スカーフェイスの計量
――――――2ヵ月後
8月3日、ズィクタトリア首都アイデアル、アイデアル・スタジアムで、明日の試合の為の前日野外公開計量が行われた。
試合の話題を聞き付けた、マスメディアが注目する中、ミドル級体重リミット72.525キロに落とせてるか、俺とコーベットの両陣営が計量場に集まり、体重計に乗る。
先ずは、俺からだ。
着ていたジャージーを脱ぎ、上半身は裸で下は、パンツ1枚になり、靴も靴下も脱ぎ、計量台へと乗る。
――――――結果は…72.425キロ
計量をパスした。
俺はジャージーのズボン、靴下、靴を履き、次のコーベットの計量を見守る。
コーベットもパンツ1枚になり、計量台へ乗った。
――――――結果は…72.426キロ
コーベットも計量をパスした、そして、計量をパスしたので、計量台の前で、フェイスオフをする。
その、瞬間をマスメディアのカメラのフラッシュが続々と焚かれた。
互いに、これ以上やることがなかったから、20秒位のにらみ合いで、終わった。
インタビューで印象を聞かれ、「コーベット選手は以前と変わらず冷静な印象を受けました、前回ではKO負けしましたが、今度は俺がKO勝ちして、リベンジしたいと思ってます」
インタビューも終わり、ホテルに向かい、休息を取ろうとすると、コーベットに会った。
「スカーフェイス…試合は今回も勝たして貰うぞ…あと、ロジャー・セラノが来てたみたいだ」
「ロジャーがか…大胆、いや余裕なのだろう…」
「だろうな、俺たちの試合も奴にとっては、余興みたいなもんだろ、警官隊はこの辺のホテルで待機させてる」
「仕事が早いな…ダニエル警部様は、こっちもマイク・ジョーンズに頼んで、周辺の元ユースティティアの事務所に待機させてる、お互い、やることは、試合のみだな…」
「ああ、ロジャー・セラノの事も気になるが、互いに全力を尽くそう」
そう言って、右手を差し出し握手を求めた。
以前は、断ったが…今回は応じ、力強く握った。
「あんたは、最初、いけ好かない奴だと、思ってた…」
「それは、お互い様だ、俺はお前を捕まえようとしてたからな」
「「フフフ…」」
「「アッハハハハハハ!!」」
俺達は笑った、俺は仮初めとはいえ、反社会的組織、元ユースティティアに在籍してた身、コーベットは、それを追って法の裁きを受けさせようとした身、相反する2人がロジャー・セラノという共通の敵を捕まえる…試合では全力で迎え撃つが、こうして試合前に落ち着いて、談笑してるのが、面白くて笑いあった。
※※※
「スカーフェイス!」
ホテルのロビーに着くと、タケシが駆け寄ってきて、これから食事をしようと言ってくる。
「食事か、そうだな、腹減ってるし…」
「サミエルとリカルド、マックスにブレンダンさん、あとなんとダマトさんが応援に来ているぞ」
「おっさんが!?」
「私も来ているよ」
「アムール!?」
後ろから声をかけられ振り向くと、そこには金髪のブロンドヘア、碧眼のあの人がいた。
「ガーベラったら試合あるなら、連絡ぐらい寄越してよ、私、ハブられてるみたいじゃない」
「いや、アムール…今回の試合は、だな…色々危ないというか…」
「どう危ないの?」
俺が困っていると、タケシがすかさず、「フォゲット・ミーノットさん…今回はホテルで応援しましょう! 今回は反社のボスが会場に来てるんだ、俺達も身内は特に女性に子供は会場に連れて来てないんだ! スカーフェイスの事を想うなら、会場での応援は止めてくれ」
「そうなの…ガーベラ…」
「ああ、今回は君の安全の為にも…妹や弟もデーモスクラトスで応援してもらう事にしてるんだ」
「そうなのね…そんな事情があったとは、知らなかったわ…」
「いや、俺も悪かった、一言でも事情を話すべきだった…」
「謝らないで!もう、あなたが来ないで言っても、私ならどの道来ちゃうから…そんなにへこまないで」
アムール…そこまでフォローしなくて大丈夫だぜ、寧ろ…本当の事を言うと嬉しかった。
「そういえば、タケシ、ダマトのおっさんも来ているって本当かよ」
「本当さ、【馬鹿弟子がどれだけ成長しているか見届けなくては!】だって、ダマトさんがそう言ってたよ」
おっさん…わざわざありがとうよ
――――――でも
「ダマトのおっさんにもホテルで応援してくれって伝えてくれよ」
「ああ、大丈夫、それは伝えてる」
それなら、安心した…さて
「飯を食いに行こうぜ」
「私も来ていい?」
「勿論さ、一緒に食べよう」
アムールも連れてみんなでホテルのレストランで飯を食いに行こう。
※※※
ホテルのレストランには、メディカルトレーナーのヤン、ブレンダン、サミエル、リカルド、ダマトのおっさんが先にテーブルに座っており、俺がアムールを連れてくると、皆、歓迎してくれた。
「タケシ、みんな、俺達の関係を知ってるのか?」
「そりゃ、SMS だっけ、あれで噂ぐらいは知ってるよ」
情報化社会、怖い!もう、こういうのは、ひっそりと交際したいものだ。
そんな事考えながら、テーブルに座ってると、ダマトのおっさんが俺を見て、「強くなったな、スカー」っと言う。
なんだよ、いきなりと思ってると、「ブレンダンに預けたのは正解だったようだ、お前が、あのユースティティアに入ると言い出した時は、何て馬鹿な事をしたと思ったが、今日まで逞しくなって、ワシは嬉しいぞ」
何だよ…照れるじゃないか。
そんなに褒めても、何も出てこないぞ。
「ダマトのおっさん褒めすぎだよ、俺はやるだけの事をやっただけだぜ」
「それが、出来ないボクサーがどれだけいるか…まあ、世界獲ったらもっと褒めてやる」
はは、おっさんらしいや。
「あのー、ガー…いや、スカーフェイスは試合終わった後、無事に帰れるんでしょうか…さっき、タケシさんの話を聞いて、私、不安で…」
「ミーノットさん、それは大丈夫です、我々はセコンドには入れませんが、会場で目を光らせています、何かあれば、すぐに駆けつけます」
サミエルが言うとリカルド、マックスが胸を叩いて、応える。
楽しい時間が過ぎさるのは、早いもんで食事を済ませると、ホテルの個室へ行った。
―――――20時
ロジャー・セラノが明日、試合後、手下共に何をさせるか…マックスがピエロなる集団が俺を狙ってると聞いたが、怖くないと言えば嘘になる、だが、今は試合に集中だ。
そんな時、扉をノックする音が聞こえ、警戒しながら、チェーンロックをかけたままで、扉を開くとアムールがいた。
チェーンロックを外し、部屋に入れるとアムールは抱きついてきた。
「明日、無事に帰ってこれるよね…」
アムールは不安そうに体を震わせながら、言うと俺は「ああ、きっと帰ってくる、帰って来たら…君の歌を聞きたい、独占で!」
「うん、歌ってあげる、だからきっと帰って来てね、ガーベラ…」
俺も彼女を優しく抱き絞め、「帰ってくるさ、きっとね…」
その晩…彼女との抱擁が何より貴重な物だと、俺は明日の試合で分かった。




