、こちらに向かってくるのが、見える。
それを阻止しようとする、黒服の姿も…
マイク・ジョーンズ…仕事はきっちり、果たしてくれたようだ。
スカーフェイスの事情など、知らずに勝利者インタビューを行おうと、インタビューアーがリングに上がり、呑気にスカーフェイスに『おめでとうございます、スカーフェイス選手、今、どんな気持ちですか?』
『あー…試合に勝てたのは、嬉しいし、結果を出すたのは、ジムの仲間やセコンドのみんなと応援してくれた人のお陰ですね、ただ…ごめんなさい、勝利者インタビューはまた今度で!』
スカーフェイスはリングから降りて、コーベット警部のいる方へ、駆け去っていった。




