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白野武の奮闘

試合当日、俺、白野武は、恐るべきものを目撃した。


……それは、試合会場を埋め尽くす観客の中、スカーフェイスの仇でもあるロジャー・セラノがいたんだ。

しかも…ジョー・ハットン側を応援する横断幕を持って会場入りしてたんだ。

今、現在、19時、前座の試合が終わる前には、主催者に取り繋いで、彼らを出入り禁止にしてもらおうと、会場を駆け巡る。

主催者は、ドン・フレジャー…歳は70過ぎの背が高く190センチ近い、髪を立てた独特な髪型をしている黒人の爺さんだ。

走り回ること20分、会場の端で立っていたドン・フレジャーを見つけ、交渉する。


「フレジャーさん、ご無沙汰してます!」


「んっ、君は、サミエルの所のマネージャーだね、どうしたんだね、そんなに息を切らしてまで、私を探してたんだい? 」


「実は…白人至上主義者、もとい、反社会的勢力、元ユースティティア幹部ロジャー・セラノが観客として入場してます、彼らを出入り禁止にするべきです」


「? でも、彼等は金を払って入場している、立派なお客様だよ、それを出入り禁止ってのは、横暴だとは思わないかい? 」


「思いません! 彼らのやっている運動は、貴方方、黒人、僕ら黄色人に、とって有害なものでしかない」


「どんな主義主張を持つことも、この国では禁止されてないだろう、金を持っている以上、彼等は客だ、出入り禁止はしない」


クソー、このじいさん、取り付く島もないじゃないか…

俺が交渉に手間取っていると、「おーい」とスカーフェイスとサミエルがやって来た。

どうやら、途中でいなくなっていた俺を探しに来てたらしい。


「何処にいるかと思えば、こんな所にいるとは…何してるんだよ」


「スカーフェイス、サミエルさん…ロジャー・セラノが来ています」


「ロジャーが!? あの野郎ぬけぬけと…それでどうするつもりだ」


「主催者である、このドン・フレジャーさんに出入り禁止にしてもらおうと、交渉していたんだが…」


「上手くいかないと」


俺は首を縦に振る。

そう言えば…このドン・フレジャーは、金にとことん執着する拝金主義者って有名とか聞いてたな…今回の試合もマッチングする為、金額交渉でもやたら、値切るような素振りだったし…こりゃ、相手が悪かったとしか思えなかった。

だが、ここで諦める訳にはいかない、一応、俺は、サミエルさんやスカーフェイスのマネージャーだ!!


「フレジャーさん、お金を払えばどんな人物でもお客様だと申されましたが、あのロジャーという男の素行をご存知ではないわけでしょう? 」


「ああ…知っているとも、デーモスクラトスでは、派手に商売をしてたそうじゃないか」


「そんな男を観客として受け入れると、なると…フレジャーさん、今後の興行にケチがつきますよ、『あのドン・フレジャーはロジャー・セラノを観客として迎えいれた』ってね」


「評判など関係ない、私は強い選手を強い選手をマッチさせる! それが私の仕事だ! いくら、人種差別主義者とて、それが客なら私は…」


「『私なら客として迎えいれる』ですか? 」

その場に、現れたのは、何と…対戦相手のジョー・ハットンだった。

もう一人、マネージャーだろうか? 引き連れて。


「一言、挨拶しに来たのですが…まあ、酷いもんですな、私は、貴方がそんな態度ならボイコットしますよ」


何と…思いがけない言葉に、ドン・フレジャーが固まる。


「ボイコットだと、そんな事してみろ、この試合にかかった莫大な違約金を払ってもらうぞ」


ジョー・ハットンは、その脅しに屈せず、フレジャーに、詰め寄った。


「脅しですか? それでもいいですよ、私はね、うんざりしてるんですよ、こう…そこにいるサミエル・エルナンデスと、黒人対白人至上主義者の代理戦争のアイコンにされてるのがね、私が試合をするのは、サミエル・エルナンデス個人とです、決して、ロジャー・セラノのような連中の狼藉者の為ではない」


白人である、ジョー・ハットンが言い切ると、ドン・フレジャーはサミエルの方を向き、「君もそうなのかね? 」と言うと、「私もハットンとは、個人として…ロジャーの商売に肩入れするような事はしたくない」


両選手の主張が、フレジャーに届いたのか、その場しのぎの体裁なのか、分からない、分からないが、フレジャーの口から「分かった…ロジャー・セラノ氏には会場を出ていってもらう、これでいいだろう」


ドン・フレジャー氏は、今の事を指示する為に、会場警備員に連絡するとのことだった。

ともあれ、余計な邪魔者を排除出来たのは、マネージャーとして仕事はこなせたかな? いや、驕ってはいけない、フレジャー氏を動かしたのは、ジョー・ハットン、サミエル・エルナンデスの両選手の言葉だ。

所詮、俺など何の力になってないと自嘲気味になっていると、ジョー・ハットンが「君はいいマネージャーを雇っているね、サミエル」と言ってきた。


「まあな、ここでタケシが、フレジャーと交渉してなければ、ロジャーは会場で満喫しながら、君を自分とこの宗教の《《イコン》》として利用してただろう、SMSで拡散しながらね」


ジョー・ハットンは引き連れている、マネージャーに「ジョージ、君も見習いなさい、あれぐらい出来なくては、この業界では生きていけないぞ」と言い、それにジョージと呼ばれた白人のマネージャー「はい、参考になりました」とキラキラした表情で、俺を見る。


何だか…照れ臭いじゃないか…大した事やってないのにさ。

そして、ハットンは、サミエルに握手を求めた。


「いい試合をやろう…全力でな」


「ああ、君とはいい殴り合いが出来そうだ、全力でね」


互いに握手し、試合への抱負を述べて、その場から互いに控え室へ戻っていく。

前座の試合も、どんどん終わり、この気高い2人のボクサーの激突は近くなった。

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