あの男、再び
20日後、サミエルの練習は、いよいよ大詰めにかかっていた。
あと10日後に試合があるからか、普段の紳士さから、人間本来持っている野生が垣間見える。
対戦相手はスーパーミドル級1位、ジョー・ハットン、戦績35戦27勝20KO8敗、身長185センチ、リーチ190センチ、年齢は36歳の古豪の選手で、対しサミエルはスーパーミドル級4位で身長は182センチ、リーチ185センチ、30戦18勝12KO9敗3引き分けの現在34歳でお互いに、次の王者挑戦権をかけた試合だ。
「スカーフェイス…スパーリングパートナー頼めるか? 」
「いいですよ」
汗を流す為に、ストーブを焚いてるジムで汗は滝のように出る。
スパーリングも以前よりか、サミエルは動きが良くなっている感じがする。
4ラウンドのスパーリングもこなして、俺とサミエルは喉を潤す為、清涼飲料水を飲む。
「プハー、美味い!」
「そうだな」
「次の対戦相手、勝てそう? 」
「それは、やってみないと分からんが…相手はジャブの名手だ、高速で手数も打ってくる…」
「サミエルだって、ジャブは1級品だぜ、俺が保証するよ」
「ありがとう、だけど…本当に勝てるか…」
不安がる、サミエルに俺は元気づけようと、ジム内に設置されてる冷蔵庫から、特製のジュースをコップに注ぎ、それを渡す。
「何だ、これは? ニンニクが入ってないか、匂いが強烈だな」
ニンニク、人参、かぼちゃ、オレンジ、後は滋養強壮に色々入れた俺、特製のジュースだ。
「飲めば、元気になるよ!」
「本当かい? でもなぁ…まあいい、騙されたっと思って、飲んでみるよ」
サミエルは一気に飲み干し、なんとも言えない表情をしている。
「どうだい、特製ジュース」
「ま、まあ、飲めなくはないが…うん、何だか元気になった感じはする」
元気づけた? 所で、次の練習メニューに取り掛かる為、立ち上がると、ジムの主、ブレンダンが入ってくる。
「暑いな、どうだ? サミエル、練習は順調か? 」
「はい、おかげ様で」
「そうか…後で、いいから応接間に来てくれ、お前に会いたい人が来てるんだ、スカーフェイスもだ 」
「俺も? 」
「特に会いたがっている、名前はアレキサンダー・ガッティだったかな? 」
「ガッティが! 」
ユースティティアを追っていたジャーナリストだったな、何かあったんだろうか?
―――それから、練習メニューをこなした俺たちは、シャワー浴びて、さっぱりしてからジムの応接間に赴いた。
「よう、久し振りだね、スカーフェイス君、サミエルも!」
応接間のソファに寛いでいる、ガッティから話し掛けられる。
「君が、ここにいるって事は…何かあったのかい」
ガッティはソファの前に置かれた、コップの水を飲み干し、少し間を置くと口を開く。
「…ああ、スカーフェイス君、驚かないで聞いてくれ、あの《《ロジャー・セラノ》》についての事なんだが…彼が収監されてる刑務所から脱走した」
「何だと!?」
ユースティティアの事実上のトップだった、奴が脱走した…その事が意味することは…ユースティティアの復活に他ならない。
「奴は、何処へ!?」
「足取りまでは…だけど、想像はつく、この国へ来てると思う」
「ズィクタトリアに来てるのか!」
あの男…今度は、何を企んでいるのか…。
俺は拳をギュッと握り締め、爪が食込み、血が少し、滴り落ちる。
サミエルがガッティに「陸路を使って入って来たんだろなぁ…手引をしたのは、パトリオット・アセンブリの連中じゃないのか」と質問すると、「多分ね…連中は最悪な男をこの国に呼び込んでしまった…まあ、確定したわけではないけど…この国の大統領、バーノン・ルイスも暗黙の了承で入国を許可するはずだし…不味い事になってるのは確かだね」
「ガッティ…奴はこの国来てたら、何をすると思う? 」
「そうだね、取り敢えず宗教法人でも興すんじゃないかな、彼は極悪人だが…カリスマ性もある、今の解体されたユースティティアで散り散りになった連中をかき集めて、新しい形で組織を作ると思う」
確かに…今の解体されたユースティティアで散り散りになった連中を全員、把握してる訳じゃない、確か、この間ジムに来訪したアザレアよれば、何とか穏健派、アザレア派の60万人は、何とか社会に復帰させる事が出来たとか…残りのロジャー派150万人は、それぞれロジャーのカリスマ性に惹かれた連中ばかりだそうで、アザレアの指示も聞かないそうだ。
電話で、マイケル・ヨルダン検事とも話したが、社会復帰には難航してると聞いた。
「あの野郎だけは…あいつだけは…許せない、何とかとっ捕まえてデーモスクラトスへ送り返す事は難しいか? 」
「難しいだろうね、2国間はそもそも、険悪で身柄引き渡し条約なんて、出来てないし」
ガッティは溜め息つきながら言った。
「ならば…俺が直接、捕まえて…」
「やめたほうがいい、恐らく、この件にはパトリオット・アセンブリも関わっている、連中の工作や暗躍を甘くみない方がいい」
サミエルが、俺の肩に手を置き、諭すように言うが…それで、納得出来る俺じゃない!
「教えてくれ、ガッティ! 奴は、奴は…推測でもいい何処にいるか教えてくれ」
「行ってどうするんだい! 彼らの危険さは、君が1番分かってる筈だ」
それでも…それでも! マークの仇をみすみす見逃す程、人間出来ちゃいねぇ。
「ふーー!分かったよ、場所は首都アイデアルの隣の州カドーだ」
「ガッティ!!」
サミエルはガッティが教えた事、それに怒っている。
「今更、止められないだろう、それに助力になるか知れないが俺も同行する…サミエルは君は試合が近い、同行は無しだ!」
「それは出来ない、スカーフェイスは友人だ、俺も行く」
こうして…3人でロジャー・セラノがいるカドー州へ行くことになった。




