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サミエル・エルナンデス

翌日、俺とタケシは、ズィクタトリアへ戻った。

3ヶ月後…の試合の為、ブレンダンジムで他のプロの人間とスパーリングを重ねていた。

今、スパーしてるのは、階級が1つ上…スーパーミドル級の選手…名前をサミエル・エルナンデス…通称クレイジー・サミエルという選手だった。

白人と黒人のハーフで、肌は色黒なナイスガイだ。

身長は182センチ、30戦18勝12KO9敗3引き分けで、現在34歳、デビュー当時から、狂ったような戦いぶりから、クレイジーと呼ばれたんだとか。

この人も1ヶ月後に試合を控えてる。

スパーリングが終わり、サミエルから話しかけられ、「スカーフェイス…君はもっと体幹を鍛えるべきだね、パンチに身体を持っていかれてる」とアドバイスをくれた。

試合のリングを降りた彼は極めて紳士的で、同一人物かと皆が疑うらしいが…今、スパーリングをした中では、彼の狂気とやらには、まだ対面してない。


「しかし、スカーフェイス、君も無茶をするね、昨日のコンサートで爆弾魔を取り押さえたんだって? しかも、その犯人を丁度、君の試合の時期に被る3ヶ月後に身元引受人として、いくんだから中々、お人好しというか…」


バレてる!?


近くにいるタケシに目配せすると、「マネージャーが選手の状況を知らんのは不味いだろ、コーベット警部から聞いたんだよ」と事の経緯まで、タケシは知っているみたいだ。

アーロン・ウィプマンをマネージャーに加えるまで余計な誤解も生みそうだし、内緒にしておこうと思ってたんだが…タケシには筒抜けだった。


「まあ、タケシの行動は正しいよ」


サミエルは言った。


「まあ、そうだな…マネージャーに伝えてなかったのは、俺のミスだったよ」


それに、タケシが「分かればよろしい、マネージャーとしては、怒ってるんだよ、勝手な行動は駄目だ…だけど、スカーフェイスも言いづらかったのも事実だし、特にこれと言って、お咎めはしないよ」


「サンキュー、タケシ…今晩、何か奢る」


「おっ、気前がいいね、よし…ご馳走様になろうかな」


「その席に私も加わってもいいかい? 」


サミエルが話に乗っかてくる。


「流石に…2人分は…」


ケチな俺が渋ると、「自分の分は自分で出すさ…それより何処でディナーするんだい? 」

「アレクッスていうレストランを見つけたんだよ、そこで食事しよう」


タケシが自前のメモ帳を見て、提案するんで、俺もサミエルもそれに同意する。


「あと…2人に聞きたいんだが、妻と息子も同席してもいいかな」


「「いいよ!」」


俺とタケシは2つ返事で了承した。


※※※


夕方、日が暮れる頃、レストラン、アレクッスへ、タケシと車で向かい駐車場に停めて、レストランの前でサミエル一家が来るのを待っていた。


「なあ、タケシ…サミエルの奥さんと息子ってどんな人達なんだろ? 」


「ああ、奥さんは名前はローラ・エルナンデスさんで白人のべっぴんさんで息子の方は、ラファエル・エルナンデスって言って、元気な男の子だよ」


「タケシ…お前何でも知っているな…」


まさか、選手の家族の事まで知っているとは…。


「いや、お前がいない時に、ジムへ挨拶に来てたんだよ」


「そうなのか!」


「ああ、サミエルさんも1ヶ月後、試合控えてるのをお前も知っているだろう、お前が外へランニングしてる間来てさ、『夫の調子はどうですか?』ってな、息子のラファエル君も『父ちゃん、次の試合で勝てるよね!』って2人共心配してたな…」


そうなのか…知らなかった。

タケシと話して、そうこうしてる内に1台の車がレストランの駐車場へ入ってきた。

車から現れたのは、普段着を着てるサミエルと綺麗な奥さんと元気に車を降りた、エルナンデス一家だ。


「こんばんは、タケシさん、スカーフェイスさん」


「こんばんは、お兄ちゃん達!」


「こんばんは、はじめまして、スカーフェイスです」


「こんばんは、ローラさん、ラファエル君、さっ、全員揃ったし…レストランへ行こう」


全員揃った所で、レストランへ入っていく。

シャンデリアが照らす店内はお洒落な雰囲気を醸し出して、俺はいつか…アムールと一緒に行きたいなぁと心の中で思っていた。


「お客様!5名様でしょうか? 」


「そうです、席は空いてるかな? 」


「はい、空いております、こちらへどうぞ」


タケシがウェイターに聞き、案内されたのは、大きな円形のテーブルだ。

それぞれ、席に座り、メニュー表を渡され、ウェイターは「ご注文決まりましたら、お呼び下さい」とその場を離れ、別の席へ注文を受けていた。


「さあ、どれにする? 」


サミエルが聞くとラファエル君は「ハンバーグ」と育ち盛り特有のガッツリしたものを選んだ。

「私は、この温かいカボチャのスープていうので、ローラは? 」


「このスモークサーモンとキャビアオセトラかな、皆様は決まりましたか?」


ローラ夫人に聞かれ俺は「じゃあ…俺はこの仔羊肉のグリルと自家製パンってのにします」


「同じ奴を俺も頼みましょうかね、すみませーーん!!」


ウェイターを呼ぶと、それぞれが選んだ注文を頼む。


「かしこまりました、あと、作るのにお時間かかりますので待ってもらえますか? 」


サミエルが「いいですよ」と言うとウェイターは下がり、別の席へと再びいった。


「忙しそうね…繁盛してるのかしら」


ローラ夫人は辺りを見渡している。


「そうですね、この辺だと結構な有名な人気店らしいですよ」


タケシはメモ帳を見ながら、ローラ夫人に言った。


20分ぐらい待っただろうか…以外と早く注文の料理がテーブルに置かれた。

さて、食事にありつこうとした時に、嫌な感じがした。

1人のスーツ姿の白人の男が、タケシに近づき、「おい、モンキーがこの気取った店で飯を食ってるぜ、おい、モンキー美味しいか!」


既視感がある光景に俺はため息をつく、男は酔ってるらしく、誰彼かまわず、絡みそうな雰囲気だった。


タケシは「皆さん、無視しときましょ、大した事ないですから…」


すると、男は調子づき、「驚いた!モンキーが俺を無視するだってよ、ちょっとよ、調子こいてんじゃねぇぞ、この猿もどきが!」

男の悪態にイライラした俺は、男に文句を言おうと席を立つ。


「おい、人の事、モンキーだの言っといて悪びれないその態度…お前の方こそ猿みたいだな、人間としての知能は酒と一緒に吹き飛んだか? おっ!?」


喧嘩になりそうな雰囲気にサミエルが、席を立ち男の前に立った。


「何じゃ、お前もあの猿を庇うんか…余程…って、あ、あんたは!?」


サミエルの顔を見るなり、男はレストランから逃げ、そのまま外へ出ていった。

ローラ夫人はふぅと一息つき、ラファエル君は「父ちゃんカッコいい」と無邪気に笑っていた。


「サミエルさん、ありがとう」


タケシはお礼を言うと、サミエルは「礼には及ばないと」っと言う。

「あの男、サミエルの顔を見て逃げたけど、何かあったの? 」


「さあ、クレイジー・サミエルの名もリング以外でも広まったのかな」


サミエル・エルナンデス、俺も人の事は言えないが…謎の人だ。

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