ダニエル・J・コーベット警部の過去
「大失態ですな」
「ああ、大失態だ、それも最大クラスの」
フレイタス署の署長室で、俺は刑務所から脱獄したロジャー・セラノについて話し合っていた。
「管轄は違うとはいえ、こうもあっさりと…いや…奴の事だ! 前もってズィクタトリアへ逃走する算段を前もって、考えていたのだろう…」
署長の言う通りだ、奴は監獄内で、刑務官の隙を見て、何らかの方法で外部と接触し、脱獄した。
奴には協力者も多い、だが、今回は奴と関係の無い者を厳選して刑務所にだって入れた筈だったのだが…とんだ笑い話だ。
奴は、今頃、ズィクタトリアで悪事に染めてるに違いない、悔しいが国を跨がれたら、こちらとしても、手の出しようがない。
「ダニエル警部!君はボクサーでもあったな、1つ、賭けてみないか? 」
「署長、仰ってる事が、分かりません」
「なーに、あの豚野郎を再び、監獄へぶち込む算段さ、君は、2ヶ月後、ズィクタトリアへ試合があるだろう…」
「それは…どさくさに紛れて身柄を拘束するという事ですか? 」
「ああ、あの男…見栄っぱりでもあるだろう、スカーフェイスと君の試合にも何食わぬ顔で、観戦しにいくんじゃないか? 」
「署長、お言葉ですが、それは難しいと思います」
「何故だね!?」
実は、俺はあれからスカーフェイスに連絡をしていた。
一昨日、あった試合で、スカーフェイス達は、会場に来てたロジャー・セラノを主催者に掛け合って出禁にしたそうだ。
案の定、あのクズめ、白人至上主義と新興宗教を掲げ、あの国で活動してるじゃないかと思いながらも、結果的にスカーフェイスの行動は、こちらの作戦に影響を与える形になった。
試合後に身柄を拘束するのは、難しい。
―――――しかし…
「署長、あの男はズィクタトリアにいる訳ですが、スカーフェイスがあの男の行動を目を光らせてます…強硬手段は最終手段になされたら方がいいかと…」
「君は…スカーフェイスを高く評価してるようだな…」
「いえ、そんな事はありません…俺は、あの男をスカーフェイスを利用してるだけです」
「ふふん、そうか…まあ…警察官の職務遂行の為とはいえ、今回で2度目の対決だったか…」
職務遂行の為、スカーフェイスとはロジャー・セラノの動向を聞き出していると、同時に…奴にはボクシングでは、負けられない!
1人の男として!!
※※※
デーモスクラトスでは、ユースティティアの残党がまだ、残っている。
場所はとある開港で、大きな取引がある。
奴らが何をやっているかと言えば、人身売買…それも…今や絶滅に近い《《エルフ族、獣人族》》、70年前に民族浄化を受けた者の末裔がもの珍しいからか、それぞれの自治区から、子供を誘拐し、高値で金持ちに売買されている。
聞いているだけで…腹が立つ話だ、奴隷制度など全盛期だった、70年前とは違う!
自由と無法を履き違える馬鹿には法の裁きを!
港で、エルフ族、獣人族が枷を嵌められて、船に乗せられようとしている。
現場は抑えた!、俺が「突撃!!」と言った瞬間、無数の警官隊が船に突撃し奴隷商人達を取り押さえる。
「いいか!!奴隷達は自治区へ戻すよう、保護しろ、奴隷商人は抵抗するようなら、発砲も許可する!!」
無数のパトカーに囲まれ、逃げ場を失った奴隷商人達は、ただ慌てて逃げようとしていた。
俺はその1人を拳銃を使うまでもなく、拳でボディブローを食らわせて悶絶させると、「貴様ら、不逞の輩は少なくとも…この国では、まともに生きていけないようにしてやる!!」
※※※
俺は…過去を思い出していた、優しかったハーフエルフの母、同じくらい優しかった白人の父、そんな俺には、ハーフエルフやエルフ特有の長い耳はなく、人間と同じだった。
この国…いや、両国とも、70年前、戦争時にエルフ、ハーフエルフ、獣人族は迫害の対象になり、《《民族浄化》》まで行なわれ、その存在は過去の者となっていった。
生き延びた者は、かなり少数派でそれぞれ自治区を作り、ひっそりと生きていた。
商人だった父は、エルフやハーフエルフの自治区で商売してた所、ハーフエルフだった母に一目惚れし、求婚したという。
母は戸惑ったらしいが、父の誠実な性格に惹かれ、結婚まで行き、俺が生まれた。
自治区での生活は幸せだった、父は仕入れた商品を上手く売り捌き、自治区での必要なライフラインまでの存在に、母はそんな父を支え、一家は幸せの絶頂だった。
所が…幸せはある日崩れた、自治区にユースティティアが現れ、女、子供を攫い、奴隷商人に売りつけるという非人道的な行いをやって来たのだ。
母もその対象で、連れ去れそうになった所を父が反抗し、売り物にあった銃を皆に配り、ユースティティアに抵抗したが…ユースティティアの連中も怯まず銃で撃ち合いになった。
だが、エルフ、ハーフエルフ族は、撃ち合いには強く劣勢になった連中は、その場で諦めたのか…退散した。
然し、この事件で父は撃ち合いで、亡くなった。
母は無事だったが、その日から廃人のようになり、数年後、亡くなった。
それから、20年…こうやって奴らを捕まえ、監獄に収監させる事は、俺にとって何よりの愉悦となり、それ以外、射撃やボクシングは、俺に芽生えた狂気を抑える趣味としてやって来た。
射撃の上手さは、母の血縁からだろうか…署内での大会でも優勝の常連になっていた。
ボクシングでの試合も、これまで負けなし…
だが、俺の前に立ちはだかる男…スカーフェイス…以前は勝てたが、今回はどうだろうか…いや、今は、そんな事はいい。
※※※
パトカーには、奴隷商人と被害者であるエルフ、獣人達を乗せて、彼らの身元を割り出し、自治区へ送り出さねば…そんな事を考えていると、突如、パンッと乾いた音がする。
「誰だ!!貴様ぁ!?」
撃って来たのは、ピエロの格好をした男だった、そいつは「お兄さん♡遊ぼ!」と言いながら、手持ちのライフル銃で撃って来やがった!!




