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試合前日、レストランで

ホテルのレストランで、エルナンデス一家と食事をする事になったのだが、途中、マネージャーのタケシ、トレーナーのブレンダン、影が薄いメディカルトレーナー、ヤンも加わり、7人でレストランで食事を取る事になった。

ウェイターに案内された大きなテーブルの席に案内され、7人全員座る。


「大きなテーブルだねーー、もっと座れそう!」


ラファエル君は大はしゃぎで、そう言い、早速、メニュー表を持って注文する料理を選ぶ。

その様子が微笑ましかったのか、ローラ夫人は、ニコニコしている。


「僕は、お子様ランチAにする! ママ、パパは? 」


「ほら、ラファエル、みんなもお腹空かせてるんだから!、みんなの分も聞かなきゃ」


ローラ夫人がラファエル君を嗜めているが、俺、タケシ、ブレンダン、ヤンはサミエルから選んでいいですと答える。

減量疲れで、真っ先に食事にありつきたいのは、サミエルだろうしな。


「じゃあ、お言葉に甘えて…牛肉のステーキのレアで…ライス付きで」


「そう…じゃあ皆さんは、どれにします?」


ローラ夫人がメニュー表を俺に渡すと、俺はスパゲッティを頼み、タケシはざる蕎麦、ブレンダンは、カルボナーラ、ヤンは麻婆豆腐を頼み、最後にローラ夫人は「私も夫と同じ物を頼むわ」とそれぞれ、注文するメニューは、決まった。

ウェイターに注文を頼むと、「かしこまりました! あのサミエルさん…あとでサインを…」とサミエルにお願いすると、「良いよ、色紙なりペンがあれば、いつでも書くよ」と快く快諾した。


レストランは繁盛してるようで、大勢の客でごった返しており、俺達がスムーズに入れたのが、幸運だったとしか思えなかった。

そして、20分後、ウェイターが料理をサービスワゴンに料理を載せて持ってきた。


「美味しそう!」


開口一番、ラファエル君の口から出た言葉だった。

サミエルが祈るように、手を合わせ「神に感謝を!」と唱えると、みんなで「神に感謝を!」と釣られるように、言った。


「サミエルさん、以前はただ合掌して、食事してたのに、今回は…何で『神に感謝を』なんて、言ったんですか? それってマナーなんですか? それとも何か宗教に入ってるんですか? 」


タケシは、怒涛の勢いで質問してくる。

ステーキを一切れ口に運び、咀嚼し食べた、サミエルは「ああ、それはだね、両方さ、一応ね、私達の宗教…アドナイ教と言って…もう4000年前からあるんだよ、僕は黒人だけど、母が白人でね、よくマナーとか常識とかをアドナイ教を通じて学ぶんだ…以前は《《あれ》》だったじゃない、あんな騒ぎに一々、『神に感謝を』とか言ってる場合じゃないさ」


「何ていうか…寛容なんですね、もっと厳格なものと思ってました」


タケシは蕎麦を啜りながら、サミエルにそう言った。


「あはは、タケシ、君は本当に別の世界から来たみたいだね、本来なら…ガウダマ教とかイェーシュア教とかあって、それぞれ、みんな、本当に自由に信奉してたものさ、まあ、原理主義者みたいな『厳格に守らなければいかん』みたいな人もいるけれど、そういった人は少数派さ…そんな中、最近、問題視されてるのが…」


「新興宗教ですね! 」


タケシは間髪入れず言った。


「そう、70年前の内部戦争で、別れた2国にそれまで、信じてた宗教から乗りかえる人が続出したんだよね、内部戦争だから、そりゃ国内は非道い状態で、縋る宗教も役に立たない…そんな時、生まれたのが…マフィア…ユースティティアであり、パトリオット・アセンブリだったりするわけだ」


「あの…」


ここで、影が薄いヤン・メディカルトレーナーが口を開いた。


「実は僕の両親…も…ユースティティアの宗教に入信してたんです」


「ええ…そうなんですか? ヤンさん」


タケシが驚いてた! いや、みんな、驚いていた…無邪気に食事を楽しんでるラファエル君以外は。


「僕は今、40歳なんですけど丁度、両親の生まれが国境の激戦区だったらしくて、それはもう…言葉に表せないぐらい…餓死やら爆撃やらで、仰る通り、縋るものが無かったんでしょうね、ユースティティアの宗教に助けて貰ったとか…食事も住居も衣服まで用意してくれたらしいです」


中々、ハードな話だ…それにしても、聞いていて、ユースティティアが人助けをしてるのが、不思議なくらいだ。


「その話しワシもちょっといいかな? 」


ブレンダンが話に乗ってきた。


「ワシもダマトも戦中生まれでな、当時15歳くらいでな、サミエルの言う通り、あの酷い時代で、教育受けた者としては、常に国や扇動者を疑っていかないと、また、70年前の悲劇が繰り返されるんじゃないかと、ヒヤヒヤしているんじゃ」


「ブレンダンさんは、その時代は間違っていたと? 」


タケシの言葉にブレンダンは、「正しかった時代があったなんて幻想に過ぎないと…サミエルやガッティ君と話してて思ったよ、我々の世代は、東側が正しい! 西側が間違っていると愛国心を持つようにと、教育を受けて来たから一層思うよ」


「そうですか…所でスカーフェイスは、何処か入信してたのか? 」


「俺は特には…ああ、孤児院いたときは、ガウダマ教だったかな! よく心経を読まされたよ、サボったりしてたけれどな!」


俺がとぼけたフリをすると、ローラ夫人が笑っている。

何でだろうと思って聞くと、「スカーフェイスさん、孤児院はイェーシュア教が基本よ、貴方、変わり者だわ」


夫人にトボけたのが、バレちゃったので、本当は特に何も入信してないんですと、返すと、「あらぁ、そうなのね…」と可哀想な目で見られた。

ともあれ、レストランでの食事にも満足し、サミエルも体から元気なのが、伝わって来た。

明日の試合に勝つのが、サミエルだと思いたい。


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