試合、決着
―――第3ラウンド開始。
――――カーン!!
ゴングが鳴り、互いに、サークリングしジャブを出しあいながら、出方を伺っている。
ジョー・ハットンが、素早く近づき、連打をサミエルさんに浴びせるも、それを巧みなボディワークでサミエルさんは躱し、一旦、離れたところで、いきなりのノーモーションの右ストレートを放つ。
だが、ハットンはそれを間一髪、避け、前進し、クリンチに持ち込む。
互いにクリンチ状態の至近距離から、右ボディ、左アッパー等を出し合い、勝負を譲らない。
レフェリーが、たまらず割って入り、勝負は仕切り直しになる。
サミエルさんは、素早いワン・ツーから右アッパー、左アッパーを突き上げ、ハットンを追い詰めていく。
移動しながら、それを被弾しつつ、負けじと右ストレート、左アッパー、右アッパーで、返すハットン!
――――今回の勝負の分かれ目はここからだった。
ハットンのパンチで止血していた目蓋から血が溢れるサミエルさんがハットンの右アッパーでぐらついた!
そこから、体勢を整え直そうと、パンチを振り回す、サミエルさんにハットンは、左フック、右フック、右アッパーでとどめを刺す。
サミエルさんは、仰向けに倒れ…レフェリーも、その様子から試合続行不能と見なして、試合を止めた!!
勝者は…ジョー・ハットンのTKO勝ちだ。
リングにセコンド、皆で倒れてるサミエルさんに近寄り、安否を確認する。
すると、上体を起こし、「大丈夫…意識はあるから心配しないでくれ」と俺たちに言う。
向こうから、コーナーポストでガッツポーズを取っていた、ジョー・ハットンも駆けつけ、心配そうにサミエルさんに声をかける。
「大丈夫か? 」
「ああ、強烈なアッパーだったぜ、君のパンチは体に響いた」
「そうか…君のパンチも強烈だった…試合の展開が違えば…結果は逆だったかも知れない…」
「俺の事はいいからさ、今夜の試合の勝者は君だ、ハットン…インタビューもあるだろう?」
「ありがとう! 君と戦えたのは、誇りに思う」
『紳士淑女の皆様、今夜の試合の勝者…“無冠の帝王"ジョー・ハットン!!』
リングアナウンサーが高らかに勝者の名を読み上げる。
そして、リングの中には、両陣営の人間の他にインタビューアーも入り、勝者へインタビューを行っている。
『インタビューアーのマルクスです、ハットン選手、勝利おめでとうございます』
『ありがとう』
『どうですか? 試合を振り返って…勝因は何処にあったと思いますか? あと今後の抱負を聞かせて下さい! 』
『正直、勝てたのが、不思議ぐらいだよ…ただ強いてあげるならば、彼の猛攻にも、耐えれるように仕上げた練習のおかげかな…抱負は世界を獲るので応援よろしくお願いします』
『そうですか!改めて勝利おめでとうございます、ありがとうございました』
会場はハットンコールで、大賑わいだ。
そして、こちらにも試合のインタビューアーが来て、サミエルさんにインタビューをする。
『今夜は、残念でした…ご自身の敗因について何か感じることはありますか? 』
『そうですね、彼のコンビネーションは圧倒的でした、それに対策する練習をもっとやっとけば、よかったのかなと思ってます』
『ありがとうございます、エルナンデス選手、それから、道筋…今夜は残念でしたが、今後はどうされますか? 』
『まだ、何も考えられないが…次の試合を組んでもらって、それからまた這い上がって来たい、可能ならば…ハットン選手にリベンジしたいです』
サミエルさん…余程、悔しいだろうな、落ち着いた声だけど、これまでの練習ぶりは俺も見てきたから分かる、今度は俺が、マネージャーとして、次の相手を探すのが、仕事だ。頑張らなきゃ!
そして、インタビューアーも『エルナンデス選手、ありがとうございました、今後に期待したいと思ってます』と締めくくり、インタビューは終わった。
リングから降りて、サミエルさんに「パパーー!!」と泣きながら駆け寄ってくるのは、ラファエル君だ。
そんな泣きじゃくってるラファエル君を抱き抱え、「ごめんな、パパ負けちゃったんだ、ラファエル、許しておくれ」となだめている。
奥さんのローラ夫人もサミエルさんを心配そうに、「あなた…」と駆け寄る。
ラファエル君を片手で抱いた状態で、ローラ夫人をもう片方の手で抱きしめる。
ローラ夫人が「タケシさん、夫は大丈夫なんでしょうか? 」と混乱しているようだ、それもこれから病院に行き、検査をしてもらって分かることだが、俺は「きっと大丈夫ですよ、これから病院に行くし、検査も受けてもらえれば、分かります」
夫人は、「ごめんなさい…気が動転してしまって…さあ、あなた、病院にいきましょ」と腕を引っ張っている。
家族愛を見届け、夫人の言う通り…俺はセコンドと一家を車に乗せて病院へと向かった。
―――スーパーミドル級10回戦 結果―――
勝者
36戦28勝21KO8敗、スーパーミドル級1位、“無冠の帝王"ジョー・ハットン
敗者
30戦18勝12KO9敗3引き分け、スーパーミドル級4位、“リングの狂える戦士"サミエル・エルナンデス改め…クレイジー・サミエル
※※※
病院で、脳検査をした所、特に異常はないそうだ。
結果にローラ夫人もホッと一息つき、ラファエル君は「パパ、大丈夫なんだね!」と喜んでいた。
スカーフェイスやヤンさん、ブレンダンさんも結果に落ち着いた様子でいる。
「しかし、あいつ強かったな…」
スカーフェイスがぽつり呟く、俺はスカーフェイスに、もしかして…「戦いたい?」と聞くと、「違う、あれだけ強ければ、あの男にも勝てるだろうなぁ…って思ってさ」
「あの男? 」
「ジェームス・ロビンソン、俺が目指す相手だ!」
そうだよな、スカーフェイスにも目指す相手がいるんだったな…
「今度は、ロビンソンじゃなくて、コーベット警部だよ、勝たなきゃね」
「当然、今度は返り討ちにしてやるさ」
スカーフェイスは、拳をパンっと手の平にぶつけ、意気込みを言う。
その調子だ!
それにしても…俺は、段々とこの世界に馴染んでいるが、あのフィクサーとか言う爺さんには、また会えるんだろうか…俺は俺で、元の世界にも未練はあるんだ。
何処かに手がかりがあれば、いいんだが…。




